第24話 美男美女のカップル
翌日の事。
そう言えば姫希がなくしたと言っていた財布がどうなったのか気になったため、俺は学校へ向かうことにした。
一応熱自体は昨日の夜には完全に引いており、怠さもなくなっている。
あきらと姫希の介抱には感謝しなければならない。
また今度夕食でも奢ってやろう。
これでまたうちの懐は寒くなるが、そのくらいの礼はしたい。
朝食を作り置きしてくれていたありがたーい幼馴染に手を合わせ、軽く食べる。
ちなみに本日は本来練習日だったが、病み上がりなので大事を取って休みになった。
あまりサボっている余裕がある連中ではないため、申し訳ない。
これは明日からまた頑張ってもらわないとな。
と、そんな事を考えながら制服に着替える。
簡単に用意を済ませてそのまま家を出た。
「あっつ」
もう九月に入ったと言うのに、異様な暑さ。
午前十時とは思えない太陽熱に焼かれながら、俺は歩いて学校を目指す。
「いや、無理」
流石に暑過ぎる。
別に急ぎの用でもないため、一旦進路変更。
近くにあったコンビニに入ることにした。
店内に入った瞬間、冷房が俺の活力を蘇らせてくれる。
頭が一気にスッキリした。
なんとなく店内を回る俺。
と、飲み物のコーナーで帽子をかぶった美男美女のカップルを見つけた。
「何飲む?」
「うーん。甘いのがいい!」
「じゃあこの無糖ブラックコーヒーかな」
「なんでですか!?」
よくわからない彼氏さんのボケに声を上げる彼女。
微笑ましいな。
彼女の方は身長がかなり低そうで、見た感じ百五十センチもなさそう。
麦わら帽子とワンピースというファッションのせいで、小学生くらいにしか見えない。
似合ってない大人びたバッグがなければ、本当に小学生にしか見えなかったはずだ。
対して彼氏の方は超スタイルが良い。
顔が小さくて足が長くて、全体的に細身のモデル体型。
女の子みたいな繊細さを感じる。
俺の視線を感じたのか、彼氏の方が不意に振り返った。
わお、すっごいイケメン。
正面から見た顔まで整っていて、流石に同じ男として自信喪失である。
しかし、ふざけた事を考えている俺に彼氏の方が微笑んだ。
「柊喜君じゃん。やほ」
「え……? あ」
「何その反応。もしかしてもう顔忘れたの? まだ一日ぶりじゃん?」
「城井先輩……」
前言フル撤回。
全然彼氏でも男でもなかった。
モデルみたいなイケメンの正体は城井凛子先輩だった。
となると……。
「千沙山くんじゃありませんか! 体調は大丈夫なんですか?」
「道理でちっちゃいわけだ」
「むむっ!? 今凄く失礼な事言いましたね? いいでしょう。表に出てください。この炎天下の中でわたしの剛腕が唸りますよ~?」
小学生の正体は宇都宮唯葉先輩だった。
なるほど。
どちらも知り合いだったらしい。
髪型が分かりにくかったので気付かなかった。
城井先輩は手を後ろで組んで近づいてくる。
「どしたの一人で。散歩?」
「ちょっと学校に行こうと思って」
「ん? 今日練習休みだよね?」
「姫希が財布を体育館に忘れてるかもしれないんで、それを探しに」
かくかくしかじか状況を伝えると、宇都宮先輩が元気に手を挙げた。
「じゃあわたしも一緒に探しに行くよ!」
「僕も行くよ」
「みんなで探した方が効率良いですしね」
こうして仲間が増えた。
再び飲み物を眺め始めた先輩たちに俺は聞く。
「今日はどうして二人で?」
「あぁ、デートしてるんだよ~」
「デートではありません! ただ一緒に遊んでるだけです!」
「デートじゃん?」
「ハッ! 確かにっ!」
「仲良いっすね」
アホみたいな漫才を右から左で聞き流しながら、俺も飲み物を見る。
「どう? 今日の唯葉の格好」
「かわいいです」
「なんか今、嫌なニュアンスに聞こえました」
ジト目を向けてくる宇都宮先輩、そして白い歯を見せて笑う城井先輩。
「僕がコーデしたんだよ。テーマはズバリ『小学三年生の夏休み』」
「流石です城井先輩。誰がどう見てもそうにしか見えません」
「ちょっと待ってください! 小三女子の平均身長は百三十五センチくらいですから!」
「……なんでそんなもん知ってるんですか」
わざわざ反論用にデータを覚えているのか?
その用意周到さを部活にも生かしてほしいものだ。
自分のワンピースをまじまじと見下ろす先輩。
フレアになっているのが可愛らしい。
でもやはり小学三年生にしか見えない。
「そう言えば柊喜君、体調崩してたんだって? 大丈夫なの?」
「まぁ今は熱も下がってるので」
「頑張り過ぎなんだよ。ほら、もっとゆる~く」
「そう言って練習量を減らそうとしてるんすか?」
「あれ? なんでわかったの?」
「はぁ……」
姫希が乗り気になったと思ったら、今度はこっちか。
城井先輩にも何か手を打たないとな。
この人はサボり癖がある。
日頃の部活への取り組みも、一番テキトーだ。
それぞれ飲み物を購入し、コンビニを出る。
灼熱地獄を耐えながら学校への道を進んだ。
「今日明日、唯葉はうちに泊まりに来るんだよ」
「両親が不在なので、お邪魔させていただこうかと」
「高二なのに料理すらできないからね、この子」
「凛子! なんてこと言うんですか! わたしだってやればできますよ! カップラーメンにお湯を注ぐのは二回に一回くらいしか失敗しません!」
「ダメじゃないすか」
俺も料理なんてできないし隣の家の可愛い幼馴染に頼りっきりなため、滅多な事は言えないが、それでもお湯くらいは注げる。
そもそも失敗ってなんだよ。
何がどうなったら失敗するんだ。
至近距離のカップにお湯すら注げない奴が、遠くにあるバスケのリングにボールを入れられるはずがない。
下手な理由が分かった気がする。
「城井先輩は料理できるんですか?」
「勿論。一人暮らしだし」
「なんか意外です」
「そりゃ柊喜君の前ではいつも良いとこ無しだからね。僕だって実は良い女なんだよ? 教えてあげようか? 唇で」
「じゃあ俺は代わりに先輩がどんなにダメな子か、バスケで教えてあげましょう」
「……意地悪」
やはりキス魔は厄介だ。
冷静を装っているが、こんな美人にキスしよ?と迫られてドキドキしないわけがない。
頼むぞ、俺の理性……!
「千沙山くん、手握り締めちゃってどうしたんですか?」
「ははは。なんでもないですよー」
学校はまだ遠い。
◇
【あとがき】
二話投稿は今日で終わりです〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます