第3話 幼馴染のお願い

「じゃあご飯にしよっか」

「あぁ」


 動き始めたあきらと共に、俺も立ち上がる。

 カレーと米を皿によそってくれている間、こっちで飲み物やスプーンなどを用意した。

 ご飯を作ってくれるのはあきらだが、用意と片付けは俺もやる。

 むしろ洗い物は俺が担当だ。

 そもそも俺の家だから当然って話だが。


 二人でご飯を食べ終えた後、満腹で膨らんだお腹をさする。


「いっぱい食べたね」

「あぁ、流石に二人で米四合は多過ぎだ」

「三合以上は柊喜が食べてるけどね。食べ盛りだっ」

「お前が勝手によそったんだろうが! まぁカレーが美味かったから意外に食べられたけど」

「あはは。嬉しい感想ありがと。まだルーは残ってるから、明日の朝食にでも」

「助かる」


 ニコッと微笑むあきら。

 料理を終えて一段落したのか、結んでいた髪を下ろしている。


 と、彼女は不意に真面目な顔で壁掛け時計を見た。


「柊喜は未来ちゃんと別れたんだよね」

「あぁ。フラれた」

「寂しい?」

「そりゃな。ただ、今は怒りの方が大きいかも」


 不誠実極まりないフラれ方をしたからな。

 普段あまり他人に怒らない俺でも、流石に感情が荒立つ。


「ねぇ、これから放課後暇なんでしょ?」

「そうだな」


 今まで放課後は未来と遊んだりするために、かなり拘束されていた。

 最近は減っていたが、それでも一応予定を開けていたのだ。

 だが今後その必要はない。


 頷いて見せると、あきらは俺の瞳を真っすぐ見て言った。


「私に付き合ってほしいんだけど」

「……え?」


 付き合ってほしい?

 それってつまり……愛の告白?


 目を真ん丸に開いているだろう俺。

 そんな俺を見て自分が何を言ったのか悟ったらしく、あきらは恥ずかし気に苦笑した。


「ごめん。そういう意味じゃない」

「だ、だよな! わかってたぜ!」


 失恋直後に付け込むのは男女逆だろう。

 それは男の常套句ってもんだ。

 最近よく聞く『どしたん、話聞こか?』って奴だな。


 って何言ってんだか。


 あきらは幼稚園児の頃からの幼馴染だ。

 恋愛関係になるなんて考えられない。


「気にしなくても変な目で見てないから。大好きだけど、ニュアンスが違うっていうか」

「おう。お前の方からフラグ折ってくれて変な勘違いせずに済むぜ」

「そもそも恋愛とかよくわかんないし。柊喜も私は対象外でしょ?」

「……」


 言われてまじまじ幼馴染の顔を見る。

 愛嬌があって可愛い顔だ。

 全体的に優しさとか温かさを感じる。

 実際あきらは学校でもそこそこ人気なようだし、モテる。

 その要因となっている一番はわかるんだが。


 運動部女子に最も似合わないそれがあきらにはある。

 大きくて柔らかそうで、五歳から成長過程を見ている俺でも驚愕するサイズ感のそれ。

 いわばおっぱい。


 正直邪な感情よりも、邪魔そうだなという感情の方が勝つ。


「何おっぱい見てんの」

「邪魔そうだなーと思って」

「邪魔だし痛い」

「そうか。俺にはわからんな」

「あげたいくらいだよ」

「……」


 約百九十センチの俺の胸にデカいおっぱいが二つぶら下がっているところを想像した。

 マジでキモかった。


「あはは。想像したらホントにキモくてカレー吐きそう」

「お前が言ったんだろうがよ」


 なんだかんだ長い時を共に過ごした幼馴染か。

 同じことを考えていたようだ。


「肩こりも凄いのなんのって」

「お揉み致しましょうか?」

「前に手持ってきそうだから嫌」

「触んねえよお前のデカ乳なんて」

「強がらなかったら触らせてあげてもよかったのにな。彼女にフラれて寂しいのかなーって、今日なら許してた」

「……ふん」


 性欲で男が釣れると思うなよ。

 誰がお前みたいな色気の欠片もない女に欲情なんてするか。

 ただまぁ、日頃お世話になっているから肩を揉んでやろうと思ったのは事実だ。

 今度温泉にでも連れて行ってやろうか。

 いやいや、そんな事をしたらまた変に揶揄われそうだな。


「ってか違う! こんな話がしたいんじゃないんだよ。お願いがあるの」

「お願い?」


 聞き返すと、あきらは頷く。

 そして言った。


「あのさ……私達の部活に入らない?」

「……は?」


 あまりの衝撃で俺の辞書から全ての日本語単語が消えた。


 だってこいつの部活、女子部活なんだもの。

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