第132話 泣きっ面に元カノ
放課後に以前行っていたファミレスに行く予定を決め、教室に帰る。
席に着くなりトイレに行った姫希の背中を見ながら、なんとなく懐かしさを感じた。
そういえば前にも似たようなことがあった。
未来と色々あった日に、一緒にご飯を食べてくれたことがある。
あの日は結局その後大雨に見舞われたりと、最悪な一日だったが、律儀に熱を出した俺の看病までしてくれたんだよな。
口は悪いが、意外と面倒見は良いのだ。
ちゃんと後で礼を言っておこう。
なんて考えたからか、気付けば俺の席の横に最近は見なくなっていた女子が立っていた。
そいつは気まずそうな顔でノート一冊を持っている。
「……日直」
「……あぁ」
俺と未来は出席番号が前後だ。
どうしてもたまにこうやって日直として一緒に作業しなければならない。
「……じゃ」
未来は特に何を言うわけでもなく去って行く。
何か言いたそうな顔をしていたのに、言葉を飲み込んだらしい。
まぁ別れた男女なんて普通はそんなもんだよな。
俺もありがたい。
極力関わりたくないのだ。
クラス中が俺と未来の会話を固唾をのんで見守っていたのが面白い。
まるで一触即発の場面に瀕しているみたいだ。
「災難ね」
「仕方ない」
「全くよ」
トイレから帰ってきた姫希はつまらなそうな顔でそう言う。
こいつは俺と同様にあいつには思う所があるだろうしな。
実害を受けているんだから。
「今日はそれ込みで愚痴聞いてあげるわ」
「はは、飯食う時くらい楽しい話しようぜ」
「それは確かに」
今日もハードな一日である。
◇
放課後、俺と未来は日誌を書くべく二人で居残っていた。
姫希には校門で待ってもらっている。
「なんかあった?」
「え?」
「いや、朝から顔色悪いから」
恐らく俺の記憶の中で初めて味わう気遣いに、俺は目を丸くした。
こいつ、本当に俺の元カノか?
他人の機嫌なんて全く気付きそうもないのに。
しかし、目の前に座る元カノの顔はいつも通りだ。
前髪をピンでとめておでこを出すスタイルは健在。
あどけなさを感じさせる可愛い顔も、俺が大好きだった顔だ。
反対に今俺が苦手な顔でもあるんだが。
見つめていると眉を顰められる。
「なに?」
「いや、別に。ってか俺の顔色が悪かったらなんか問題があるのか」
「心配だし」
「は?」
やっぱこいつ未来じゃないかもしれない。
誰だよ。
心配してる? 俺を? 未来が?
わけがわからなさ過ぎて開いた口が塞がらない。
「一応元カノだし、気になるって」
ボソッと言う彼女に俺は驚いた。
どうやらこいつにも人の心というものが存在したらしい。
「なんでそんな間抜けな顔してんの?」
「間抜けとか言うなよ」
「だってめっちゃ不細工だったから」
「……」
やはり未来は未来だった。
ただ、正直こっちの方が落ち着く。
「何があったの?」
「……」
あきらの話を未来にするのは一番あり得ない。
姫希は本人から情報共有が行われているみたいだからいいとしても、それ以外の人には言っちゃダメだろう。
俺も言いたくない。
それに、こいつも言っているように腐っても元カノだ。
恋愛絡みの話はしたくない。
だけど、話を聞くのはアリかもな。
全く価値観が違う人間の意見は、時として新たな考えを与えてくれる。
「お前ってどういう心境で俺の事フッたの?」
「え? 特に何も考えてないけど、もーないなって思ったからフッた。それだけ」
「……なるほど」
最近色々考えてこんがらがっていたのだ。
俺はあきらは勿論、すずの告白も凛子先輩の告白も受け入れる気はない。
誰とも付き合う気はない。
だがしかし、その際に悩むのは断り方だ。
人一倍フラれるショックには敏感な俺だからこそ、最低限気を遣いたい。
ばっさり切り捨てるのは正直アリだと思う。
変に優しくして可能性を感じさせるのは悪手だ。
それくらいわかる。
だがしかし、こいつみたいに捨て台詞で死体撃ちをするのは流石にやり過ぎだ。
その塩梅を見極めたかった。
「デカいから邪魔って言ったのは悪かったと思うよ。ごめん。あそこまで言えばすんなり別れられると思って」
「……」
俺が傷ついたのはそれだけじゃない。
もーいらないとか、別の人と付き合ってるとか、唐突にお前呼びされたりとか、そういう全ての事が一気に畳みかけられて嫌な気分になったのだ。
こいつは勘違いしている。
ただまぁ、こうして普通のトーンで謝罪を貰ったのは初めてかもしれない。
俺も最近は少し辛辣に当たり過ぎていた気がする。
謝っておいた方がいいかm――。
「ってかマジでデカいね。久々に至近距離で話してるけど、ほんと首疲れる。最悪」
「……」
前言撤回。
やはりこいつは何もわかってない。
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