第78話 一体何がどうなったんだってばよ

「おお、エリカ! エリカは何も変わっていないな」


「お祖父様! 私は私のままだ!」


 抱き合って再会を喜ぶ祖父トニーと孫エリカ。

 俺達の影響を受けたの人々は、そのままなのだな。


 直接的な関わりが無かった者達は、風車の魔王による歴史改変をもろに喰らって変化した。


『師匠、こちらの詳しい状況をお話しましょう。おいお前達、説明を手伝ってくれ』


 カイナギオが声を掛けたら、わらわらと若い男女がやって来た。


「この人達は?」


『孫です』


「孫かあ!」


 カイナギオファミリーだった。

 彼らは風車の魔王の歴史改変に巻き込まれているので、今の変わってしまった世界の歴史を詳しく知っているのだ。


 話しだした内容を纏めると、こう。


 生まれた頃から、世界は風車の魔王に支配されている。

 風車の騎士団は魔王の手下で、全員がモンスター化している。

 風車の魔王に逆らうと、騎士団が攻めてきて滅ぼされる。


 風車の魔王は世界中から食料や工芸品を収奪し、おもしろおかしく暮らしている。


 ちなみに、魔王はなぜかランチャー地方からポータル、そしてゴブリン王国と三つの国周辺だけを支配しており、最近になってようやく支配圏を広げようとしているという話だった。

 ずーっと決まった地域だけに君臨してたわけだな。


「これはね、僕……私の考えだと、風車の魔王はこっちに来て歴史を変えたけど……本人の感覚は私達と同じような時間の流れの上にあるということね」


「レーナ、どういうことだってばよ」


「ドルマがお祖母様を呼び捨てに。どういう関係なんだろう」


 まーだこっちのレーナが過去のレーナと同一人物だと気づいてないのか、エリカ。


「うふふ、それは秘密ね。それでドルマさん、風車の魔王は、恐らく昨晩こっちに来たのね。そして何かの力を使って歴史を変えて、自分がずっと君臨していることにした。だから、私達以外のみんなは風車の魔王にずっと支配されていると思っているけど……実際は、昨夜から支配され始めたということね」


「ほうほう。複雑なことになってるなあ」


 実際、俺達にしばき倒された隣村の人々は、「昨夜から変になったよな」と言っている。

 つまり、風車の魔王が来たのは昨夜で間違いない。


「じゃあ、そう遠くに行ってるわけじゃないな。どこにいるんだろう」


『世界の中心と言えば……ゴブリン王国ですな』


「えっ、ゴブリン王国が中心にあったのか」


『もちろん、世界に中心などありはしません。ですが風車の魔王が支配している世界の中心はゴブリン王国なのです。だから、ゴブリン城にいるでしょうな』


「なーるほど。ということは、またこっちの風水士と共闘することになるな」


 だんだんビジョンが見えてきた。

 今後はゴブリン王国に向かおう。

 そうしていたら、勝手に風水士が接触してくるだろう。


 今後の行動について仲間達に話していたら、後ろでドワーフのアディ女王とトニーが再会して笑い合っている。


「トニー、すっかり年を取ったのです!」


「わしは人間ですからなあ、あっはっは」


「お祖父様とアディが知り合い!? 不思議な繋がりだなあ」


 うむ、未だに祖父と過去のトニーが同一人物であると気付かないエリカ!


「そらエリカ、行くぞー。ゴブリン王国へ出発だ」


「えー! せっかくみんな集まっているのに……いや。みんなを守るためだもんな! よし、行こうドルマ!」


「おうおう!」


 ということで、軽く一休みしてから、ゴブリン王国へ向けて出発なのだ。


「タリホー!! 飛空艇はいつでも飛べるよー!」


 ドワーフの操舵手が手を振る。

 ……このドワーフスタッフ達、何気に過去世界について来て魔竜と戦ったりして、今回は魔王討伐にもついてくるんだよな。

 実質伝説の仲間達みたいなものではないか。


 英雄の冒険というのは、表には語られない裏方の活躍があってこそなんだな。

 だが、俺としては彼らの活躍も後で語り継いでやろうなんて思ったりする。


「よーし、じゃあ出発だ。目標、ゴブリン王国!」


「タリホー!!」


 飛翔を開始する飛空艇。

 猛烈な勢いで空を進む。


 俺達フォンテインナイツの進行を邪魔するものなど、空には存在しないのだ。

 ズーが慌てて飛空艇を回避した。


 びっくりしながら振り返っているな。

 自分よりも大きな物が飛んできたんだから、びっくりするのも分かる。

 あいつは魔竜が去った後に生まれたズーなんだろう。


 ということでビュンビュン飛んでいたら。


『地形:ワールウインド!』


 猛烈な風が吹き、それに乗ってマントを纏った男が現れた。

 当たり前みたいな顔で飛空艇に降り立つ。


『いや、懐かしいな。何十年ぶりだ? この飛空艇を踏む感覚は』


「よう、久しぶり。こっちの時代の風水士」


『ああ。久しいな青魔道士。その様子は、向こうの我を教え導いたということだろう』


「おう。俺は師匠ということになる……」


『そうだが我はお前を師匠とは呼ばないぞ』


 風水士は笑いながら答えた。


『それで、皆、世界に起こった異変の元凶が分かっているのだろう?』


「おうよ、突き止めた」


『手を貸そう。風車の魔王め、せっかく解放したゴブリン王国に陣取るとは許せん』


「こっちの時代ではまた一緒に戦うことは無いんじゃなかったか?」


『過去は分かっても、未来は我には分からん! 我の予言は完敗したということだ!』


 風水士が天を仰いだので、俺もちょっと笑ってしまった。


 ということで、現代のフォンテインナイツフルメンバーで、風車の魔王に挑むのだ。

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