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安奈は祐一に、街娼を辞められない理由を述べようとした。
中卒だから他にろくな仕事がない。頭が悪いから他の仕事になんてつけない。母親の仕事をここで継いでいることにそれなりに満足している。
他にもいくつか理由は出てきそうだった。けれど安奈はそれを口にはしなかった。ただ、辞めない、と言っただけだ。頑なな子供の口調で。
ぎゅっと握り込むように、両手を自分の胸に当てる。昨日、幾人もの男に舐められ噛まれ吸われた乳首。汚いと思う。汚いと思うけれど、汚くない自分を安奈はきっと許せない。
どうしても? と、祐一が問うた。静かな声だったけれど、芯にぴんと張りつめたものを感じさせる。
「どうしてもだよ。」
やはり頑なに、安奈は返す。
「私ばっかり観音通りにいちゃいけないみたいな言い方するけど、外から帰って来たのは祐一もユキも一緒でしょ。」
それが許せなかったのだ。祐一もユキも、一度は観音通りを出ている。それなのになぜだか、二人とも大人になってからまたこの通りに戻ってきて、売春に関わる職についている。
それは、あの日の輪姦が原因なのではないかと、安奈にはそう思えて仕方がないのだ。
祐一の母親も、観音通りの街娼だった。そして祐一が中学三年に上がる頃、輪姦されて死んでいるのが発見された。発見したのは学校帰りの祐一だった。
それから祐一は父親に引き取られ、観音通りを出た。そのまま高校、大学、と進み、保育士資格まで取った祐一はなぜか、観音通りに戻ってきた。
それはユキも同じだ。母親が高級街娼で、経済的にわりと安定した状況にいたユキは、高校入学とともに観音通りを出て、大学まで進んでいる。しかし大学を卒業するとともに、なぜだか観音通りに戻ってきた。
2人とも、観音通りの外でも生きて行けたはずなのだ。安奈とは違って。それなのに2人とも、観音通りから離れられなかった。それは、あの日の輪姦騒動に端を発しているのではないのだろうか。
「……確かに安奈の言う通りではあるけどね……それでも、安奈は自分を追い込みすぎだよ。」
祐一が妙にやわらかい声でそんなことを言うから、安奈は黙って首を横に振った。そんなことはない。絶対にない。あの日自分がしたことに比べたら、追い込みがまだまだ足りないくらいだ。
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