第222話 お似合い
しばらくして、体育館に全員が集まった。
みんなそれぞれ俺と姫希を見て驚いたような顔を見せたり、寂しそうな顔を見せたりした。
唯一あきらは無表情で立ち尽くしていた。
「俺は姫希に告白した。そして付き合うことになった」
「……」
「すぐに普通に接してくれとは言わない。無茶な事を言っているのは承知の上だが、俺はこの女子バスケ部って居場所が大好きだから、これからもみんなで頑張りたい。よろしくお願いします」
深々と頭を下げる俺。
ついさっきフッた女子に言うような事ではないかもしれないが、それでも伝えなければいけなかった。
それが俺を好きになってくれた女子達へのけじめだと思うから。
「あはは、なんと言うか、おめでとうございます」
最初に口を開いたのは唯葉先輩だった。
いつものような笑みで俺達に笑いかけてくる。
俺への恋愛感情がない事を抜きにしても、思う所はあるだろうに、本当にありがたい。
流石キャプテンだ。
「そっか。柊喜君良かったね」
「はい」
今度は凛子先輩だ。
寂しそうな顔には先ほどまでのような涙は見受けられない。
でも辛そうなのはわかる。
今なら誰が見ても俺に好意があったのが分かりそうだ。
と、そんな時、ずいっとすずが一歩踏み出した。
姫希に詰め寄る。
あまりに急だったため、一瞬焦った。
「姫希」
「何?」
「しゅうきのこと、好きなの?」
すずの顔は無表情だった。
何を考えているのかはわかりかねる。
だがしかし、質問の意図はわかった。
姫希は俺の事が好きな素振りを大して見せていなかった。
だからこそ、俺の事が本当に好きなのかどうかを、全員知らない。
姫希はそんなすずの質問に、逃げずに答えた。
「好きよ」
「……っ。ほんとに?」
「嘘なんかつくわけないし、つけないわ」
「……しゅうきは、姫希のことが好きなの?」
「あぁ」
「……じゃあ仕方ない。すずの負け」
諦めたようにすずは項垂れ、そして笑みを漏らした。
悔しさはあるだろうけど、納得したって顔である。
すずは強い。
元から物事に執着するタイプには見えなかったが、それでも恋愛は別物だろう。
実際さっき声を上げて泣いていたのを知っているし。
あの時に辛さを思いっきり吐き出したのかもしれない。
と、最後にみんな黙る。
次はお前の番だと言わんばかりの雰囲気だ。
あきらは、何も言わなかった。
泣きもしないし、笑いもしない。
目も合わない。
ぼーっと、姫希の足元を見るだけだ。
「あきら……」
姫希が声を出すと、ゆっくり顔を上げるあきら。
「姫希、おめでとう」
「え、えぇ。ありがとう」
無機質な声に姫希は動揺しつつ、感謝を述べた。
そのまま、再び沈黙が流れる。
「……」
あきらは何も言わず、じっと姫希を見つめた。
そして姫希も逃げずに、その視線を正面から受け止めていた。
と、不意にあきらが笑い声を上げる。
「あははっ。姫希はやっぱり可愛いね」
「ど、どうも」
「……うん。お似合いだよ」
”お似合い”という言葉に、ふと過去の事を思い出した。
小学校、中学校と、あきらとはずっと一緒に居た。
前にみんなに話したこともあるが、修学旅行の時だって二人きりで遊園地を回った。
何かあるときは、家だろうと学校だろうと、ずっと一緒に居た。
そして、その度に周りに言われていたのだ。
『お前らお似合いだな』って。
何度言われたかもわからないし、俺達も流していた。
実際ずっと一緒に居る事なんて疑ってなくて、俺達も幼馴染が隣にいることを当たり前だと思っていたから。
だけど関係性は壊れた。
それは一方が、恋愛感情を抱いてしまったから。
それがなければ、今だって一緒に居ただろうし、俺が誰かと付き合おうと思うことすら、なかったのかもしれない。
だけど、それじゃダメだ。
知らないうちに、お互いがお互いに縛られていたんだから。
俺はあきらのおかげで関係性に向き合えたと思う。
あきらも、俺をきっかけに恋愛に向き合えたと思う。
だって、十年以上一緒に居て、こいつのこんな顔を見るのなんて、初めてだから。
これでよかったのだ。
「柊喜」
「あぁ」
「今までありがとっ」
「こちらこそ。そしてこれからもよろしくな」
「うん。……幼馴染には、変わりないからね」
今後、あきらと一緒に居る機会は極端に減るだろう。
だけど、今までの思い出が消えるわけじゃない。
俺達の間には歪な愛情もまた、存在している。
親兄弟がいない俺にとって、あきらは唯一の
「帰ろっか」
「そう、だな」
報告は終えた。
みんな色々思いはあるだろうが、一応祝福してもらえた。
俺はチラッと姫希の方を見た。
彼女は帰って行くあきら達の後ろ姿を、ちょっと寂しそうに見つめていた。
少しして、俺の視線に気づく。
そしてニコッと笑った。
「あたし達も帰るわよ」
「その前に。おなか、空いてないか?」
「……空いてるわ」
「どっか行くか」
「はぁ、なんだか付き合った実感わかないわね」
「ははっ。今後の食費が思いやられる」
「あたしに告白した事、後悔させてやるわ」
軽口を叩き合えるのが俺達の関係の良いところだよな。
まぁ、こういうのが付き合ってる感を薄れさせるのだが。
二人で笑いながら体育館を後にした。
全部、終わったのだ。
◇
【あとがき】
物語はまだ終わりません。
あと三日、よろしくお願いします(╹◡╹)
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