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祐一宅は、一階が子供の遊び場で、二階が祐一のプライベートスペースになっている。 安奈は躊躇うことなく、玄関を入って正面の階段を上った。祐一はなにも言わずに安奈の後をついてくる。安奈にぶつけるべき苛立ちとか怒りとか説教とかを、ぐっと濃縮させているような、嫌な空気を感じた。
二階に上がって、右がリビングで左が寝室。これも勝手知ったる他人の家で、安奈は右側のドアを開ける。そのまま水色のソファに腰を下し、祐一の出方を待った。
祐一はローテーブルを挟んで向かい側のソファに腰をかけ、鼻から長い息を吐き出しながら安奈を見た。
「今日は何Pだったわけ?」
一瞬嘘をつこうとしたけれど、祐一のことだ、どうせ正解は知っていて聞いているのだ、と思い直して正直に答えることにする。
「……7。」
「本当の本当に、いい加減やめないと体いかれるよ。」
慣れた説教だった。祐一は月に一回くらいは安奈を部屋に上げて、この手の説教をする。だから安奈ももう完全に聞き流す姿勢を取り、ああああそうですか、といいかげんに首を振る。
すると祐一は苛立ったとも悲しげとも取れない、微妙な顔をした。そして、テーブルの上で掌を重ね、じっと安奈を見つめた。
「あのね、もう、忘れてるよ。俺もユキも、あのことは。それにそもそもあのことは、絶対に安奈のせいではないよ。」
祐一が吐き出した言葉を安奈が飲み込むまで、数秒の時間を要した。そしてようやくその言葉を受けとめた安奈は、テーブルを右の掌で思い切り叩いていた。
「私のせいだよ! 半分以上は私のせい。だって、私、知ってたんだもん!」
言ってからすぐ、バカなことをしたと思った。するべきはこんな逆切れではなくて、なんのことを言われているのか全然分からない、という顔を作ることだ。
そうでなくては、あのことがいまだに安奈の中に病巣を作っていると白状するも同然になってしまう。
今からでも自分の愚かな行動を取り消せはしないかと、安奈はぎこちなくテーブルの下の掌を膝の上に戻して握り込んだ。
それを見る祐一は、笑っていた。眉をわずかに寄せ、唇を引き結び、それでも辛うじて笑っていた。
「安奈、本当に、もういいんだよ。」
立ち上がってテーブルを回り込んできた祐一が、躊躇いがちにそっと安奈の肩を抱いた。その時になってようやく安奈は、自分が泣いていることに気が付いた。
もういいわけない。もういいわけない。
繰り返す声は、不恰好にひび割れていた。
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