第63話 BBQ (girl’s side)

 ※あきらの視点です



 ◇


 柊喜たちが買い出しに行った後、私と凛子ちゃんは二人で準備をしていた。

 バーベキューをやるのは庭だから、後で道具の支度もしなくちゃいけない。

 そして野菜の用意もある。


 今は凛子ちゃんと二人でキッチンに並んで野菜を切っている。


「玉ねぎどのくらい使うかな」

「うーん、まぁ足りなかったら足しましょうっ」

「そうだね。キャベツはあきらが切ってくれてたから、えーっと」


 凛子ちゃんは冷蔵庫からピーマンを取り出して唸った。


「唯葉はピーマン食べられないんだよね」

「すずも無理じゃなかったっけ」

「ほんと子供で笑っちゃうよ」

「あは、可愛いじゃないですかー」


 すずも唯葉ちゃんも子供っぽいところが可愛すぎる。

 つい優しくしてあげたくなるような、幼稚園児を見ているような。

 でも唯葉ちゃんは部活では引っ張ってくれるし、頭も良いし、実は頼れる先輩って言うのがギャップで良い。


「あの子たち大丈夫かな」

「まぁ柊喜もいるんで。……すずに振り回されてなければ」

「あはは」


 笑いながらピーマンの種を取る凛子ちゃん。

 私はそんな彼女につい聞いてしまう。


「あの」

「ん? どした?」

「この前、柊喜のこと……」


 放課後の事だ。

 宮永君に絡まれたとき、凛子ちゃんは柊喜の事が好きだと言っていた。


 あれ以降あの言葉の説明はない。

 どういう事だったのか。

 ずっともやもやしていた。


 多分私は変な顔をしていたと思う。

 若干表情が硬くなっていることが自分でもわかった。


「……あきらは柊喜君の事好き?」

「どういう意味ですか?」

「男の子として見てるのか、家族として見てるのか、って話」

「……家族ですよ」


 言っていて胸がちくっとした。

 そんな私を見て、凛子ちゃんはふっと冷めたような、クールな笑みをこぼす。

 切なさを煽ってくる顔だ。


「で、どうなんですかっ!?」


 間に耐えられなくて質問を重ねると、凛子ちゃんは下を向いた。


「ごめん。僕にその気はない……かな。あれはその場凌ぎって事で」

「そっかーっ」

「……ね、なんでそんなに嬉しそうなの?」

「別にそんなことないですけど」


 ないはずだ。

 別に凛子ちゃんが柊喜とどういう関係になろうと、仲良くしてるなら私は嬉しいし。


「あきら……本当はしゅうk――」


 凛子ちゃんが何かを言いかけたその時、インターホンが鳴った。


「姫希かなっ?」

「……そうかも」


 私は急いで玄関を開ける。

 と、そこには心なしか普段の私服よりも気合が入った格好の姫希が立っていた。

 顔もいつもよりきりっとしててめっちゃ可愛い……!


「……なんであんたが出てくるのよ」

「柊喜は今買い出し中」

「あんた一人?」

「ううん。凛子ちゃんもいる」


 とりあえず姫希に家に上がってもらうと、すぐに姫希と凛子ちゃんが顔を合わせる。


「お、姫希可愛いじゃん。どしたの? デートかってくらい気合入れてるね。若干メイクした?」

「た、嗜みです」

「ふーん?」


 やけに挑発的な凛子ちゃんにたじろぐ姫希。

 まぁ私にも大体察しはつく。


「姫希は柊喜に可愛いとこ見せたいもんね?」

「はぁッ!?」

「あー、あきら言っちゃった」


 ここに柊喜はいない。

 そしてバレバレの話だし、今更だよね。


「い、意味わかんないこと言わないでくれるかしら?」

「はいはい」


 ニヤニヤしながら姫希の頭を撫でる凛子ちゃん。

 姫希は心底嫌そうな顔で手を払う。

 相変わらずツンツンしている。

 そこがまた良いんだよね。


「ふん。凛子先輩だって十分気合入ってるじゃないですか。前髪下ろすときはおしゃれする時って言ってましたよね?」

「そうだっけ? 僕記憶力悪いんだ」

「嘘つき! 学年一位のくせに! 嫌味がお上手な事で」

「捻くれてるなぁ。可愛い」

「ひっ」


 頬のラインをなぞられて姫希が悲鳴を上げる。


 そんな彼女は今度は私を見た。


「あんたも大概よ。髪なんか弄っちゃって」

「あ、そうだ。今日は全員ハーフアップにするんだよ」

「なによそれ……」

「すずもやってくれてるし、あとで唯葉ちゃんの髪もやるもん。凛子ちゃんもやりますよねっ?」

「えー、この長さでいけるかな?」

「大丈夫です!」

「あ、あたしはやるなんて言ってないわよ」


 じりじりと後退する姫希に私は寄っていく。

 と、凛子ちゃんが口を開いた。


「ってか、僕ら”も”って事は姫希がおめかししてるのは認めたんだ?」

「あ、いや……」

「あれー?」


 二人でニヤニヤ追い詰めると、姫希は顔を赤くしながら呟いた。


「わ、わかんないわ。でも、私服がダサいって思われたくないから……」

「ッ!」


 なんでだろう。

 望み通りの言葉が返ってきたのに、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

 弄ってやろうと思ったのに、言葉が上手く出てこない。

 あれ。


「……はいはーい。じゃあ姫希、一緒に準備しようか?」

「あ、はい」

「野菜は大体切ったし、僕と姫希は外の準備をしよう。あきら、残りは頼めるかな?」

「……うん」


 私が黙り込んでいるうちに凛子ちゃんが姫希を連れて出て行く。

 そして一人になった。


「あれ?」


 やっぱり自分の気持ちがイマイチよくわからない。

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