第35話 屋上・サバイバル・デッド7


「ずるじゃん!!」

嵯峨さんから威勢のいい突っ込みが入った。


……別に狙ってやったわけじゃないんだけどね。


「ははっ、盲点だったね。流石にその発想はなかったよ。谷々らしい」


「ほんとね。それがOKなら向こうで使ってた魔道具全部持って帰れたのに」


「でも、そうなると一気に戦闘能力のランキングが変わるな。向こうの魔道具が大量に入っているのならもはや谷々一強と言っていい。実際向こうで戦ってる時に思っていたけど、現代兵器を凌駕する魔導兵器もたくさんあったからね」


「確かにそうよね。私たちはマナを大して消費しないでアビリタが使えたからいいけど、兵士の人たちはもっぱら魔道具と魔法の併用で戦っていたもの。砲弾も使わずに大砲みたいなやつ撃ってたのよく覚えてるわ」

一番と四方田さんが懐かしむように戦場を思い出している。


どんな高校生だ。


しかし、僕からすれば

「へー、そういうのもあるんだ」

という感想しかでない。


「そういうものもあるんだ、って谷々まさか……知らないのか?」


「残念ながら存じ上げないね。なにせ戦場なんてとこには縁がなかったものでさ」

別に皮肉でもなく、事実だった。


「そ、それは聞いてたけどさ。でも街中で売ってる魔道具もあったろ? なにより王都から街を4つも離れれば前線だったじゃないか。そこで魔道兵器の演習くらいみただろ?」


「いや、全く。日銭程度しか稼げなかった僕にとって高価な魔導武器屋は縁がなかったし、戦闘能力の低い僕の行動範囲は隣町までだったよ」

それもほとんど廃村となったレベリオーまでだし、と付け加えておく。


「だからみんなが向こうで目にしたような派手な魔道具は一つも持ってないんだ。持っているのはこういうコンロみたいな日用品くらいだよ」

そう言って取り出した魔道コンロを手のひらでクルクルと回す。

見た目はベ○ツのエンブレムだが、小型、軽量でそこそこの火力を出せる。


「そうなの……。となるとやっぱりゾンビとまともに戦えるのは私と結花、それに一番だけね」

四方田さんが難しい顔で考え込んでしまった。


「いや、八重。エゴだけみたらそうかもしれないけど谷々は」

考え込む四方田さんに向けて一番が話そうとした時


「君たち、ちょっといいかな?」

と言って教頭が話に割り込んできた。


「はい、どうしました?」

一番はなんでもない風を装って答えているが、内心嫌悪感があるのだろう。言葉がどこか無機質だった。

そういえば一番は選択で書道をとっていたな……。


「他の生徒達から屋上にくるまでのいきさつと、君たちの能力やそれを得た経緯について聞いてね。にわかには信じがたい話だがここまで生きてたどり着いたことや、谷々君の能力を見る限り本当だと信じざるを得ない。君たちの力はこの困難な状況において正に希望だ」

朗々と、まるで演説でもするかのように話す教頭の姿は流石教師といった具合だが、なんだか鼻につくものを感じる。


「……ありがとうございます。でも、僕たちも必死ですよ。とても希望とまでは言え」


「そう! 能力はあろうとも、君たちはまだだ! 被保護者であり、未成年であり、学生だ! 身に持て余す力に振り回され過ちを犯すかもしれない。特にこういった緊急時こそ人の倫理観や道徳というものが試されるからね! いやなに、未熟を恥じることはないさ!」

教頭が食い気味に、というかもう咀嚼しているくらいの勢いで一番の言葉に被せて話し出した。


あんまり人の話を聞かないタイプなのが今ので確定する。


「え、えぇ、それはそうでしょうね」

一番も教頭の勢いに押され気味だ。

もっとも、理論に押されたというよりは生徒と教師という立場に押されているというのが正しいだろう。


「そうだろうそうだろう! だからこそ頼り甲斐のある大人がきちんと前を歩き導いてやらなければならない! そして、この場においてその立場に相応しいのは〜?」


……随分ともったいぶった話し方をする。

あぁ、この人嫌いだなぁ、と素直に思った。


どうやら噂は真実だったらしい。


「やはり教職につき、そして教頭という他の先生すらまとめる立場にある私しかいないだろう。いや! みなまで言わなくてもいい。こんな緊急時に責任ある立場につくというのはとてつもないリスクが伴うものだが、かわいい生徒たちのためならそんなものは厭わないさ! さぁ、みな一丸となってこの困難に立ち向かおうじゃないか!」


誰も何か言おうとしたわけではないが、教頭が勝手に盛り上がり、そして勝手にこの屋上の責任者になることが決まった。


別に教師がこの場の責任者になるのは問題無い。

しかし、いかんせんこの教頭はダメな気がする。


同じ不安を抱いているのか、その場にいる異世界組4人はほぼ同じ、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「……わかりました。もちろん先生がこの場の責任者になることはかまいません。異論を挟む余地はないでしょう。ただ、一応現状をお伝えしておくと屋上の生徒全員での話し合いの結果、僕たちはここで助けが来るのを待つ方針です。幸い水と食料は確保できたので当座は凌げるでしょう」


さりげなく屋上で籠城することは決定事項だと伝える一番。


教頭が責任者になった瞬間「それでは能力を使って脱出だ!」とか言い出さないように釘を刺したのだろう。


「うむ。それは私も賛成だ。しかし、そうなるとまずすべきことがあるな」

どうやら教頭も救助待ち案には賛成のようだ。

行動方針がぶつからなかったことに、少しだけ安堵する。


しかし

「水、食料、それに君たちの能力や道具も私が一括で管理する必要がある」

という発言で一気に緊張感が走った。


「あの、先生。水と食料はわかるんですが、私たちの能力の管理ですか……?」

四方田さんが硬い表情で問いかける。

え? この人何言ってんの? と顔に書いてある。


「そうだとも。君たちの能力は我々の生命線だ。それを指導する者がいないまま個人の判断で好き勝手に使っていてはみなを守れないだけでなく、この場の秩序が乱れかねない。それは君たちも本意ではないだろう?」

もっともらしい言い方をする。

しかし、真摯な言葉とは裏腹に顔はニタニタといやらしい表情を浮かべていた。


「……理屈はわかりました。なによりも避けるべきはこの屋上すらも混乱に陥ることですからね。先生にお任せしますよ」

渋々、という様子で一番が了承した。


「素晴らしい! 賢明な一番君のことだ、我欲ではなく公共の利益のために判断できると信じていたよ!」

教頭は胸の前で一つ手を打つと、両手を広げ感嘆の意を表した。

動きがいちいち演技くさい。


「よし、それでは早速君たちの能力の詳細を教えてもらえるかな。それと……」

いままで一番の方を向いて話していた教頭がこちらに顔を向ける。


「谷々君、だったね? 君の手にあるコンロと指輪、そしてそれに入っている物資を渡しなさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る