第47話 久々の合宿
「このままでは確実に一回戦で負けます」
俺の言葉に、シーンと静まり返る部員たち。
現在珍しく体育館を貸し切っている状態だが、それが異様な静けさを生み出す。
風が吹き、木々が揺れる音が涼やかな午前十時半だ。
「そ、そんな事ないですよ! 皆上達してますし!」
「そういう問題じゃないです」
俺は昨日ぶち当たった難点を突きつけた。
「五対五の実戦経験があまりにも不足している」
「まだ五人揃ってもいないものね」
「一応聞いておくが、先輩が引退した後に五人揃って練習試合等をしたことは?」
「ないわよ。そもそもずっとこの四人」
不服そうに言った姫希を見て、俺は考える。
もうそろそろ大会の申請もあるし、時間がない。
どこから五人目を連れてくるか……。
そしてできることなら、一回くらいは練習試合をさせたい。
と、そんな時だった。
恐る恐る凛子先輩が手を挙げる。
「どうしたんですか?」
「えっと……五人目くるかも」
「ほんとですか!?」
嬉しそうに大きな声を上げた唯葉先輩が凛子先輩の手を握る。
「誰!?」
「すず」
「すずちゃん!」
知らない名前が出たところで、姫希とあきらが思案顔を浮かべた。
「あいつ、こっちには連絡寄越さないくせに」
「まぁまぁ、それにしても久しぶりだね」
「えーっと、昨日僕のスマホに連絡がきてさ。なんでも近々部活に来ようと思ってるけど日程が分からないからって」
「部活のグループで聞きなさいよ、まったく」
「まぁ凛子に懐いてますから、すずちゃんは!」
「キスで堕としただけでしょ?」
「ん? 姫希もまた僕の味を教えてあげようか?」
「い、嫌よ! もうあんなの……!」
そろそろと近寄る凛子先輩から逃げていく姫希を眺める。
話が逸れてしまったな。
まぁいい。
「すずって誰だ?」
ずっと感じていた疑問を口にすると、あきらが笑った。
「一年二組の
「へぇ、隣のクラスだ」
視界の端では姫希が凛子先輩に捕まっていた。
汗まみれのJK二人がべたべたと絡み合っている。
汚い。
それにしても高身長か。
かなりありがたいメンバーだな。
身長百六十センチ台が二人。
百七十センチちょっとの細いのが一人。
小学生が一人。
かなり高さの面には不安があったのだ。
「で、そいつはいつ来るんすか?」
「あー、わかんない。気分屋だから」
「……」
「来週のどこかには来るんじゃない? 珍しく自分から連絡してきたくらいだし」
どうしよう。
既にこの人達から聞いた話だけでも伝わってくる曲者臭。
上手くやっていける気がしない。
髪の毛をぐちゃぐちゃにされた姫希が、イライラを隠そうともせずに結び直しているのを見ながら思っていると、服の裾をくいくい引っ張られる。
「一応私からも連絡してみるよ」
「助かる。まぁ来週二組に顔を出しても良いし」
「あ、それ私も一緒に行く」
「頼むよ」
他クラスに突入できるほど俺の肝っ玉は据わっていない。
以前クラスで身長だけ高くて器が小さいと揶揄されていたが、あながち間違えではないという事だ。
だから顔の広いあきらが付いてくれるとありがたい。
持つべきものは幼馴染である。
「ってか後で通話かけてみよっかな。柊喜も話す?」
「突然得体の知れない男の声が聞こえたら怖いだろ」
「すずは気にしないと思うけど。あと、柊喜は優しいから大丈夫っ!」
「お前はいつもそう言うよな。どこが優しいんだよ」
「あはは」
俺は断じて優しくない。
口も性格もどっちも悪い。
自覚しているだけマシだとは思うが。
「やっぱり変だわ」
「え?」
と、髪を結び終えた姫希が片腕を腰に当てて俺達を見ていた。
「なんか距離が近い」
「気のせいだろ」
「絶対違うわよ。それにさっきの話」
「え?」
聞き返すと姫希は訝し気にあきらを見ながら言った。
「……なんで昨晩の事をあきらが知ってるのよ」
「あ」
先程の凛子先輩の悪ノリの時か。
確かにあの反応は一緒に夜を明かしたからこそだ。
あきらと俺は顔を見合わせる。
「あきら、昨日からうちに泊まってるんだよ」
「「えっ!?」」
姫希だけでなく、何故かあきらからも驚きの声が漏れた。
「と、泊ってるの!?」
「あぁ。そんなにおかしいか?」
「だって、お泊りよ!? え、え? 幼馴染だから?」
「そうだ」
家族と同じ場所で寝るのは普通の話だ。
流石に同じベッドは落ち着かなかったが、同じ家に泊めるのは何の抵抗もない。
別に知られたところでどうという話はないし。
そもそもあきらも言っていたが、姫希には俺とあきらが一緒に夕飯を食べる仲だという事も伝えてある。
色々と今更だろう。
話していると先輩二人も入ってくる。
なんなら外に洗い物に出ていた朝野先輩も戻ってきた。
「お泊りですか。楽しそうです!」
「若い男女が一つ屋根の下。あぁ……柊喜君はもう大人だったのか。さっきは失礼な事を言ってごめんね。一人じゃなくて二人で……あ」
顔を赤くして黙る凛子先輩の意外な反応に、俺まで恥ずかしくなってくる。
「……なんで言ったの」
「……すまん」
あきらにボソッと言われ、謝った。
なるほど、俺達がどう思っているかと世間の反応は違うよな。
同じベッドで寝たという話さえしなければいいと思っていたが、そういう問題ではなかったようだ。
「え……あんた達、つ、付き合って――」
「「ないです」」
見事にハモった否定に、姫希は咳払いをする。
「いえ、気は遣わなくていいのよ?」
「遣ってねえよ。ただ普段の夕飯お供が長引いただけだ」
「そう」
若干疑念を抱いたままの視線が痛く突き刺さった。
「あ、じゃあみんなでお泊りしようよ」
「え?」
「ほら、来週末も三連休じゃん? みんなでお泊りしよ? 薇々もいける?」
「私はちょっと無理かなぁ。でもでも、話は聞かせてね」
「寂しいな~」
凛子先輩によって勝手に話が進んでいく。
今度は唯葉先輩が顎に手を当て考え込む。
「両親に相談しなきゃです。あ、おねーちゃんにも」
「ねーちゃんいるんすか?」
「はい! 意地悪な姉が一人! いつもお菓子とか、食事中最後に残していた好きな物を取られます」
「……」
やはり小学生だ。
となると姉は小学校高学年か、あるいは中学生くらいか?
考えていると見透かしたように姫希が付け足す。
「何考えてるか知らないけれど、唯葉先輩のお姉さんは普通に大人っぽいわよ」
「そうなのか?」
「えぇ、超美人。大会の応援に来てて見たことあるけど、血が繋がっているのかも怪しいわ」
「姫希、もしかしてディスってます?」
「お姉さんを褒めてるだけです。それに唯葉先輩も可愛いじゃないですか」
「あれ、そうですか? えへへ……」
ちょろすぎる先輩。
今年十七歳の女性が果たして本当にこれで良いのか。
やはり年齢詐称に違いない。
「じゃ、来週末は久々の合宿に決定~」
「楽しみです!」
「……行ってあげないこともないわ」
「俺も強制参加なんすかそれ」
「……」
面倒な事になった。
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