第62話 買い出し
「姫希遅い」
「電車だから仕方ないよっ。ってかみんなが早過ぎるだけじゃん?」
「楽しみだったからさ」
「わたしも千沙山くんのおうち興味あったんです!」
「すず、眠くなってきた」
「ほら、僕の膝の上で寝てていいよ」
「ん……良い匂い」
「そりゃさっきシャワー浴びたから」
「ってか唯葉ちゃんと凛子ちゃんも髪型変えよっ」
「えー、わたしの長さでいけますか?」
「大丈夫! 頭のお団子潰せばいけますって」
「お団子潰すの!?」
部屋の中央で女子四人がわちゃわちゃしている。
ソファに座る凛子先輩の膝に頭を乗せるすず。
唯葉先輩と謎の攻防を繰り広げるあきら。
ここ俺んちだよね?
アウェー感が半端ないんだがどうしよう……。
普段から部活で女子に囲まれていたが、学校と家じゃ全く違う。
俺のプライベートな空間に同年代の女子が集まっているという状況に、改めてこの合宿というイベントの難易度を痛感させられた。
今日明日明後日、無事に終わるのかね。
ぼーっと部屋の隅に立ち尽くしたままスマホを見る。
時刻は午後三時。
部活が終わったのが一時半だったため、まぁこんなもんだな。
「姫希の家ってどのくらいの距離があるんだ?」
「電車で三十分くらいじゃなかったっけ?」
「駅までがそのくらいなので、あの子の場合そこから自宅までとなると合わせて五十分くらいでしょうか」
「だいぶ遠いんすね」
素直に誰かの家でシャワー浴びてくればよかったのに。
という事はまだ結構かかるのか。
なんて考えているとあきらが手を挙げる。
ついコーチのノリで指名した。
「どうしたんだねあきら君」
「もうそろそろ夕飯の用意をしなきゃだよっ」
「そうだな。バーベキューだし、肉とか買わないと」
というわけで話し合いの末。
「俺とすずと唯葉ちゃんで買い出し、あきらと凛子先輩で色々準備を頼む」
二手に分かれて支度をすることになった。
◇
「しゅうき、BBQと言ったらマシュマロ」
「まずは肉だろ」
お菓子コーナーに手を引かれて行くが、断固拒否。
俺の返答にムッとするすず。
「後で買ってやるから」
「ん。約束。破ったら炙るから。網の上で脂落とす」
「……」
随分とリアルな脅し文句だな。
そして。
「唯葉ちゃん、見えてますよ」
「はっ!」
「……お菓子なら後で買ってあげますから。とりあえず肉見ますよ」
手いっぱいに飴の袋やらチョコやらを掴んでいるちっこい先輩を嗜める。
本当にやることが小学生じみている人だ。
というか、買い出しメンバーはこれでよかったのか?
二人の子供を引き連れて俺は店内を歩いて行く。
一人は体操服姿、もう一人は小学生。
うーん。
そんな事を考えていると、視線を集めているような……。
「兄妹仲いいわねぇ」
「家族かしら、若いお父さんね」
何やらとんでもない事を言われている気がする。
いやいや、気のせいだろう。
なんて思っているとぎゅっとすずにくっつかれた。
「何の真似だ」
「妹じゃなくて彼女っていうアピール」
「彼女でもねぇだろ」
「高身長カップルでお似合い」
「それは……」
俺くらいの身長になると、ちょうどいい身長差の女の子って意外と少ないからな。
確かにすずは貴重な存在である。
「あー、イチャイチャしてます」
「おいすず、唯葉ちゃんと手でも繋いでろ。はぐれられたら面倒だ」
「子ども扱い!? わたしだって立派なお姉さんなんですよ!? 再来月で十七歳です!」
「……五年くらい盛ってます?」
「あぁ! 酷い!」
とかなんとか身の無い会話をしながら肉を買っていく。
大方の必要品はあきらからメモを預かっているため、それに合わせて買うだけだ。
家庭的な幼馴染ってのはいつも準備が良い。
大体食料を買い終えると、我慢の限界だったのか二人にお菓子コーナーへ連れられた。
勿論カゴを持っているのは俺だ。
重い。
あちこち振り回されながら買い物をしていたため、かなり時間を食っている。
そういえば、姫希は無事にやって来れただろうか。
家の方は何か問題など起きていないだろうか。
……まぁ大丈夫だろう。
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