第49話 もやもやする幼馴染

 ※あきらの視点です



 深めのフライパンでお湯を沸かしながらぼーっと考える。

 ここ最近もやもやするけど、これは一体何なんだろう。

 体調が悪いというわけではない。

 ただ、不意に胸が苦しくなる。


 後ろを振り返ると、だだっ広いリビングルームが視界に入った。

 現在柊喜はいない。

 夕飯用に買おうと思っていた食材の見落としに気付き、わざわざ買いに行ってくれている。

 だから一人。

 柊喜の家に、私が一人でいるという状況だ。


 今日もこの家に泊めてもらう。

 最近課題をやれ、進路はどうなっている、とうるさくなってきた親が鬱陶しく感じて、逃げてきたのだ。

 大きな喧嘩をしたわけではないけど、ちょっと居心地悪い。


 三連休なこともあって両親共に二連休だったため、必然的に長時間一緒に居ることになりかねなかった。

 それが嫌で隣の柊喜を訪ねたというわけだ。

 この機会に両親は二人で小旅行に行くらしい。

 丁度よかった。


「はー、なんなんだろ」


 胸が苦しくなるのは、柊喜といる時や柊喜の事を考えるとき。

 好きなはずなのに、どうしてかもやもやする。

 いつからだろう。

 昔はこんな事なかったのに。


「未来ちゃんと別れてから?」


 あれをきっかけに柊喜は女子バスケ部のコーチをしてくれるようになり、若干それまでより接点が増えた。


 沸騰したお湯にパスタを入れると、そのタイミングで柊喜が帰ってくる。


「ただいま」

「おかえりっ」


 振り返ると、手ににらを掴んだ柊喜が立っていた。

 つい吹き出してしまう。


「なんでそのまま持ってるの?」

「いや、エコバッグ持ってなくて。でもビニール袋買うのは違うかなって思って」

「あはは。面白いから写真撮っていい?」

「やめろ!」


 身長百九十センチの大男がにらを片手に突っ立ってる絵はなかなかないのに。

 ノリが悪い幼馴染だよ、ホントに。


 と、柊喜がスマホを見ながら言ってくる。


「明日の夕飯どうする? 姫希との個別指導があるんだが」

「……そっか」


 胸がちくっとした。

 最近よくなる変な痛みだ。

 何故か姫希の話が柊喜の口から出るともやもやする。


 この前の件を引きずってるのかな。

 熱が出た時に私じゃなくて姫希が介抱してあげてた事。

 あれはなんだかちょっと嫌だった。


「あきら?」

「あ、いや。どうしよ」

「一緒に食うか?」

「……ってか、毎回個別の日は一緒にご飯食べてるけど、奢ってるの?」

「んなわけあるか。そんなことしてたら豆苗ともやししか食えなくなる」

「なにそれっ」


 柊喜との会話は楽しい。

 私が笑うと、向こうも薄っすらと笑みをこぼすのだ。

 それが最高に嬉しい。


「遠慮するよ。姫希も私が一緒じゃアレだろうし」

「あれってなんだ?」


 恐らくだけど。

 姫希は若干柊喜の事が気になっているんだと思う。

 初めは思いっきり嫌っていたけど、最近は距離がやけに近い。

 本気で好きなのか断定できるレベルではないにしろ、好意を抱いているのは明確に伝わってくる。

 呼び方もいつの間にか”千沙山クン”から”柊喜クン”に変わってるし。


 だからこそ、二人の邪魔はあんまりしたくない。

 姫希と柊喜がそういう関係になるのを邪魔してはいけない。

 元々柊喜を彼女ができるかも、と部活に誘ったのは私だし。


 それなのに。

 どうしてだろう。

 こんなことを考えているとまた胸が苦しくなってくる。

 心が何かを拒絶しているみたいだ。


「あー、でもいいや。明日は練習終わったらそのまま帰って来るよ。一緒に飯食おうぜ」

「え?」

「冷静に考えてお泊りしてる奴を無視して一人で飯食ってくるのはおかしいだろ」

「それはそうかもだけど……。で、でも私が急に押しかけてるだけだしっ! 幼馴染だし?」

「関係ねえよ。二人でゆっくり過ごすのも久々だろ? 大切にしようぜ」

「……なにそれ。キャラじゃないよ」

「はぁ!?」


 いきなり何を言いだすんだこの男は。

 全くもう、ホントに。


「で、そのご飯は私が作るんでしょ?」

「あ、出前でも注文しようか?」

「あははっ、いいよ。作ります~」


 柊喜は馬鹿だな。

 私は満面の笑みをこぼした。


 パスタはまだ茹で上がっていなかった。

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