第75話 先輩の案

 ※未来の視点です。第73話の未来sideになります。

 https://kakuyomu.jp/works/16817139555923935995/episodes/16817139558610389000


 ◇


 三連休二日目の日曜。

 私は学校に体操着を忘れていたことを思い出し、取りに帰った。

 金曜から置きっぱなしだから、多分汗の匂いとかついてる。

 最悪だ。


 憂鬱な気分で忘れ物を取り、ため息を吐く。

 家に帰って洗うのも面倒くさいし。

 久々の登校だったのに、こんなミスするなんてついていない。


 今日は自転車で通学していたため、それを取りに駐輪場へ向かう。


 金曜日は今思い出しても嫌な日だった。


 昼休みにキモい先輩に話しかけられるし、元カレに意味わかんない行動しちゃうし。

 そして極めつけは放課後だ。

 何であんな事言ったんだろ。

 柊喜に嫌がらせする竹原先輩に、何故か物凄く嫌な気になった。


「腐っても元カレだからかな?」


 一応は好きだった人だ。

 この前体育館で色々言われる前は、復縁してあげてもいいかな、くらいには思ってたし。

 ここ最近、自分が何を考えているのかイマイチわからない。


 柊喜の事は嫌いになったはずなのに、何故か考えてしまう。

 学校を休んでいた時だって、ふとした時にあの陰気な顔を思い浮かべてしまっていた。

 金曜だって久々に見るあいつが良く視界に入ってきた。

 本当に鬱陶しい。

 マジでデカすぎ。

 目障りなんだよ。


「はぁ……」


 駐輪場まで意外に遠かった。

 ようやく自分の自転車の前までやって来る。

 と、そんな私に同じく駐輪場にいた男子生徒が話しかけてきた。


「あれ? 君って未来ちゃん?」

「そうですけど」


 第一印象、爽やかイケメン。

 顔立ちが凄く整っていて、眉や髭等の処理からも清潔感が伝わってくる。

 柊喜の身長に見合わない幼い顔とは大違いだ。

 あと身長も高い。柊喜には及ばないけど。

 そして髪型もセットされていて決まっている。

 冴えない柊喜のものとは大違いだ。


「なんですか?」


 聞いてみると、先輩は顔を顰めた。


「君が使ってる場所、俺の駐輪スペースなんだけど」

「あ、ごめんなさい」


 そう言えば休日だったし、出席番号とか学年とか無視してテキトーに停めちゃったんだよね。

 謝ってどかすと、先輩は『サンキュー』と言って快く許してくれた。


「じゃあ……」

「待てよ」


 用もないので帰ろうとする私。

 しかしそれを先輩は止めた。


「俺、千沙山柊喜の中学の時の先輩」

「そうなんですか? あ、部活の?」

「そう。君のこと知ってるよ」


 知っているというのは、例の動画の件だろうか。

 柊喜が直接言った可能性もあるけど……いやいや。

 そもそも、こんな爽やかな先輩とあいつが仲良しだとは思えない。


 色々な事を考える私に、先輩はニヤッと笑って言った。


「未来ちゃんはまだ千沙山の事好きなん?」

「は?」

「何そんなに驚いてんの。金曜の話竹原から聞いてるよ、君に止められたからすごすご帰ってきたって。今はその罰ゲーム中」

「罰ゲーム?」

「そ。丁度昼からは女子に用事すっぽかされて暇だったし、一人で千沙山んち行かせてる」

「えっ!?」


 柊喜の家にあいつが?


「何をする気なんですか!?」

「めっちゃ食い付くじゃん。何するって、ただの戯れかな。ほら、千沙山がいると竹原と凛子がくっつかなくておもんないから、邪魔すんなって言いに行かせた」

「……そう言えばあの人、誰かに命令されてたような」

「命令ってわけじゃねーけど、多分俺だろうな。宮永陽太」


 そうだ、あの人も確か『陽太が』って言ってた。

 という事は、この人が柊喜に嫌がらせをしている黒幕。


「……宮永先輩は、しゅー君の事嫌いなんですか?」

「ん? まぁ好きか嫌いかで言うと、大っ嫌いだな。可愛げねーし、昔っから舐めた態度ばっかり取られてたから」

「自分が嫌いだから潰そうとしてるの? 人を使って?」

「別にそーいうつもりじゃなかったんだけど」


 つまらなそうに頭を掻く宮永先輩。

 彼はそのままため息を吐きながら私に言った。


「仮にそうでも君になんか関係ある?」

「ッ! ないけど……ないですけど、なんか嫌なんです」

「ふぅん?」

「しゅー君の嫌がる顔思い出すと、胸が痛くなるから、見たくないんです」


 あいつの悲痛に満ちた顔と、そこから繰り出された言葉を思い出すと、今でも苦しくなる。


「なーんかよくわかんねーけど、マジで未練たらたらじゃん」

「はぁ? 未練とかないですけど。あいつのこと嫌いだし」

「自分の発言を聞かせてやりたいな。まぁいいや、どっちにしろあいつと凛子は引き離さないと」


 どいつもこいつも、意味わかんないことばっかり言ってくる。

 未練なんかないって。


 と、宮永先輩は意地の悪い笑みを浮かべた。


「なぁ、俺らと組んで千沙山をコーチやめさせよーぜ」

「……」

「お前も嫌だろ? 元カレが他の女とイチャイチャしてんの。な、利害の一致だからさ、組もうぜ」


 少し良い案のように思えた。

 柊喜の周りには今、たくさんの女の子がいる。

 特にクラスでもよく話している伏山さんなんかを見ると、無性に嫌な気分になるし。

 確かに部活を辞めさせるというのは良いかもしれない。

 路頭に迷ったあいつが、私の元に帰ってくる可能性もある。

 私は頷いた。


「……ダメだよ」

「え?」


 先輩の案を受け入れようとして出た言葉は否定だった。


「しゅー君は、私のこと超好きだったの。でも今は、その私よりあの子達の方が大事って言ってた。それは多分、あいつにとって彼女達が凄く大切って事で……」

「はぁ?」

「とにかく、私はもうしゅー君に仕返しとかしたくないんです。あと、できればやめてほしいです」


 自分でも何を言っているのかわからない。

 別に柊喜の事が好きなわけではない。

 ただ、もう拒絶されたくない。

 これ以上嫌われたくない。


 私の言葉を聞いた先輩は意味不明そうに眉を顰めていた。


「君が何を言おうと、俺らのやることは変わんねーけど」

「……」

「まぁただ、そこまで言うならせめて正々堂々辞めさせるか」

「え?」


 ニヤッと物凄く意地の悪い笑みを浮かべた先輩に、私は足が震えてしまった。

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