第42話 屋上・サバイバル・デッド14


激しいベルの音は真後ろで鳴り続けている。

急いで振り返り確認するが、部屋の中に音の出どころになるような物はない。


外か――っ


一足飛びで出口へ向かいドアを開けると、足元でさっきまで部屋の中にあった目覚まし時計がけたたましい音で鳴り響いている。


すぐに拾い上げてストップボタンを押す。

それでベルの音は鳴り止んだが……遅かった。


「「「ゔぁああぁあああ!!!!」」」


職員室に誘導しておいたゾンビ、それに音が聞こえてしまった他の教室のゾンビが廊下の奥から大挙して押し寄せてくる。


狂ったように奇声をあげ一直線に走り寄ってくるゾンビは真っ黒な津波のようで、そのおぞましさは生理的な嫌悪感をかきたてた。


これは辛いな。


部屋の中へ視線を戻すと、教頭が保管庫の扉を閉めるところだった。


カチャン


という軽い音。

恐らく内鍵を閉めたのだろう。


やられた……。


ここまでする以上、教頭はここで僕を殺す気だ。

戻ってドアの前で押し問答していたら間違いなく喰われる。


前しかないか。



「《一激いちげき》」


エゴを呟き、ゾンビの群れへ全速力で突撃していく。


強化された身体能力により極限まで加速したスピードで廊下を駆け抜ける。

ズダダダダッ、という断続的な足音が辺りに響いた。


みるみるうちに群れと距離が縮まる。

腐乱した死体の目はあらぬ方向を向き、貪欲な食欲が血管の浮き出た腕を闇雲に振り回させている。


先頭を走ってくるゾンビまで、残り6mほど。


僕を獲物として捉えたゾンビが歯をガチガチと打ち鳴らす。

顔を喰われているそのゾンビは頬の肉が削げ落ち奥歯まであらわになっていた。


そんな顔の様子まで詳細にわかる距離。

あと数歩進めばゾンビの腕が届く、そんなギリギリの場所。


ここまでゾンビより辿り着く必要があった。


前傾姿勢で走っていた体を思い切りひねり、扉の開いていた保健室へ頭から飛び込む。


後ろで急激な動きについてこれなかったゾンビが将棋倒しになっているが全く安心できない。

後続のゾンビがすぐにこの保健室へなだれ込んでくるはずだ。


走りながら部屋の中にあった椅子を掴み思いきり窓へ投げつける。


ガシャン!!


と大きな音が鳴り、窓ガラスが派手に割れた。


手前にあるベットから掛け布団を剥ぎ取り、体に纏わせて割れた窓へ飛び込む。


パリィン! と残っていたガラスが割れる鋭い音を聞きながら外へ飛び出し、着地と同時にズタズタになった掛け布団を投げ捨てる。


まだだ――っ


そのまま振り返ることなくグラウンドの脇を駆け抜けていく。


ガラスの割れた音を聞き、グラウンドのゾンビが前から数体迫ってきている。

一体ずつ相手にしていたら後続のゾンビに追いつかれてしまうだろう。


大盤振る舞いといこうかな。


「アネッロ」


叫ぶと同時に出現したリストから聖水の瓶を4つ取り出した。

それを指の間に挟んでもち、1本をナイフ投げの要領で近くに来たゾンビへ投げつける。


パキャッという軽い音と共に瓶が割れ、中に入っていた聖水がゾンビの胸に飛び散った。


「ゔあぁぁあぁ!」


その瞬間、じゅうぅという肉が焼ける音ともにゾンビの体が胸から溶けていく。

ぼとぼとと裂けた腹から腐敗した内臓がこぼれ落ち、あたりに腐臭を撒き散らした。


更にゾンビはそのまま溶かされていき、正面から背骨が見えるほど肉がこそげ落ちた。


……やはりこっちでも聖水は切り札になる。


ゾンビの絶命(?)を横目で確認しながらグラウンドを走りぬけていく。


威力はとてつもないが、瓶ごと使っていれば残っている聖水もすぐ底をつくだろう。

……このまま大群と戦うにはあまりにも準備が足りない。


かといって校舎に戻るわけにもいかない。

こんな大群に追われて屋上に戻れば扉が保たないし、避難している皆を危険に晒すわけにはいかない。


そうなれば残る手段は一つ。

街へ逃げるしかない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る