第213話 他愛も無い打ち上げ模様
その日の晩は盛大に祝うことになった。
決勝が決まった時点で、勝敗はどちらにしても今日の夜は打ち上げをする予定だったし、しっかりと一昨日から店を予約していたのだ。
とは言え、やはり勝つに越したことはない。
俺達は最高の気分で店に入った。
……誰も飲めないのに、居酒屋に。
「それではー、春季大会優勝を祝して乾杯しましょう!」
「わーい」
「お疲れ~」
「お疲れ様でーす」
「ん」
みんなでソフトドリンクを突き合わせながら、一気に飲む。
ちなみにメンバーはいつも通り、俺と選手五人、そして朝野先輩と彩華さんだ。
「めっちゃビール飲みたい……。運転疲れたのに」
「ダメだよお姉ちゃん。ここからも運転なんだから」
「唯葉が代わりに運転して」
「飲酒運転よりダメでしょ! 無免運転は!」
ふざけた姉妹喧嘩に俺達はげらげら笑う。
ジャンクな料理を全員で注文して、つまみながら他愛もない話をした。
「そう言えば柊喜、今日他校の男子に告られた」
「ごほっ! ぶは……。は?」
「何その反応。超可愛いじゃん。嫉妬してるの?」
「いや、そういうわけじゃ。ってかマジ?」
隣に座っていたあきらに聞くと彼女は頷く。
「勿論フッたけどね。好きな人いるからって」
「そうか」
「あはは。それに、どうせ私のどこを好きになったのかなんて、その人の目線見たら聞くまでもなかったし」
「……」
強調するように腕を組んで見せるあきら。
むにゅっと潰れる大きな胸から目を逸らすよう、俺は逆サイドを向く。
そこにはすずが座っていた。
「しゅうき、このジュース美味しいから飲んでみて」
「わかった。今のやつ空いたら注文するよ」
「そう言わず、是非このストローで」
「いやいや、遠慮します」
意地でも俺と間接キスがしたかったのか、おかしなことを言ってくるすず。
そこに、丁度今までトイレで席を立っていた凛子先輩が帰ってきて、背後から会話に割り込んできた。
「すず、そういう時は直接飲ませてあげればいいんだよ」
耳元で言われて俺は思わず振り返る。
そこには端正な凛子先輩の顔があった。
「柊喜君、いくよ?」
彼女はすずのジュースを口に含んでそのまま顔を近づけてくる。
しかし、あと数センチの所で俺はあきらに引っ張られた。
「凛子ちゃん何やってるの」
「あーあ。最後の思い出に柊喜君の唇堪能しようと思ったのに」
「絶対ダメだから。あげません」
「むぅ。あきらのじゃない。すずの」
「あんた達、こんなとこで争うのやめなさいよ。みっともない」
呆れたように言うのは姫希だ。
若干据わった目で砂肝の唐揚げを食べている。
そして髪は隣に座る彩華さんに弄られていた。
為されるがままって感じである。
「姫希ちゃん、マジ髪サラサラ。良い匂いするしなんなのほんと」
「……どうも」
「いいなぁ。ってかなんか辛くなってきた。もう私おばさんなんだなぁ」
「お姉ちゃん、最近お尻のハリがなくなtt——」
「そのお団子ヘアできないようにするよ」
「ご、ごめんなさい。言い過ぎました」
すまし顔で姉に一矢報いようとするも撃沈。
ぶるぶる震える唯葉先輩はまるで小学生だ。
この人、本当に部活以外の時は子供っぽいからな。
「ってか彩華さん酔ってます?」
「なんか雰囲気でね。ノンアルだから大丈夫なはずだけど、楽しいからふわふわしてる」
「お水いりますか?」
「薇々ちゃんは気が利くね。流石マネージャー」
呑気な会話を聞きながら、俺はしみじみ思う。
本当に凄いよな。
僅か五名の選手とマネージャーだけで、まさか県大会を優勝してしまうとは。
居酒屋の個室に並んで座って、異常性を痛感する。
完全なる実力勝ちだったとは言わないが、それでも優勝は優勝だ。
もはや強豪校であると言って、誰も疑わないだろう。
「来年、結構部員増えるかもな」
ボソッと俺が呟くと、一斉に視線を感じた。
あきらが口を開く。
「……あんま増えるのやだな」
「なんでだよ」
「だって競争相手が増えるじゃん。バスケするなら確かに部員多い方がいいけど、柊喜の取り合いのライバルは少ない方が良い」
「えぇ……」
「少し同感かも。これ以上痴情の縺れが起こるのは面倒」
「気にしなくても俺はモテないと思うけど」
「はぁ、何を言ってるんですか。あなたがモテないなら日本の男子高生の大半がモテませんよ」
「ほんとそうだよ。別に僕らが変なわけじゃないんだよ」
「しゅうきカッコいいもん」
全員に言われ、俺は顔が熱くなるのを感じた。
まさか、不用意な発言からこんなに褒められるとは。
恥ずかしすぎて、俺は席を立つ。
「どこ行くの?」
「ちょっとトイレ」
「あら、逃げるのね」
「許してくれ。照れるんだよ」
「あははっ」
姫希にジト目を向けられ、あきらに笑われ。
俺はとりあえずその場から離れた。
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