第26話 学校・リビング・デッド5



パキャッ!


という硬い何かが砕ける音。

その音が響いたと同時に、一瞬前までそこにいた東海林先生が消えている。


それが消えたのではなく、圧倒的な力で押し潰されたのだということはすぐにわかった。


襲われていた男子生徒の数歩先、そこにおびただしい量の血溜まりが広がっている。


その中央には肉塊が鎮座し、東海林先生のトレードマークであるランニングシャツらしきものがまとわりついていた。


みんなの視線が襲われていた男子、血溜まりの肉塊、そして先程の声の主である嵯峨さんへと無言で移っていく。



「……ぅぐ……ぇほっ……加減、ミスっちゃった……」

えづきながら、嵯峨さんが呟く。


「結花……あなたその力は……!」

四方田さんが慌てて駆け寄り、その肩を抱いた。



「えっ? 今の嵯峨さんがやったの?」


「あ、あの血溜まり……東海林先生だよね……?」


「う、ぐ……おえぇえぇ」


「もう、なにがなんなのぉ……」


周囲の生徒が惨状を見てざわつきはじめる。

ジリジリと、今度は嵯峨さんから距離を取り始めた。



そんな状況を横目で見つつ、四方田さんは「……こっちでも使えるみたいね」と一番に話しかける。


それに無言でうなづいた一番が皆んなに向き直り


「皆! 混乱しているかもしれないけれど今はとにかく自分の身を守ろう! 屋上に避難するんだ!」と号令をかけた。



皆釈然としない表情だが『自分の身を守るため』という明確かつ同意できる理由を与えられたため、戸惑いながらも一番の元へ集まりだす。


何人かはそのタイミングで一番に嵯峨さんのことや今の状況のことを問い詰めていたが「それは安全な場所に移動してから話そう」という一言で黙らされていた。



「結花、悪いけど屋上まで先導を頼めるかな。僕のアビリタはこの状況だとあまり使いようがなくてさ」


「えぇえぇ……無理だよぉ……またあんなモノみたら次は吐いちゃううぅ……」


ヒッ、ヒッ、とまた過呼吸の症状を出そうとする嵯峨さんを見て『そういえば結花はそういう人だった』と後悔する一番。


完璧人間の一番にしては珍しい人選ミスだ。


冷静に見えて、一番もこの状況についていけているわけではないのだろう。


「……いいよ。私が先導する。みんな! ついてきて!」

嵯峨さんを庇い、四方田さんが率先して教室の出口へ向かう。


「八重、すまない」


「いいのよ。実際一番のエゴはこういう状況だとちょっとね」

謝る一番に対し、四方田さんは少し笑いながら答えていた。



「よし、八重を先頭に屋上に向かおう! 皆僕らが守りやすいように3列くらいで縦に並んでくれ!」


皆んな『守る? どういうこと?』といくつも疑問が浮かんでいるようだが素直に一番の言葉に従っている。


なんだかわからないけど『一番の言うことなら聞いておこう』という普段の行いによる安心感がこの場での混乱をおさめていた。


形成されていく列に僕も加わろうとすると


「谷々、君には後方をまもってもらいたい。いわゆる殿しんがりってやつだ」


一番がこっそり話しかけてきた。


「? 別にいいけど、なんで僕?」


「なんでって……」


困ったように笑いながら一番は応えた。


「谷々がこの中で一番強いからだよ」

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