第五本 フランシス・ホジソン・バーネット作「秘密の花園」

 いわゆる昨今言われる「二次創作」的なことを始めたのは、おそらくこの本から…だったと記憶しています。

 だって、色々と妄想たくましゅうさせる要素が詰まってるんですよね、この話。

 三人の幼なじみで、しかも二人は男、一人は女。

 中学生の頃にはこの三人のその後の話なんかを書いてみたりしたもんです。

 ただねぇ……うまくいきませんでした。

 というのも。


 主人公であるメアリ。

 この子がまぁ…同じバーネットの『小公女』の主人公セーラとは似ても似つかない女主人公でして。

 そもそも最初の描写からして、なかなか辛辣なのです。

 だって、醜くて我儘放題のみんなから嫌われ者のお嬢様ですから。


 バーネット先生、よっぽどこだわりがあったのか、最初の頃のメアリの描写は本当に、本当にしつこいくらい醜くて、不細工なガキってな感じで、これはよっぽど読者に「あぁ、この少女は本当に醜い、性格もひどい女の子なんだな」と思わせたいのだというくらいの書きよう。


 当初メアリは植民地であったインドに暮らしていて、大勢のインド人召使いにかしずかれるご令嬢だったわけですが、両親をコレラで亡くして天涯孤独になってしまうんです。

 ホラ、普通の児童文学だったら、これ可哀相設定でしょ?

 ここで薄幸の『美』少女にするもんじゃないですか。

 ところがどっこい。バーネット先生は、読者に対して「この子に同情しないでー!」とばかりに、まー、欠点を並べ立てるんですよ。


 私も子供の頃に読みながら、正直、メアリが可哀相に思いませんでした。

 そもそも小説内のメアリは両親が亡くなったことに悲しむ、というよりも、自分が一人残されて不自由になったことに文句言う感じでしたから。(まぁ、メアリの両親も両親で、子供をメイドに任せきりにしてた…っていう、家庭崩壊状態だったわけですが)


 そんな天涯孤独となったメアリは、父の姉の旦那っていうちょっと頭の中で家系図を書かないとよくわからない縁を頼って、イギリスにやって来ます。

 やって来ても、まー、本当にわがまま放題。

 自分で服も着れなくて、世話するメイドのマーサに当たり散らす傍若無人っぷり。


 ところがこのマーサというメイドの女の子(メアリよりちょいと年上のお姉さん)が、よくできた子で。あきれつつも、ちゃんとメアリの面倒を見て、しかもけっこうズケズケ言ってくるんです。

 当然、メアリはメイドごときがーっ! って怒るんですけど、そんなのも聞き流しちゃったりなんかして。


 マーサの出会いはメアリにはけっこうな僥倖ですよ、本当に。

 このマーサの弟であるディコンと知り合うようになり、またディコンもいい子なんだなー!


 私はバーネットを始めとする海外の児童文学が好きで、わりと読んできたんですが、やっぱり日本とは違う海外の風景や食事の描写は、子供の頃には新鮮でした。

 特にこの作品に限らずですが、『荒野(ムーア)』っていうのが、よくわからんながらも心惹かれました。


 なんか、荒野とかっていうと、草木も生えてない荒れ地なのかと思いきや、そういうわけでもない。春になったら、種々の花々の咲く、自然豊かな場所…みたいな描写。やっぱり日本の湿潤気候とヨーロッパは違いますねぇ。


 それに食事なんかも…ミルク粥ってなんなん? と思いながらちょっと憧れましたね。大人になってから、イタリア旅行の朝食で出てきたときには、ちょっと感動でした。

 まぁ、うまいかと聞かれれば……それなりです。


 マーサやディコンと過ごし、しっかり運動して、しっかり食事をとるうちに、メアリは我儘で醜いご令嬢から、少々お転婆ながらも、だんだんと子供らしい表情を取り戻して、ここでやっとバーネット先生もメアリを醜いと言わなくなります。

 きっと、この変貌を描きたいがために、冒頭であんなけけちょんけちょんにけなしまくってたんだろうなぁ…。


 そんなメアリ。

 仲良くなったコマドリに導かれてある日、鍵を見つけます。

 どこの鍵なんだろうか? と思ってたら、風のいたずらで、閉鎖されていた庭への入り口の扉を見つけます。

 はい、こうなったらもう鍵穴に鍵入れるしかないでしょ…ってなことで、メアリはとうとう秘密の花園へと足を踏み入れるわけです。


 このくだりと前後して、メアリは屋敷内で毎夜聞こえてくる叫び声をたどって、この館の主の息子であるコリンと出会います。

 コリンもまた、最初の頃のメアリと同じく我儘で「僕はもうすぐ死ぬ」と思いこんでいる癇癪持ちのお坊ちゃんだったんですが、彼も従姉妹であるメアリと仲良くなっていくことで、だんだんと心身ともに健康になっていきます。


 なんかスラスラっと書いちゃってますが、実際にはこの辺りがこの物語の肝になるところです。


 余談として。

 拙作『昏の皇子』でのオヅマ・マリー・オリヴェルの関係性のモチーフになったのは、このディコン・メアリ・コリンです。

 特にオリヴェル登場のくだりは、まんまコリンですね。両方読んだことのある方だと、すぐに気付くと思います。


 で、最初の話に戻ると。

 ディコン・メアリ・コリンの関係がどうなっていくのかー…ってことで、色々と創作したり妄想したりしたんですが、うまくいきませんでした。というのも、メアリがどっちかとくっつくと考えるのが、そもそもうまくいかない。

 ディコンがメアリを好きなる…っていうのもねぇ。なんか想像できないんですよね。ディコン、あれでわりとリアリストっぽいし。私のイメージでいくと、ディコンの中のメアリって、『妹』みたいな感じなんですよねー。

 じゃあコリンか? っつーと…コリンとメアリだと、喧嘩ばっかしそう…。どっちも元々我儘嬢ちゃんお坊ちゃんですからね。

 まぁ、きっと読み込んでいくほどに、この3人が恋愛でドロドロするのなんか見たくないなーっていう本心が働いて、結局考えられなかったんですよね。


 そこらへんを解消させるために生まれたのが、オヅマ・マリー・オリヴェルであったのかもしれません。まぁ、この3人についても、まだ先は長いんですが。


 この本、子供(小学生~高校生)の頃にさんざ読んでいたんですが、持っていた本は従姉妹にあげてしまったので、誰の訳のものを読んだのかわかりません。

 なにせ昔の児童書なもんですから、挿絵なんぞほぼない、けっこう小さい文字の赤い背表紙の本だったなー…っていうだけの印象。

 一番最初に読んだ『秘密の花園』はいわゆる児童文学シリーズで、ダイジェスト版みたいなのだったので(こっちは挿絵も多かった)、ちゃんとした全訳版を読みたいと思ってたら、知り合いのお姉さんが譲ってくれたんですよね。っつーことは、もしかしたら児童書じゃなかったのかも……。


 バーネット作品は他に『小公女』『小公子』が有名ですよね。こっちは正統な児童文学の主人公ってな感じです。それぞれ好きですが、やっぱ『秘密の花園』の主人公たちは別格ですね。

 よくできた子…っていうタイプの主人公が出てくる話で好きなのは、『ペリーヌ物語』です。あれは、なかなかしぶとくて、賢い女の子が主人公ですよ。いつか彼女の話もできたらいいけど……本がない。青空文庫で読み返さないと、ちょっと無理か…。


 あー…昔読んだ児童文学って、いくつになっても忘れられないですね。

 それこそ『くまのプーさん』『ピーターラビット』の翻訳で有名な石井桃子さんのお言葉が身に沁みる……。


「子どもたちよ 子ども時代をしっかりとたのしんでください。おとなになってから 老人になってから あなたを支えてくれるのは 子ども時代の『あなた』です。」

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