第39話 俺の味方
翌日、遅刻ギリギリの時間に登校すると、案の上クラスに入った瞬間に物凄い視線を浴びる。
ざっとクラスを見回したが未来の姿はない。
まぁクラスグループを退会していたし、今日の欠席も想定内ではある。
よく見るといつもぼっちで予習をやっている姫希の周りに、何人かの女子が集まっていた。
それも未来と仲が良かった奴らだ。
「あー、千沙山君来た」
そいつらは自分の席に向かう俺の進路を妨害する。
「邪魔なんだけど」
「昨日の奴、マジ?」
「はぁ?」
「昨日グループに載っけてたやつ! 本当に未来から復縁迫られてたの?」
「あぁ……そうだけど」
嘘をついても仕方がないし、そもそも事実を伝えるための拡散でもあったために俺は頷く。
と、女子はこそっと言ってくる。
「あれ全部本当なの? デカいから邪魔だとかもーいらないとか……」
「嘘を言ってどうする。本当に言われた」
「やっば! それで復縁迫ってたとかわけわかんない!」
ぎゃははと汚い声を上げて盛り上がる女子に、俺は違和感を覚えた。
と、未来の悪口を言い始める女子達の他にも、別のクラスメイトに話しかけられた。
「千沙山、あんな事言われたからキレてたんだな」
「ごめん。まさかあんなことがあったとか知らなくて」
「つーかマジキモくねあいつ」
「ほんとやばいよねっ」
俺への謝罪はまぁいい。
望んだことだ。これが目的だったと言っても過言ではない。
だがその後のはなんだ。
なんでこいつら、散々未来の味方をしていたくせに、急に手のひら返して悪口言い始めるんだ。
こいつらに未来が何をしたって言うんだ。
「……ほんとキモいよな」
「だよな! あいつちょっと可愛いからって……」
「ちげーよ」
意気揚々と未来の事を言おうとした男子を見下ろして睨む。
「お前らがキモいんだよ」
「……は?」
呆気にとられながら俺との距離を取る男子。
俺はクラス中の視線が集中しているのをいいことに、教室を見回して言った。
「未来は確かにキモいし大っ嫌いだ。でもお前ら、ずっとあいつの味方してたくせに急に悪口言い出してさ。お前らはあいつに何かされたのか? 仲良かったんじゃねえのかよ」
さっきの未来の友達を見ると、気まずそうに目を逸らされた。
「俺からすれば未来もお前らも同類だ。全員気持ち悪い。なんか俺、今間違ったこと言ってる?」
「そ、それは言い過ぎじゃん。うちら千沙山君の味方だし……」
「馬鹿が。味方ってのは俺の代わりにあいつの悪口を言う人間じゃねえよ。俺の事気遣ってくれて、今後どうするかを一緒に考えてくれて、その上で一緒に怒ってくれる奴が味方なんだ」
ストーカーの件について相談に乗ってくれた凛子先輩と唯葉先輩。
冷静にあの場を動画で残してくれた朝野先輩。
フラれた日に俺よりも本気で怒ってくれたあきら。
クラスでの俺の不遇さにイライラし、不甲斐ない俺にわざわざ文句を言ってくれた姫希。
味方ってのはそういう奴らの事だ。
こいつらは違う。
ただ雰囲気に便乗して悪口を言いたがっているだけのクズ。
俺の味方だと? ふざけんなよ。
「ふ、伏山さんからも何か言ってよ」
「何をかしら?」
「うちらは味方だって」
「はぁ? 何言ってるのよ。さっき言ってたじゃない。『千沙山君なんかに固執するとか、未来の目腐ってんじゃね?』って」
「ちょ、なんでそれ!」
「あら。あたしはあんたの味方じゃないのよ?」
ニヤッと笑う姫希に動揺する女子。
最高に性格が悪いが、こういう所がこいつの長所だ。
ベリーグッド、ナイスプレイ。
「や、やっぱり伏山さんって千沙山君の事好きなの?」
「……好きよ」
「えっ!?」
驚愕の声が漏れる。
それはクラスメイトからではなく、他でもない俺の口からだった。
「つ、付き合ってるってこと?」
「ふん。……そ、そういうのじゃないわ。でもあたし、自分の事を必要だって言ってくれる人の事は大事にするって決めてるの」
「……なにそれ」
「部活の話よ。ってか、謝ったら?」
「何に対して?」
「散々裏で悪口言ったくせに平気な面して味方とか言ってたことに対してかしら」
まるで昨日の再現だ。
姫希に言われた女子が俺の方を見て、目を逸らしながら口を開く。
「……千沙山君ごめんね。でも勘違いしないで、うちら千沙山君の事を嫌ってるわけでもないから」
「そうか。俺はお前らの事大っ嫌いだけどな」
「ッ!」
当たり前だろうが。
今まで散々聞こえるように悪口言ってたやつを好きになれるわけがない。
何はともあれ、全員が言葉を失ったのを良いことに自分の席につく。
バッグを机のわきに置き、そのまま伸びをした。
よし。
結局俺は今後もクラス内で好かれる事なんてないだろう。
だがこれでいい。
ただ、事実を言ってみんなに受け入れてもらおうとする事から逃げていた昨日までとは違う。
自分の意志で拒絶されるのは、こんなにスッキリするのか。
それに俺にはもう味方もいるしな。
わざわざ俺の演説が終わるのを待っていたらしい担任が、気まずそうにおでこの汗を拭いながら教室に入ってくる。
そんな様子に俺と姫希だけが吹き出した。
◇
【あとがき】
お世話になっております。瓜嶋 海です。
第16話までを第1章としていましたが、あと4話(通常話2回+閑話2回)までを第1章と改めます。
また、この章のざまぁフェイズはここで終了です……。
お疲れさまでした(╹◡╹)
そして実はまだ第2章の内容は定まっておりません。
このヒロインの話が読みたい! みたいなのありましたらコメントお願いします。
考慮して展開練ります。
それではこれからもよろしくお願いします~
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