第34話 屋上・サバイバル・デッド6



「谷々くんめちゃくちゃすごいじゃん!!」


「こんなにたくさんよく取ってこれたね!」


「えっ!? っていうか今どこからだしたの? 手品!?」


「やったー!! これで食料の問題も解決だろ!」


「松風も無事に戻ってこれたんだな! お疲れ!」


遠巻きに成り行きを見守っていた生徒たちが一斉に走り寄ってきた。

中にはバンバンと背中を叩いてくる生徒もおり、ちょっと痛い。


赤間達は生徒の波に押しのけられ、いまや苦々しい顔で遠巻きに見つめるだけだった。


「さぁ、みんな聞きたいこと言いたいことはたくさんあるだろうけど、まずは谷々を休ませてやろうよ」

そう言って一番が興奮する生徒たちの間に割って入り、ビニールシートの下へ連れて行ってくれた。


どうやら『やばい人』認定はされずに済んだが、これはこれで面倒かもしれない。


「谷々、本当にお疲れ様。いくら谷々でもきついと思ったんだけど、杞憂だったね」

シートの青い影にはいりながら一番が話しかけてきた。


「問題はなかったよ。松風が邪魔だったくらいで」

まだ遠くで7.8人の生徒に揉みくちゃにされている松風の方に視線を送る。


「そうか。松風のことも心配してたんだが、あっちも元気そうで何よりだ」

一番が横目で松風の様子を確認する。


「谷々、帰ってきて早々悪いんが下の様子はどうだった?」

一番が申し訳なさそうな顔で問いかける。

別に「少しは休ませろ」なんて言わないのに律儀な奴だ。


「騒ぎは落ち着いてきてるみたいだったよ。……まぁ犠牲となる人間がほとんどいなくなったってことだけど」


「そうか……。こっちでも階下の様子を見てたんだけど、目立った変化は無くてね。もう校内はほとんどゾンビの巣窟となってしまったんだろう……」

一番が眉間にシワを寄せて下唇を軽く噛んだ。


「だろうね。でも御法川があれだけ派手に音を立てて壁を壊したから、結構な数のゾンビが外に出てってくれたみたいだよ。おかげで動きやすかったんだ。」


「なるほど。それは僕らにとっては良いことだけど、街の人からしたらたまったもんじゃないだろうね……」

一番は困ったような悲しんでいるような顔で答える。

言わんとすることはわかるが、この状況で全てを救うことなんて不可能だ。



「谷々、お疲れ様。みんなのために命がけでありがとね」

話し込む僕らの元に四方田さんが嵯峨さんとともにやってきた。


「ホント食べ物とってきてくれてよかったよ。もし失敗して次はあたしが行かないといけないなんてなったら屋上を崩壊させちゃうとこだった」


嵯峨さんは冗談っぽく笑ったが恐らく本気だ。


「うん。2人も屋上の警備お疲れ様。こっちは大丈夫だったみたいだね」


「大丈夫もなにも、ゾンビにあのドアが開けられない時点で襲われようがないわ。気持ちはわかるけど、みんな少し過敏になりすぎよ」

四方田さんがぷりぷりと怒って未だ松風を取り囲んでいる生徒たちを見る。


「そう言ってやるなよ八重。僕らは向こうで死線を超えてきたから、生き死にの感覚がおかしくなってるのさ」

一番が軽く四方田さんをたしなめる。


「ってか谷々さぁ。特典のもう一つそれにしたの? もったいなくない? ってか気持ち悪くない?」

そんな2人の会話にさして興味を示さず、嵯峨さんが話しかけてきた。


「うん。この指輪にしたんだ。ほかに選べるものも持ってなかったしね」

そう言って顔の前に右手をあげ何度かグーパーしてみせる。


「ふーん。あたしだったら選べても嫌だけどね。そんな呪われた物」

トゲのある言い方に一番と四方田さんがぴくっと反応した。


「結花、そういう言い方はよくないよ? 谷々だって好きで選んだわけじゃないみたいだしさ」


「そうだね。聞いた限りじゃ向こうで生きていくだけで精一杯だったんだ。急に何か持って帰れると言われても困っただろう」

四方田さんのフォローに一番が乗っかってくれた。


「そうかもしれないけどさ。あんなわけのわからない世界に飛ばされて、つけた覚えはないのに外せない指輪だよ? 普通選べても断りそうなものだけどね」

しかし、2人のフォローも虚しく嵯峨さんからの嫌味は止まらなかった。


まぁ……嵯峨さんの言っていることもわからなくはない。

この指輪はある種異世界に行っていたという証であり、それを望まなかった者にとっては正に呪いと言っていいだろう。


特に嵯峨さんは指輪が外れないことに気づいた時、気持ち悪いと言って過呼吸もどきになっていたくらいだったのだから。


「嵯峨さんのいうことも尤もだと思うよ。僕もこっちに戻る時、特典として選べるみたいだったから選んだだけで、別に思い入れがあるわけじゃないんだ。でも……」


といって、指輪に収納している携帯用コンロを取り出して見せた。

これは一つしか収納していないので思い浮かべるだけで取り出せる。



「後から気づいたんだけど、どうやら向こうで収納した物を入れたまま持って帰れたみたいなんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る