第8話 異世界にて5


 「ざけんな! んなもんてめぇらの勝手な都合じゃねえか! 俺はそんなもんやらねぇぞ!」


至極尤もな意見だった。

そしてそれに賛同した四方田さんが


「私も協力する気にはなれません。第一私達はまだ高校生です。魔王を倒せと言われてもそもそも戦うことすらできません」


と珍しく御法川を嗜めることなく毅然とした態度をとった。


その非協力的な言葉にモーツァルト髪が素早く反応する。


「無礼者! 異世界人風情が何を言う! これは本来大変名誉のある」


一気に沸点に達したモーツァルトががなりたて始めたところ、王が左手を上げてそれを制した。


「カッツェよ、構わん。お主達が戦わないというならそれも一つの選択だろう。……しかし、そうなると元居た世界には戻れないかもしれないぞ?」


余裕たっぷりの表情で王が語る。


「あぁ!? どういうことだ!?」


元の世界に戻れない、という言葉に御法川が反応した。


「言葉通りの意味だ。そもそも我々にはお前達を誰が、どうやって召喚しているのか皆目見当がつかん。……然るに、どうやって戻すのかもわからん」

淡々とした声で王が続ける。


「しかし、今まで召喚された勇者達はすべからく魔王を倒した後忽然と消えているのだ。それは用が済んだから返されたのではないか?」

そう言って王はニヤッと笑う。


なるほど、召喚の仕方はわからないが、魔王さえ倒せば帰れるかもしれないぞ、ということか。


……逆に言えば魔王を倒さない限りは帰れない、ということだろう。


しかし、王や国が勇者を召喚しているわけでないとはいえ、救ってもらう側としてあまりにも言い方が他人事すぎる。


そんな無責任な態度に御法川が更にキレた。


「黙って聞いてりゃ人をデリヘルみてぇに言いやがって! いい加減にしやがれっ!」


御法川が王に向かって啖呵を切り、いよいよ王だろうがなんだろうが殴り倒してやるという勢いで一歩前に進んだ。


その行動に広間中の兵士たちが武器を構え、一触即発の状態となったその時


「お待ちください!!」


という透き通った声が聞こえた。


「……皆様のお気持ち、深くお察しいたします。突然故郷を離れ、異界の地にて戦えと言われても納得のいくものではないでしょう。憤る気持ちも、ご不安もよくわかります」

話し出したのは王を挟んでモーツァルトと反対の位置にいた女の子だ。


ぱっと見はまだ中学生くらいの顔立ちと身長に見えるが、その立ち居振る舞いは凛としており見た目の幼さをかき消していた。


「私はこの国の王女『ティアラ』と言います。まずはここまでの数々の非礼、お詫びいたします」

そう言って少女は頭を下げる。


「姫! 王族が軽々しく頭など下げてはいけません!」

モーツァルトが慌てて口を挟む。


「この世界を救ってくださいと願う立場の人間が、礼儀の一つも通さず何が王族か!」

ピシャリ、とした物言いにはそれ以上の言葉を許さないという毅然とした雰囲気があった。


「……失礼いたしました。皆様、再度申し上げますがこの度は数々の非礼、誠に申し訳ありませんでした。しかし、先程王の話されたことはまぎれもない事実でもあるのです」

少し俯いたままの少女が続ける。


「我々は本当にあなた方が誰に、どうやって召喚されているのか皆目見当がつかないのです。いわゆる『神』と称される存在の御業にしか思えません。……しかし、先程お伝えした通りその目的だけははっきりしています。……その目的が果たされた後どうなるのかも」


「……けっ」

突然の少女の登場に握った拳の行き場をなくしていた御法川だが、ひとまずこの少女の話を聞くことにしたようだ。


「魔王が倒されると、召喚された勇者の方々は皆さんこの世界から一斉に姿を消されます。その時の様子は実際に見たものによると現れた時と同じだったとのこと……。実際のところはわかりませんが、恐らく目的が果たされたことにより勇者の方々は元いた世界に戻されたのだと思います。つまり……」


「帰りたければあなた方に協力するしかない、と」

それまで黙って話を聞いていた一番が口を挟んだ。


「横から失礼します。王女様、あなたの言葉は僕達にとってとても暖かい。正直いきなりこんな事態になって多少なりとも腹の立つ思いがありましたから、人間として扱ってもらえるだけでも他の人達とは違うということがわかります」

一歩前に出て、言葉を選びながら紡ぐ一番。


「僕個人としては協力したい気持ちもあります。しかし、先程お話しした通り僕達は元いた世界で高校生と呼ばれるいわば半人前です。とても世界を救うなんてことができるとは思えない。それこそ勇者と言われるだけの特別な」


「力でもなければ、ですね」

ティアラが微笑みながら一番に話しかける。

今度は一番が口を挟まれる番だった。

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