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もういいわけない、とユウイチの腕の中で繰りかえしている内に、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。気が付くと安奈はソファに横たえられていて、すっぽり毛布を掛けられていた。
祐一はどこだろう、と隣の部屋のドアを細く上げると、ベッドの上に人影が見える。祐一だ。彼は眠ってはいなかった。こちらに背を向け、ベッドに腰掛け、じっと壁を見つめている。
思い出しているのだろう。あのことについて。
安奈と祐一とユキと青井が中学二年生の時だった。祐一とユキは体育倉庫で上級生たちに輪姦された。助けに行こうとした青井はグラウンドで引きずり倒され、蹴られ踏まれ、アキレス腱を断裂した。安奈だけが無事だった。黙っていたからだ。祐一とユキが輪姦されることを知っていたくせに、黙っていたからだ。
あの頃安奈は、観音通りの住人ではなくなっていた。中学二年に上がるときに観音通り近くの団地に引っ越していたのだ。。
だからその頃安奈は、ユキや祐一や青井と過ごすことはほとんどなくなっていた。同じ団地の女の子たちに仲間として認めてもらいかけていたのだ。
それを失いたくなかった。また、観音通りの子だ、といじめられるのが怖くてたまらなかった。授業中に、コンパスを使ったダーツごっこの的にされていた安奈の背中の傷は、ようやく薄くなり始めているところだった。
『津島と後藤、輪姦するらしいよ。三年生が、放課後に体育倉庫で。』
そうわざわざ安奈に知らせてきた団地の女の子たちには、明らかに安奈を試すつもりがあったのだと思う。悪意にたっぷりと染め上げられた天秤を差し出された安奈は、ユキと祐一よりも、団地の女の子たちを取った。
「……祐一。」
声をかけると、祐一は身体ごとゆっくり安奈に向き直った。
「……祐一。」
言葉が出てこなかった。言わなくてはいけないことはある。もちろん謝罪だ。何度謝っても謝りきれないようなことを、安奈はしてしまった。
祐一は、グレーのカーテンから射す細い朝日に照らされて、静かに微笑した。
「おはよう、安奈。」
うん、と、辛うじて安奈は頷く。
青井は裏切らなかった。裏切ったのは安奈だけだ。謝らなくては、と思うのに、喉が詰まって言葉が出ない。
「安奈。」
口を切ったのは後藤の方だった。
「俺、安奈に仕事辞めてほしいんだ。どうしても。」
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