第28話 学校・リビング・デッド7



「はぁ……はぁ……はぁ……」


なんとか屋上へ辿り着き、ドアの鍵を閉め置いてあった廃棄用の机で簡易的なバリケードを作った。


その直後、鉄製のドアを力一杯叩く音が屋上全体に響く。


少しの間その音は続いていたものの、バリケードが破られることはなかった。

それを確認し、ようやく屋上に逃げ込んだ生徒達の間に弛緩した空気がながれる。

騒動が始まって以降、初めて一息つくことができた。


と思った矢先。



バチンッ!!


という破裂音。


驚いて振り向くと、一番が女生徒に平手打ちされていた。


「……どうして? ねぇどうしてよ!?!? どうして将伍を見捨てたのよ!!」

激昂しているのは先程一番が助け出した女生徒だ。


その瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れ、キッとした表情で一番を睨みつけている。


「すまない……。あの状況じゃ君を助けるだけで精一杯だったんだ」

打たれた頬がじんわりと赤く腫れていく。


「だったらほっといてよ!! 将伍……あんなに血を流して……苦しそうだった……一緒にいてあげたかった……いっそ一緒に……」



パチンッ!


二度目の破裂音。


それは四方田さんが女生徒を平手打ちした音だ。



「冗談でもその先を言うべきじゃ無いよ。感謝しろとまでは言わないけど、一番はあの状況でできるだけのことをした。それを責められる筋合いはない」


平手打ちされた女生徒はその場に座り込み「将伍……将伍……」と泣き崩れていく。


……恐らく彼女もあの場では一番の行動が最善だったとわかっているのだろう。

それでも、大切な人を失った悲しみをぶつけずにはいられなかったのだ。


「一番、あなたのやったことは決して責められることじゃないわ。胸を張って」


「あ、あぁ……ありがとう八重」


途中から成り行きを見守るしかなかった一番だが、四方田さんの言葉で我にかえったようだ。


……ここは友人らしく僕も慰めの言葉をかけよう。

そう思い一番に近づくと


ドンッ!!!


という三度目の破裂音がした。


しかし、今度の音は破裂というより爆発に近い。

校舎自体が少し揺れるほどの衝撃。


発生源は明らかに階下だ。

屋上の生徒全員が屋上の端に移動し急いで校舎を見下ろすと、北側1階の壁が教室一つ分ほど吹き飛んでいた。


まだ土煙のたつその穴から数人の生徒が飛び出してくる。


遠くて全員の顔を把握することはできないが、先頭を走る金髪は間違いなく御法川だ。

その後に続いて10人ほどの生徒が走っていく。


恐らく、先程の爆発は御法川の仕業だろう。


「実里!」

四方田さんが叫ぶ。

しかし、距離のせいか、逃げる集団を追いかける狂った生徒達のせいか、声が届く様子は無い。



逃げる御法川達は一直線にグラウンドを走り抜けると校門から飛びだして行き、すぐに見えなくなった。



「あ、あぁ……! み、みんな! 街を……! 街を見てくれ!!」


御法川を見失った直後、1人の生徒が声をあげた。

言葉のままに視線を街へずらすと、周りから悲鳴や驚愕の声が漏れる。




そこに広がっていたのは、そこら中からいく筋もの黒い煙をあげ、悲鳴、怒声、断末魔の響き渡る吉祥寺の街だった。

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