第144話 図書室でお勉強

 数日間誰に相談するわけでもなく色々迷った挙句、とりあえず学校での空き時間で勉強をしようと試みた。

 しかし、意外に学校とは騒がしい場所だ。

 教室にいると他の奴らの雑談の声とかが気になって集中できない。


 これは勉強嫌いな奴のあるあるだと思うが、他にノイズがあるとそちらに注意が向いてしまうのだ。

 勉強への集中力が著しく低いせいである。

 他にも、スマホが気になったり、色んな問題もある。


 授業間休憩の時間に、教材を開いて唸っている俺に隣の姫希が言ってきた。


「何よ、隙間時間に勉強なんて珍しいわね」

「……期末テストが近いからな」

「ふぅん。どうでもいいから忘れてたわ」

「どうでもいいって」


 大事な定期考査をどうでもいいとは、なかなかファンキーな奴だ。


「お前って成績どのくらいなんだ?」

「中の上って感じじゃないかしら。数学は毎回トップ5に入っているけれど」

「……凄いな」


 数学の成績が良いのは知っていたが、まさかそのレベルだとは思わなかった。

 具体的な数字を聞くと、やけに眩しく見える。


「別に凄くないわよ。うちの高校の数学なんて教科書の基礎問題しか出ないし、応用もないんだから、できない方がおかしいのよ」

「それ、俺以外には言わない方が良いぞ」

「物分かりが悪い人は嫌いなの」

「……」


 こいつ、本気で言ってるのか?

 ツンとすまして髪を弄っている姫希の横顔には、自分にブーメランが刺さっている自覚はなさそうだ。

 俺がどれだけ苦労しながらバスケを教えたと思ってやがる。


 ジト目を向けていると、彼女は口を開いた。


「どうしたの? わからないところがあったら教えてあげるわよ」

「珍しいな」

「君が補習をくらって練習できなくなったら困るもの」

「そりゃそうだ。だけど遠慮しとくよ」

「ふぅん」


 さっきの話を聞いた上で、こいつに教えを乞おうとは思わない。

 めちゃくちゃに怒られそうだ。

 以前数学の問題を聞いて色々言われたのも覚えているし。


 俺の返答に、姫希は興味無さげな声を漏らした。



 ◇



 というわけで昼休み、俺は昼食を早々に終えて図書室に向かった。

 理由は単純に、図書室なら雑談の声に集中力を奪われないと思ったからだ。


「あ」

「こんにちは」


 図書室に入ってすぐに知り合いに遭遇した。

 いつもと違って眼鏡をかけており、加えて髪の毛を下ろしているので一瞬気付かなかったが、声を聞いてすぐにわかった。

 この小学生並みの座高は間違えようがない。


 その子は出入り口付近のテーブルに教材を広げている。


「唯葉ちゃんも勉強ですか?」

「そんなとこです……」


 眼鏡をくいっと上げる仕草が妙に馴染んでいない。

 なんとなく空いていた唯葉先輩の前の椅子に座り、同じテーブルに着くと、彼女は恥ずかしそうにテーブルをまとめた。


「散らかしててごめんなさい!」

「俺が勝手に座ったので大丈夫です」

「そういうわけにもいきません」

「っていうか、眼鏡してたんですね」

「いつもはコンタクトなんです。視力は悪いので。……あと、眼鏡をかけたら知的に見えてお姉さんっぽくなるかと」

「はは」

「千沙山くん、どうして笑うんですか? 先輩のことを馬鹿にしてますねっ?」


 いつも通りなお決まりのやり取りをした後、俺達は同時にため息を漏らす。

 一応言っておくが、かなりの小声だ。

 出入り口に近いため、廊下の声も相まって然程迷惑にはなっていない。


「時に千沙山くん、期末テストの対策は大丈夫ですか?」

「……このままだと赤点を取りそうです」

「そうですか。そうですよねっ」

「何で嬉しそうなんすか?」

「別にそんな事はありませんよ〜? えへへ」

「先輩がそんな人だったとは。見損ないました」

「はっ! ごめんなさいっ!」

「冗談ですよ」


 もう一度言っておくが、小声で話している。

 そもそも図書室には俺達と司書係さんしかいない。

 これでは迷惑もクソもないだろう。


「実はわたしもマズい状況でして」

「えっ、唯葉ちゃん成績良かったですよね? 塾にも通ってるし」

「……辞めてます」

「は?」

「塾は一か月前にやめてます」

「……嘘でしょ?」

「本当です」

「……」


 またまた唯葉ちゃんったら~みたいなノリで聞いてみたが、マジな顔で返答をされたため俺も言葉を失う。

 え、どういうことだ。


 図書室のテーブルの一つで、異様な雰囲気が立ち込めた。




 ◇


【あとがき】


 すみません!

 この話は本来、明日の更新話だったのですが、手違いで修正前の原稿を公開してしまったので、急いで修正して公開しました。

 明日も更新できるように、なんとか間に合わせます(╹◡╹)


 荒いままの文章を読ませてしまった方々、本当に申し訳ございませんでした……!

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