第25話 学校・リビング・デット4
「お前らぁ! 大丈夫かぁ!?」
小玉先生の身体が無惨に喰い破られていく。
その様子をクラスの大半が唖然と見つめていると、急に教室の扉が開き腰山先生が飛び込んできた。
「1年の教室の方でトラブルがあったみたいだぁ。詳しい状況はわからないがぁ、ひとまず避難準備を――」
「先生! グ、グラウンドを! グラウンドを見てください!」
四方田さんが声を張り上げる。
「なんだぁ!? どしたぁ!?」
只事でない様子を察した腰山先生が窓に駆け寄ると、ちょうど小玉先生だったものがボロ雑巾のように打ち捨てられるところだった。
「あれはぁ……! 小玉先生ぇ……!? なんであんなことに……!?!?」
わけがわからないという顔で呆然とそれを見つめる腰山先生。
見れば正面玄関からわらわらと血まみれの生徒達が溢れ出してきている。
何人かは他の生徒に追われているようだ。
視線を戻すと、小玉先生を喰っていた生徒達は何かを見つけたように校門へと走り出していた。
外に出ればすぐに歩道があり、犬の散歩をする人やベビーカーを押す人など沢山の人で溢れている。
「うそうそうそっ、やだ、やだぁやめてええぇえ!!」
これから起こることに気づいたのか、女子の1人が叫ぶ。
もはや事態を見ていられない生徒も多く、嗚咽しながらその場に座り込むものや窓際から後ずさっていくものもいる。
「せ、先生! どうしたらいいんですか!? 避難てグラウンドに出るんですよね!? あんなとこにでるんですか!?」
「ちょ、ちょっと待てぇ、いま考えてるからぁ!」
狼狽した生徒の問いに更に狼狽した腰山先生が答える。
無理もない、こんな状況そもそも避難訓練でも想定されていない。
「んだよそれ! 教師だろうが! なんとかしろよ!」
不良グループの進藤がイラついた声で腰山先生を責める。
普段なら一喝するところだろうが、パニックになった腰山先生は窓の外と進藤の顔を交互にみて口をパクパクと開け閉めするだけだった。
「もういやあぁあぁあ!!」
そんなやりとりを見るや1人の女生徒が叫びながら教室を飛び出していく。
「サチ! ちょっと待って!!」
それを追うようにもう1人の女生徒も教室を飛び出していった。
「お、おい! お前らぁ! 勝手な行動をしたらいかぁん!」
腰山先生が引き止めようと声をかけるも、走り出した生徒達を止めることは出来ない。
「御法川! 俺らも行こうぜ!」
進藤や他の生徒たちもその流れに釣られ、教室外へと飛び出していく。
「あ! おい! 進藤! あいつ――!」
事態を静観していた御法川だが、進藤が教室を飛び出したことでそれを追うように走り出す。
「ちょっと! 実里!?」
四方田さんが慌てて声をかけるが「進藤連れてすぐもどっから待っとけ!」という言葉を残してそのままいってしまった。
クラス40人のうち半数ほどがいなくなった。
残ったのは御法川を除く異世界組と、逃げるタイミングを失った他の生徒たちだけだ。
「腰山先生! とにかく下は危険なようですし、ここは騒ぎから離れるよう屋上に向かいませんか! あそこなら最悪避難梯子も使えます!!」
ピリッとした声の一番が提案する。
「そうかぁ……! そうだな! よし! みんな先生についてこぉい! こんな時こそ冷静に、おさない、かけない、喋らないだぞぉ! お・か・しだ!」
目的が決まり少し落ち着いたのか、腰山先生が生徒達をまとめ始める。
いつもの調子に戻りつつある先生に感化され、動揺していた生徒達も少しだけ落ち着きを取り戻した。
一番のことだ。
こうなることを見越して自分で呼びかけるのではなく、腰山先生に決定権を渡したのだろう。
「それじゃぁ出席番号……はもう意味がないかぁ。みんな離れないよう先生についてこぉい!」
意気揚々となった腰山先生が先導しつつ、教室の扉に手をかけたその瞬間
バリイィイン!!
と扉を吹き飛ばして東海林先生が教室に飛び込んできた。
あまりの音と光景に落ち着き始めていた生徒達から一斉に悲鳴があがる。
「うぅうぐぅ……し、東海林先生ぇ……! あ、あんたいったい何を……」
吹き飛ばされた扉と東海林先生の下敷きになり、首から上以外動けない腰山先生がくぐもった声をあげる。
しかし、その声が届く様子もないまま東海林先生が腰山先生の顔面に噛み付く。
「いぃいいぎゃああぁああ!」
今まで聞いたことのない甲高い悲鳴。
腰山先生は必死にもがき、倒れてきたドアをガツンガツンと下から殴りつける。
しかし、それを全く意に介さず何度も何度も夢中で顔面に喰らいつく東海林先生。
――どう見てもまともじゃない。
腰山先生の顔から肉が引きちぎられていくのを……生徒達は呆然と見ていることしかできなかった。
そして一際大きくぶちんっ! という音がしたかと思うと、それきり腰山先生の声は聞こえなくなった。
ゆらりと東海林先生が立ち上がり、こちらを見つめる。
その顔は鮮血に塗れ、口元を中心に真っ赤に染まっている。
しかし、ところどころ見える皮膚の色はまるで死人のように血の気の引いた青だった。
「ひっ……ひぃ……!」
その姿をみた生徒が引き攣るように声をあげる。
大声で叫べば次は自分の番かもしれない、という恐怖がその場に充満している。
ギィッ……
ピンと張り詰めた空気を裂くように、微かな、しかしこの場においてはとんでもなく大きな音がした。
1人の男子生徒が後ずさる最中、椅子をひっかけてしまったのだ。
「ぎいいぁあああがあ!!!」
「ひっ! わああぁあああ!!!!!」
それがきっかけとなり雄叫びを上げて猛然と走りだす東海林先生。
狙われた生徒は逃げようとするが、恐怖からなすすべもなくその場にへたり込んでしまった。
そこへ
「《
という声が響く。
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