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驚いて固まる渚に、目の前の女装の男娼は、苛立った様子もなくさらりと肩をすくめた。
「親は?」
「……仕事中。」
渚の微妙な沈黙で、多分その男娼は、渚の親の職種を把握していた。そもそもこの通りで行われている『仕事』なんて、ちょっと趣向は違っても下半身の労働に決まっているようなところはある。
「ユキ。」
通りの奥からやってきた、派手なピンク色の毛皮のコート姿の女が、男娼の腕を軽く引いた。随分身長差があるので、女が男娼の腕に、甘えてぶら下がっているようにも見える。
「なにしてんの? お客さん待ってるよ。」
「うん。」
頷きながらも、そのユキと呼ばれた男娼は、渚から目を離さなかった。
「なぁに、こども?」
ピンクのコートの女が、ユキの背後から軽く身を乗り出すようにして渚を見やった。
ユキと比べてしまえば、随分と商品価値の落ちそうな女だった。胸は大きいが、その分胴も脚も太い。肌は白くてぴんと張っているが、金色に染めた長い髪は傷んで広がっていた。
昆虫の脚を思わせるくらい長くて太い睫毛をばしばしと上下させながら、その女は舌っ足らずな声を出す。
「ごとーせんせーのとこの子じゃないの?」
図星を突かれた渚は黙っていたが、そうなの? とユキに確認を取られ、渋々頷いた。
後藤先生のところに連れ戻されるのは、なんだかつまらない気がした。せっかくこの通りの夜に浸り始めたところだったのに。
「帰してきなよぉ。私たちがユーカイしたみたくなるよぉ。」
やはり甘ったるくおぼつかない女の声。こういう声や喋り方が、案外男好きがするのかもしれないな、と、観音通りに育った女特有の勘で、渚は見当をつける。ユキはもちろん、この女の方もそれなりに高価な街娼のようだ。
「……でもさぁ、」
曖昧に首をひねったユキは、黒い極細のラインで囲まれた両目で、しっかりと渚を見据えた。
「お母さん捜してんの? それとも後藤先生?」
そのどちらでもない、と、渚は頑なに首を振った。
短い間の後、ユキは困ったように眉を顰め、それでも笑った。
「安奈。悪いけど、3Pは他のやつ誘ってってくれない? 私は少しこのこ見てる。」
「えー。わたし、さんぴーはユキとがいいのになぁ。」
「それは今度、ね?」
さすがの渚でも趣旨のよく分らない会話だったが、この女装の男がこの場に残ろうとしていることだけは分かった。そしてそれを、疎ましいと思った。
渚は一人でいたかったのだ。母が毎日立っているこの通りの夜を、一人で感
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