第134話 補給2
スコンッ
「はぇ?」
腰を抜かした後藤さんの上に、眉間に深々とメスの突き刺さったゾンビが倒れこむ。
本来なら脳幹を破壊しない限り動きを止めることはできないが、この補給に向けて昨晩メスに聖水を塗布しておいた。
即席なわりにメスの本数が少ないため大量に用意できない欠点はあるが、数体程度のゾンビならこれで充分対処できる。
「えっ? えぇっ? い、いまの谷々君が……?」
メスの投擲を見ていた池田さんが唖然とした顔で僕を見つめる。
長嶋さん、藤島さんは一瞬戸惑った様子をみせたが、すぐに腰を抜かしている後藤さんを両脇に抱え戻ってきた。
「ガキのくせに随分やるじゃないか。……この馬鹿が叫んだせいで奴らが集まってくる。さっさと進むぞ」
戻ってきた長嶋さんが手短に話し、再度警戒しながら先へ進んでいく。
後藤さんはゾンビに倒れ込まれた際血液が服に着いたらしく、嫌そうな顔でそれを電柱に拭っていた。
「……お礼くらい言ったらいいのにね。あいつあんなんでもプライドだけは高いから」
音を立てないように急いで移動する中、藤島さんが耳元で囁いた。
多分松風あたりならドギマギしてまともに話せないくらいの整った顔立ちをしている。
「藤島
藤島さんは一方的に話し終えると、左目でウィンクをして先頭へ移動していく。
その様子は実に様になっていて妖艶な大人の女性の余裕を感じた。
「……君も隅におけないねぇ。いやはや、若いってのはいいもんだ。……しかし、谷々君みかけによらず随分と強いんだね。びっくりしちゃったよ」
藤島さんが去ったのと入れ替わるように池田さんがやってきた。
その顔は興奮しているのか少し紅潮している。
「たいしたもんじゃありませんよ。上手くいってよかったです」
「いやいや、行動に移せただけすごいもんさ。……おじさんなんかほら、まだ震えが止まらないんだから」
ビルの影から影へと移動する中、池田さんは自分の手をじっと見つめる。
「……池田さんには守らなければならないものがあるんです。無茶しないに越したことはないですよ」
「そう言ってくれるかい……。谷々君は強いだけでなく、随分優しいんだね。……ここに来るまでの間色々あったんだろう」
池田さんはまた何事か悟ったような顔をすると、視線を前方に移し先行している長嶋さんの合図を確認した。
「……ついたみたいだね。この大通りを渡れば目的の『ドンキ・ホーテ』だよ」
通りの反対側を確認すると、おなじみの青いペンギンが書かれた看板がでかでかと掲げられている。
騒動が起こってからそんなに時間はたっていないが、すでに建物自体寂れ始めているのが遠目からでもわかった。
先に進んでいく池田さんの後を追い、大通りに止まっている車の影を縫って建物へと向かう。
「……いつも通り5人だ。長嶋のやつもいる。どうする?」
「決まってんだろ。奴らに渡すもんなんざ塵一つねぇよ」
「右に同じ」
「……だよな。じゃぁ、手はず通りにいこう」
第5班が『ドンキ・ホーテ』の内部へ消えていく中、その様子を双眼鏡で確認する影が3つ。
太陽はすでに頂点へ差し掛かり、夏の日差しをアスファルトへと降り注いでいた。
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