第7話 異世界にて4
「これは王命である。勇者達よ『……』の征伐に向け出立するのだ!」
顔が紅潮するほど興奮した王が一番達『勇者』に向けて激励を行うのと、僕が城の衛兵達によって門から叩き出されたのはほぼ同時だった。
「殺されないだけありがたいと思え! この無能が!」
衛兵はそれだけ吐き捨てるように言ったあと、サッサと城の中へと戻っていく。
「……まいったな」
土埃で汚れた制服を両手でパンパンとはたき城を見上げる。
建築に詳しくはないが、見た目は以前世界の窓辺からで見たノイシュバンシュタイン城に似ていた。
……さて、これからどうしようか。
自分のあごを指ではさみ思案にふける。
……なにはともあれ、まずは状況の整理だろう。
沢田石がいなくなった後、僕らはひとしきり周辺を捜索した。
遮蔽物もないのに彼の姿がみえないことから、嵯峨さんが「気持ち悪い!」とまた軽くパニックになっていた。
仕方なく全員で周囲を探索していたところ、一番が草原の中に街道のような整備された道があることを発見したため、安全確保のためにとりあえずその道を進んでみようという話になった。
歩き始めて約1時間。
街道の先に街を発見し、ひとまず人の気配があることに歓喜した僕らはすぐに街へ向かった。
近づいて驚いたのはその文明が地球で言うところのいわゆる『中世並み』だったことだ。
街は全体がレンガで作られた砦に守られ、出入りの門は木製の丸太で組み上げられていた。
その圧倒的な存在感に呆然と門を見つめていたところ、中から槍をもった人間が何人も現れ、あれよあれよと言う間に街の中心にあった城へ連行された。
その際御法川は無理矢理連れていかれることに対してかなり抵抗していたが、四方田さんが必死の説得を行い渋々従っていた。
武器を持った相手に対して命知らずにも程がある。
城に到着してからは一直線に偉そうなお爺さんの座る大きな広間へ通され、「傾聴!」とお爺さんの横にいたモーツァルト髪の人間に怒鳴られた。
どうやら偉そうに座っているお爺さんは本当に偉いようで、この国の王らしい。
一応話の最初に自らの名を名乗ってはくれたが、長ったらしくて覚える気にならなかった。
しかし、有益なことにお爺さんは今僕たちが置かれている状況について詳しく話をしてくれた。
まずここにいる5人はこの世界においては全員が勇者と呼ばれる存在で、別の世界から召喚されて現れるものらしい。
『誰に召喚されたのか』というのはお爺さん達にもわからないらしいが、勇者が現れる時は決まってこの世界が危機に陥っている時だと言う。
それは今回も例に漏れずだったようで、なにやら封印されていた魔王とやらが復活し、この世界のすべての力の源である『マナ』というエネルギーを独占し始めたらしい。
放置しておけばいずれ世界中のマナは枯渇し、人類どころか命あるもの全ての存亡に関わるという状況のようだ。
その運命から世界を救うために現れるのが他の世界から召喚された勇者ということだった。
……だったらもっと丁重な扱いをしろと思うが、どうやら召喚される勇者というのは毎回かなりの数にのぼるらしい。
その中の1人でも魔王を倒すことができれば良いという状況、かつ歴代の魔王がそうやって倒されてきたため、ありがたみも危機感も随分薄くなっているというのが現状のようだ。
ただ、魔王を倒した勇者を支援していたとされる国は一定の名誉や国際議会での優先的発言権を得られるらしく、召喚の兆候があった際は国をあげて勇者の囲い込みが行われるとのことだった。
つまり、僕らはその囲い込みをモロにうけてしまったということだ。
そうやって王の話を聞きながら全員が状況を把握してきた頃、御法川がキレた。
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