グラス・スティエットとコーラル・スティエット。~俺、器用貧乏なんですよ。外伝~

さんまぐ

グラス・スティエットの章・前編。

第1話 ツギハギ。

そこは一面の血の海だった。

腐臭と血の臭い。

人の残骸、人だったモノのカケラ達。


そんなものがレイザー領の端に建っていた館の地下室にあった。


そして地下最深部にはツギハギになった人間がいた。

見た目は目鼻立ちも整っていて手足もスラッと長い人間。


だがそのツギハギはもはや人間では無かった。

低く唸ると身悶えをしながら苦しんでいる。


拒絶反応。


無理矢理ツギハギされてしまって腕が足を、足が胸を、胸が顔を、鼻が耳を、口が髪を、髪が全身を拒絶している。


今のマ・イードでは珍しくない。

ツギハギは口と両手を真っ赤にしている。


これが血の臭いの原因。


ツギハギは製作者と自分を生み出す資金を提供していた女貴族を噛み殺し引きちぎっていた。


ツギハギは地下最深部に訪れた深い桃色をした髪色の女性を見て身体を震わせる。


拒絶反応。

女性はツギハギの目を見て息を呑む。

助け出したかった少女の目と同じ、綺麗なレモンイエロー色だった。


女性は白銀のレイピアを何処からか取り出すと、「貴方を助けます。その苦しみから救い出します!」と涙ながらに言ってレイピアを向ける。


レイピアにはよく見ると羽根のような装飾と色とりどりの宝石で彩られていた。


「身体強化!」

女性はツギハギの攻撃をかわして懐に入り込むと一気に胸に向かってレイピアを突き立てて「奪術術!!」と叫ぶとツギハギは動かなくなり絶命をした。


女性は水の術で地下室の血溜まりを洗い流すとツギハギを横たわらせて辺りを探す。


隣の部屋には19もの死体が散乱していた。

腕のない死体、脚のない死体。

さまざまな死体がある。


中にはパーツ取りを考えてやめた死体だろう。ただ無作為に切り刻まれていた。


その全てをきちんと1人ずつツギハギの隣に並べていく。


そして目を取られた少女の死体。

女性が探していた死体を見つけ出した。


6体の死体には飾り気も何もない一枚板から出来た腕輪がついていた。


「腕輪…、取り返せた」

女性は腕輪をしまうと並べた遺体達に手を合わせて外に出る。

外には館をぐるりと囲む騎士達が待機していた。


女性は隊長の男に「中には…20のご遺体と2つの死体。身元がわかればお連れして、わからないものは埋葬をお願いします」と指示をすると男は暗い表情で「…お探しの方は?」と聞く。


「腕輪は6、…ミッシン…は居ました」

女性は声を振るわせながら言うと隊長の男は「ご冥福をお祈りします」と言って頭を下げた。


「ありがとう。あとはお任せします」

女性はそう言うとその場から消えた。




女性が現れたのは王都だった。

王城の前に着き「兄様、お願い」と言うと次の瞬間には黒髪の青年が現れる。


黒髪の青年は優しい声で「お疲れ様、グラス」と声をかけると深い桃色の髪色をした女性、グラス・サルバンは「オブシダン兄様!」と言い、涙ながらに兄オブシダン・サルバンに抱きついた。


必死に声を殺して泣くグラスにオブシダンは「見ていたよ。ミッシンの事は残念だった」と言うとグラスは何べんも「兄様!」と言いながら泣く。


暫くして「先に腕輪の事もあるからご報告しよう」と言ったオブシダンに連れられて謁見の間に赴き、グラスは目の前にいる現トーシュ王、トートイ・トーシュ・マイードに挨拶をする。


「グラス・スティエット、戻りました」


グラスがスティエットを名乗るとオブシダンの顔はこわばったがすぐに表情を戻して恭しく「オブシダン・サルバン、参りました」と挨拶をした。


「報告を聞こう。不義を恐れて臣下達は全て下げてある。念のためにチャズ家、アンチ家、リミール家、ディヴァント家、モブロン家、カラーガ家、ドデモ家達も下げている」

「はい。密告通りレイザー領にて魔術師が生み出していたツギハギを倒しました。そして館の中で確保できたミチトお爺様の腕輪は6、ツギハギの被害者達はツギハギを含め20でした」


暗い空気の中、トートイは「ご苦労、その中にはサルバンの…」と聞くと最後まで聞く前にグラスは「はい。サルバン孤児院から攫われたミッシン・トウテも居ました」と言った。


「辛かったな」

「はい。救えませんでした」


「嘆かわしい話だ」

そう言ってトートイが取り出したのは一枚の布だった。


それはかつてミチトが妻アクィが母親から貰っていたウェディングドレスを直した時、残りの妻達と差をつけないためにウェディングドレスを作った時に用意をした魔水晶を混ぜた布だった。


代替わりの時期は大概問題が起きる。

この布はディヴァント領にあるダイモの仕立て屋にあったもので、主人が代替わり時に何も知らされていない新入りが知らない事をいい事に他領の貴族が買い付けてしまっていた。


ミチトの行動は悪く言えば悪目立ちし過ぎていた。

家族にのみこの布は与えられていて、仕立てもディヴァントの仕立て屋でしか扱わせないようにしていた。


そしてこのドレスの特徴は着込むと身体に合わせて布が形を変えてくれること、そして魔術師が術を込めると色が変わる。

デザインさえ飽きなければ何色にでも出来た。


そしてこの布がミチトの作品だけではなく、古代の無限術人間真式、オルドスも用意する事が出来、かつて「自分も作ってみたかった」の言葉で作られた品がトラブルを回避する為にリミール家にある事が判明し、そこにも泥棒が入る事になる。


そして様々なルートで布を手に入れた貴族は術人間を欲した。

そこから全てが始まった。


重鎮のリミール家に泥棒に入るなどあり得ない事だったが今王都は荒れに荒れていた。

かつて治安が悪くなった王都に赴いて不義を暴いて平和を手に入れた反動といえる勢いで荒れていた。


チャズ家やアンチ家、リミール家等のミチトの恩恵にあやかった貴族達はよく言えば正義の貴族としての禊を済ませていてかつての力を持ったまま今を生きていた。


だが不義を働きミチトの手で暴かれて特権を剥奪され当主を降ろされた者達を持つ家の者達はミチトの死後、暫くして暗躍をするようになった。


それはミチトも、当事のトーシュ王、エーライもオルドスも多少の事は起きるだろうと考えていたが、それ以上でミチトが死ぬ前に取り交わした盟約が首を絞める結果となった。

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