安奈・街娼
「安奈ちゃんはエッチな子だね。乱交で興奮するんだね。」
化粧を直し、服を着直し、髪を梳かし終え、ホテルの部屋を出ようとしていた安奈に、客の男がそんなことを言った。
客の男はまだ裸のまま、豚の子どもみたいに真ん丸い腹をシーツから突き出すようにして、ぐったり横になっていた。昨日の乱痴気騒ぎで精根尽き果てたのだろう、昨日の時点ではてかてかしていた髪も肌も、なんだか照りを失ってパサついている。
「ふふ。安奈はエッチなの。また呼んでね。」
軽いキスを子豚に投げかけ、安奈はピンクのショートブーツを履いてホテルの部屋を出る。
今日は7Pだった。安奈と、六人の知らない男。
別にね、興奮するわけじゃない。
ベージュで統一され、中央には華やかな活花が飾られたホテルのロビーを出るなり、安奈は煙草に火を点ける。
乱交は金になる。それは確かなこと。
ふう、と、冷たい夜風にメンソールの煙を混ぜる。
でも、だからやってるのかって言われると、多分それも違う。
「安奈。」
街灯の下で、見慣れた娼婦が手を振っている。
「また乱交? 体壊すよ?」
「ありがと。壊れてから考えるよ。」
呆れたような顔をする娼婦は、うつくしいがもう三十は過ぎているらしい。その内街灯の側からは引退しなくてはいけなくなる。街娼というのは、シビアな職業なのだ。
「安奈。」
今度は聞きなれた男の声。
保育所の前には、水色のエプロン姿の祐一が立っている。
「あれ、今日は子供いないの?」
「みんなもうお迎えが来た後だよ。」
「そう。おつかれ。」
「安奈もね。」
その『安奈もね』の言い方は、明らかに単純なねぎらいではなかった。安奈は思わず首をすくめる。この幼馴染に叱られるのは、幾つになってもなんだか慣れない。
「いやー、今日は2Pだったよ。楽ちん楽ちん。」
咄嗟に嘘を吐くと、祐一は思い切り眉をしかめて、安奈に突き刺すようなため息をついた。
「いいこと教えてあげるよ。一対一のセックスは、2Pとか言わないんだよ。」
「あら。そうだっけ。」
適当に誤魔化そうとヘラりと笑う安奈の腕を、祐一が掴んで引いた。
「話があるんだけど。ちょっと中入ってよ。」
「いやー、仕事終わりで疲れててさ。」
「2Pで楽ちんだったんでしょ。」
「……いやあ、まあ、ねえ?」
それ以上言葉を重ねても勝機はありそうになかったので、安奈は仕方なく腕を引かれるまま、保育所のドアをくぐった。
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