第29話 屋上・サバイバル・デッド



しばらくの間、僕らは火の手と悲鳴のあがる街を呆然と眺めていたが一番の「状況を整理しよう!」という言葉によって我に帰った。


しかし、全員同じ状況から騒動に巻き込まれたため状況を整理しようにも情報が少なすぎる。


そのため、まずは先程東海林先生を押しつぶした嵯峨さんの能力のことやそれを手に入れた経緯をかいつまんで説明することにした。


ただ、いきなり異世界だエゴだと聞かされてもみんな直ぐには信じることができず、ほとんどが懐疑的だった。


しかし「こんな時にふざけるな!」と1人の生徒が怒鳴ったタイミングで、嵯峨さんが《アットホーム》を使いその生徒をねじ伏せた。

地面に突っ伏し、身動きの取れない生徒を見て少なくとも能力については全員が信じるに至る。



「さて、僕らのことはこれで全部かな。次はこれからの話をしよう」

一通りの話が済んだところで一番が切り出す。


「これからって……ここで救助を待つんじゃねぇの?」

一緒に逃げてきた松風が素っ頓狂な声で尋ねる。


「そうだね。とりあえずそれしかないと思う。ただ、救助が今日来るのか、明日来るのか、そもそも助けがくるのか、今の僕らには知りようがない」


「? そんなんスマホで警察に連絡すりゃぁ」


「かけてみたよ。でも。電波はあるみたいだけど、回線が混み合っているのか、警察側でも何かが起こっているのか……。なにせ遠目に見るだけでも街は大混乱のようだからね」

一番はポケットから自らのスマホを出し、それから街の方へ視線を送った。



「な、なんだよそれ……!? じ、じゃぁこの際自衛隊とかに連絡してなんとかしてもらうしか」


「それも無理みたいよ」


松風と一番の会話に四方田さんが割って入る。

その視線は嵯峨さんのスマホ画面へと向けられていた。


「今、結花にfshitterを見てもらってるの。ネット回線事態だいぶ重いけど、トレンド一位が『たすけて』になってる。それに投稿されてる動画や写真を見る限り、この騒ぎはみたいよ」


四方田さんの言葉にその場の全員がざわつき始める。


「えっ?私たち助かったんじゃないの!?」

「日本中がこんな状態になってるってこと!?」

「そもそもあいつらはなんなんだよ!」

「私家に帰りたい!」

「嘘! アタシのスマホ圏外なんだけど!?」

「パパぁ、ママぁ……」


屋上に逃げ込み落ち着きを取り戻していた集団が再び熱を帯びていく。


「みんな、一旦落ち着いてくれ! それぞれ思うところはあるだろうけど、まずはこの状況を生き残らないと!」

一番が自らに集団の意識を向けさせる。


「まず狂ってしまった人間達をどう捉えるか……もうこの際はっきり言葉にするけど、と呼ばれる存在が最も近いと思う」



ゾンビ。



死してなお死なず。人の肉を求め彷徨う生ける屍リビングデッド


狂った生徒達の様子は映画やドラマで見たゾンビそのままだった。


「ゾンビって……そんな……非現実的な……」

女生徒の1人が目の前の現実に抵抗するように呟く。


しかし、起こった事態の生々しさにそれ以上の言葉が続かない。


その感覚はみんな一緒のようであり、それ以上一番の言葉に反論は出なかった。


「……僕だって信じたくはないんだ。でもそんな希望的観測で目の前の現実を否定したって意味がない。まずは受け入れて、それからどうするかだ」

力強い言葉。

ようやくいつもの調子を取り戻してきたらしい。


うつむいて話を聞いていた生徒達も、現実を受け入れ始めたのか前を向く。


「改めて最初の話に戻すけど、今の状況じゃここをでて家に帰ろうにもすぐにゾンビに襲われて終わりだ。数人は助かるかもしれないけれど、たどり着いた家が安全である保証なんてない。しかし、ここで救助を待つにしてもどのくらい待てばいいのかわからない。一晩ならなんとかなるかもしれないけど、それ以上となるとね……。それに、次の行動を取る時に衰弱しているのはまずい」


みんな真剣な表情で一番の言葉に耳を傾けている。


「ひとまず状況が落ち着くまではこの屋上で生き延びる必要がある。そのためにはやっぱり水と食料だろう。つまり……」



サバイバルの始まりだよ。

と一番が全員の顔を見回しながら言った。



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