第73話 学校に用事
「で、なんで俺も同伴?」
「話し相手いないと暇じゃん。それに、僕に取りに帰れって言いだしたのは柊喜君だよ? ……責任取ってよね」
「最後の言い方、なんか嫌です」
「あはは。……出したいって言ったのは柊喜君なのに」
「課題を出したいって話ですね? 主語を抜くのはやめてください。マジで危うい話にしか聞こえないですから」
げらげら笑いながら俺の隣を歩く凛子先輩。
シャワーを浴びた後なため、今日も前髪は下ろしている。
一々セットしなおすのが面倒なんだろう。
「柊喜君は揶揄い甲斐があっていいなぁ」
「こっちの身にもなってくださいよ」
「美人の先輩にドキドキしちゃう感じ?」
「……美人なのは全く異論ありませんが、中身が残念な事を知っているのでドキドキはしませんね」
「可愛くなーい」
俺の反応を見て楽しむのはやめて欲しい。
高校一年生童貞の純情を弄ぶなんて、重罪である。
法で取り締まるべきだと思うのですが。
学校まで歩いて行く途中、俺達は話す。
「てか、なんでそんなテキトーで成績取れるんすか?」
「だってうちの高校、偏差値五十ちょっとじゃん。実は僕、中学時代から偏差値七十近くあったんだよ」
「は? じゃあなんでうちの高校なんか……」
俺達の通う高校は私立である。
私立と言っても有名校ではないため、大した設備が整っているわけでもない。
要するにただのすべり止め。
だからこそ、そんなに優秀な人がうちの高校に入学する理由が分からなかった。
俺の言葉に凛子先輩は苦笑する。
「まぁ、一人暮らししたかったから、実家とは遠い場所の高校に進学したかったんだ。あと僕、実は兄がいるんだけどさ、そいつが凄く成績良くって、隣の県の光南高校っていう偏差値74くらいある高校に通ってたんだけど」
「偏差値74ってすごいですね」
「でも、肝心の大学受験に失敗して、元の志望校よりも偏差値十以上低い滑り止めの大学に入ったんだよね。それで親がすっごい萎えてさ」
「あー」
期待がデカいだけ、裏切った時の失望も比例するよな。
過去を思い出して顔が引きつった。
よくわかるぞ。
と、凛子先輩は続けた。
「で、当然僕も期待されてたんだ。同じく光南高校に通って、兄の代わりに今度こそ有名国立大学に合格しろって。でもさ、そういうの面倒くさいじゃん? 父方の親戚はみんな出来が良いから、お母さん焦ったみたいに手をかけてきてさ。で、それが鬱陶しくて幻想を抱かれてるのがきつかったから、敢えてこの学校に来たんだ」
「……」
「お母さん絶句してたね。まぁでも、今は気が楽」
うんと伸びをする凛子先輩は、解放感に溢れていた。
なるほどな。
偏差値五十前後の奴しかいない中で、適正偏差値が七十以上ある奴がいたら、そりゃ無双できるって話か。
それにしてもこの人、兄とかいたんだな。
かなりのイケメンだろうと予想する。
「ちなみに僕の兄は身長百七十もないし、全然モテないよ。多分イケメンでもないんじゃないかな」
「平気で心読むのやめてもらっていいですか?」
「凛子を知ると世界が平和に」
「……は?」
「柊喜君、流行ったアニメくらいは見よう。原作まで履修しろとは言わないからさ」
「……なんかすみません」
何を言われているかさっぱりわからない。
と、そんなこんなで会話をしているうちに学校に着いた。
職員室に寄って鍵を開けてもらい、お目当ての物を手にする。
そして帰路に着こうと学校の二年生廊下を歩いた。
「一つ上のフロアって歩くの緊張しますよね」
「わかるわかる。逆に下の階歩くのもちょっと嫌」
「階層ごとに雰囲気全然違うの、面白いですよね」
学校あるあるだよな。
去年いたはずのフロアも、学年が上がると全身がむずがゆくなるアレ。
環境ってのは他人の雰囲気が作り出すものだと、改めて思う。
ふと廊下の窓から外を見た。
いつも通りの駐輪場。
日曜なので自転車の数はかなり少ない。
しかし、そこで視界に入ったのはおかしなものだった。
同じく外を見た凛子先輩が『えっ?』と声を漏らす。
「あれって……」
「……いやいや、人違いですよ。きっと」
「三階からも見えるあんな綺麗なおでこ、あの子しかなくない?」
「……」
人違いだろうという線をいとも容易く潰された。
それもそのはず、ちょうど校舎側を向いていたため、髪型がはっきりわかる。
あんなおでこ野郎、元カノしかいない。
何やら誰かと会話をしているようだ。
声もよく聞こえないし、あまり良く見えないが、揉めている感じがする。
珍しい。
俺とは色々あったが、あいつは基本的に人間関係をうまくこなせる奴なのに。
なんでも素直に反応する奴だから、好きな物にもストレートな表現。
付き合い始めの当初は『大好きだよ』とよく言われていた。
「……」
変なモノを思い出して死にたくなった。
早く忘れたい。
「ちょっと柊喜君あれ……」
「……え?」
未来の会話の相手が動いたため、俺達の角度からもしっかりと視認できた。
そして、その相手の顔に驚きを隠せなかった。
そいつはさっき見た宮永陽太だった。
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