第35話 成長

 数日が経過し、翌週の放課後。


 いつも通り部活に勤しむ四人の選手、そしてそれを眺める俺とマネージャー。

 あれからの練習で、全体的にある程度動きは良くなってきた。

 素人に毛が生えた程度というイメージだった第一印象と比べて、今では弱小高のスタメンくらいには見える。

 相変わらずフリーのゴール下シュートを外したり、意味の分からないミスも目立つが、なんだかんだ成長はしていた。


 そして、その中でも一番成長しているのは間違いなく奴だ。


「今度こそ止めるよっ」

「……」


 向かい合うあきらと姫希。

 今日は四人で一対一を回す練習をしており、現在このようなマッチアップになっている。

 ボールを持つオフェンスが姫希だ。


「あっ」


 数回のフェイントに引っかかり、脇をするっと抜かれるあきら。

 完全に姫希の勝ちである。

 ……最後のイージーシュートさえ決めてくれれば。


「はぁ、はぁ……やっぱりダメね」

「そんなことないよっ! ドリブル超上手くなってる!」

「そ、そうかしら……?」

「あぁ、あきらの言う通り見違えるほどの進歩だぞ」


 拍手しながら近寄ると、彼女は額の汗を服で拭う。


「君のおかげよ」

「お前の努力があってこその成果だ」

「でも、最後のシュートが入らないんじゃ意味ないじゃない。NBAのカイリー・アービングが言ってたわ。どんなに良いプレイしてもシュートが入らないんじゃ意味ないって」

「お前はいつも無駄に意識高いよな……」


 目標や理想が高いのは向上心がある証拠。

 素晴らしい事ではある。

 だがしかし、それは時として自分の努力を認められなくなったり、精神的負荷をかけすぎてしまったりする。

 とりあえず褒められた時くらいは素直に喜んでおけって話だ。


「お前右利きなのに左手でシュート打つからダメなんだよ。ほら、こっちに」

「ちょ、触んないで」

「……」


 いつも通りの抗議をガン無視して、彼女の腕と腰を支えながら動かす。


「あ、そっか。このルートにドリブルすればよかったのね」

「フィニッシュまで想定しろって話だな。でもまぁ、その前の流れはめちゃくちゃよかったから今日はグッドプレーと言っておこう」

「……ありがとう」


 ぷいっと顔を背けながら、申し訳程度に感謝を伝えられる。

 もうちょっと顔を見て言って欲しい。


 と、あきらが寄ってくる。


「個別レッスン良いな。私にもやってよ」

「確かにそうだな」


 姫希の実力は先週だけのレクチャーだけで十分向上した。

 既にあきらより、技術的な事で言え凛子先輩以上のモノを身につけているだろう。

 もうそろそろ次のステップに踏み出してもいいかもしれない。


「夜のマンツーマンかぁ……楽しみ」

「凛子先輩が考えているようピンク色の指導はしません」

「わかってるよ。そっちの事は僕が教えてあげるから」

「はいはいそうですか。……ただ、唯葉ちゃんは必要ないかな」

「はっ! わたしだけ除け者!?」


 待ち時間でドリブル練習をしていた唯葉先輩の手からボールが転がっていく。


「なんでですか!? わたしのこと嫌いですか!?」

「嫌いなわけじゃじゃないです。唯葉ちゃんは既に上手なので、先輩の指導をするくらいなら他の奴に教えた方が効果的だと思っているだけですよ」

「嫌いなわけじゃない……そうですか」


 しゅんとしたままの先輩。

 何か間違ったことを言っただろうか。

 考えていると腰のあたりをツンツンされた。

 振り返ったところに姫希が腰に手を当てて立っている。


「何か?」

「”嫌いじゃない”じゃなくて”好き”って言いなさいよ」

「はぁ?」

「そんなだからフラれるの」

「……なるほど」


 こいつの言う通りかもしれない。

 ストレートな感情表現ってあんまりしてなかったような気がする。


 逆に考えてみよう。

 魅力的な奴は大抵好きとか嫌いとか、良くも悪くもド直球だ。

 あきらも、姫希も……そして未来も。

 今後は気を付けて生活してみよう。


「で、話は終わってねえ。姫希、さっきのドリブルからシュートの流れをやってみるぞ。ちゃんと決めろ」

「えぇ」

「あきら、いいか?」

「うんっ」


 再びさっきと同じポジショニングを取る二人。

 姫希はあきらを抜くと、そのままレイアップをした。

 シュートは今回も失敗。


「もう一回だ」

「……はい」


 三回目のチャレンジでようやく成功した。


「……何回も手間取らせてごめんなさい」

「いいんだよ!」

「そうです! それよりその前のドリブル上手でしたよ!」

「そうそう。もう僕なんて足止めもできないよ」


 皆に褒められて若干はにかむ姫希。

 その顔が不覚にもかなり可愛く見えてしまった。


「な、なによ」

「いや別に」


 くそ、調子が狂うぜ。


 そんなこんなで時刻は午後七時を若干過ぎている。

 今日の練習はこの程度か。

 俺は練習終了の合図を出そうとして、全員の方を見た。


 しかし、何故かみんな体育館入り口の方を見つめてフリーズしていた。

 時間差で、俺もみんなが見ていた対象を視認した。


「え……」


 面白くなさそうに腕を組んだ未来がそこに立っていた。





 ◇


【あとがき】


 大変お待たせ致しました……

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