第43話 脱出
目標が決まった以上最短最速で校門へ向かう。
幸いなことに、騒動から時間が経ったおかげでグラウンドのゾンビは大した数ではない。
しかし、後ろからはおびただしい量の足音と狂ったような奇声が聞こえる。
エゴで加速しているにも拘らずそう簡単には振り切らせてもらえないようだ。
前方から迫る数体のゾンビをステップで回避し、それでも逃げきれない時は聖水の瓶を投げて対処する。
中身を浴びたゾンビから肉の溶ける音が聞こえるが、もはや殺ったのかどうか一々確認している余裕はない。
そうやってグラウンドの中ほどまで来るとゾンビではない人の声が微かに聞こえた。
声のした方を横目で確認すると屋上の金網にしがみついた一番が必死で叫んでいる。
遠すぎて何を言っているのかわからないが、恐らく心配しているのだろう。
眼下で絶望的な徒競走を見せられては心配するなという方が無理か。
流石に手を振ってこたえる余裕はなくそのまま走り続ける。
……校門までもう少し。
手にした聖水の瓶は残り1本だ。
エゴで強化しているとはいえ体力のほうは無限ではない。
大群の処理を考えなければジリ貧だ。
目の前に迫るゾンビへ対処しつつ、必死で学校近辺の地理を思い浮かべる。
……やるしかないか。
ようやくグラウンドを渡り切り、そのまま校門を飛び出して吉祥寺駅方面へと向かう。
道にもあちこちにゾンビがいる状態だが、片側2車線道路のおかげで突破できないほどの密集地点はない。
車が通らなくなった大通りの真ん中をゾンビの大群を引き連れて走破していく。
もともと道にうろついていた外のゾンビも加わり、もはやモンスタートレイン状態だ。
もう少し……!
五日市街道方面へ道を曲がり、目標を見つける。
しかし、街道はそれまで走り抜けてきた道とは異なり乗り捨てられた車で渋滞していた。
このままでは車の間を通るために減速しなければいけないが。
「緊急事態ということで――っ!」
渋滞で並んでいる車、その最後尾を駆け上がり、先に続く車へ次々飛び移っていく。
さながら因幡の白兎だ。
車に飛び乗るたび足元からベコンという音が聞こたが、緊急事態なので許されると思いたい。
そのまま数十台の車を飛び移り、目的の雑居ビルへ到達した。
いまので少しは距離を空けられたはず、と後ろを確認したが、大群は車の渋滞などものともせず猛然と迫ってきている。
多少ぶつかる程度の痛み等もはや感じていないのだろう。
視線を雑居ビルに戻し脇にある非常階段を一気に駆け上がっていく。
赤く錆び、簡素な作りの鉄階段は走るたびにカンカンと甲高い音をたてた。
その音は徐々に増幅され、すぐ後ろ、そして通り過ぎてきた階下から暴力的についてくる。
ここまで走り通し、さらに7階分の階段を駆け上がった足は限界が近かった。
激しく熱を帯びたような太ももが今すぐ止まってくれと悲鳴をあげている。
そんな足に鞭打って階段を登り切り屋上の鉄扉に体当たりした。
ここの扉はいつも施錠されていないため、錆びて多少の抵抗はあるがすんなりと開く。
飛び出した屋上は左右に給水塔や空調のダクトが伸びている以外何もない空間だ。
四方20mほどの屋上を速度を緩めずにむしろ加速させて走り抜ける。
限界を超えた足がビキビキと不穏な音を立てた。
しかし、それに構うことなくトップスピードのままダクトへ飛び乗り、そのまま
本来の自分の力では到底不可能だ。
しかし、《
賭けのような手段だがもうこれしかない。
手に残っていた最後の聖水を後方へ投げる。
少し後ろで瓶の割れる音、ゾンビの断末魔、肉の焼ける音が断続的に聞こえてきた。
そしてその音が聞こえると同時に、屋上の端へ続いていたダクトを思い切り蹴って空中へ飛び出す。
ビル7階分の高さから飛び出した体が都会の空に
周りのすべてがスローに見える中、意識は隣の屋上、その
届け――っ
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