第79話 迎撃の騎士達を蹴散らす
飛空艇がずんずんと突き進む。
とにかく速い。
馬よりも速い。
それが障害物もなにもないところを一直線に飛ぶのだから、ゴブリン王国の本土まであっという間だ。
そしてこんなヤバい相手を、魔王が放っておくはずもない。
向こうから点みたいなのが幾つも現れた。
「あれはなんだろう」
「ははあ、迎撃に来たでござるな! あれらは空を飛ぶモンスターに乗った騎士でござる!」
ホムラが敵の姿を言い当てた。
さすが忍者、目がいい。
「タリホー! 撃ち落とせー! 大砲発射ー!」
「大砲とな?」
ドワーフが何か引っ張り出してきたので、注目する俺である。
エリカも興味を持ったようでやって来た。
二人で眺めていると、ドワーフ一人が入ってしまいそうな太い筒が、船の左右に6つ並べられる。
筒の尻尾に紐が付いてるな。
これに火をつける……?
すると、ついた火が紐を燃やしながら、筒の中に収まった。
ズドーンッ!と大きな音が響き渡る。
筒からは大きな鉄の玉が飛び出し、それがモンスターに乗った騎士へと炸裂した。
「ウグワーッ!!」
あわれ、騎士はモンスターごとミンチだ。
うーん、これは凄い威力。
だが、一発撃ったら筒が破裂してしまったようだ。
「あちゃー、こりゃあ一発が限界だ」
「もっと精度を上げていかねえとなあ」
「ほうほう、これは炸裂弾の爆発で鉄の玉をぶっ放す武器でござるな? 無茶苦茶なことを考えるでござるなあ」
炸裂弾をたくさん投げてきた忍者、ホムラが大砲とやらの構造を看破した。
「うむ、まだ大道芸の域を出ないでござるなー」
「手厳しいー!」
ホムラの評価に、ドワーフが天を仰いだ。
その間、アベルがピョンと飛び出し、モンスターと騎士をまとめて片付けたりしている。
この男はとにかくフットワークが軽く、そして狙いが異常に正確なのだ。
さらに、風水士は風を巻き起こして空飛ぶモンスターの動きを制限する。
「遠いなあ。これじゃあ私が攻撃できない!」
不満なのはエリカである。
「まあまあ。風車の騎士を殴る時まで我慢我慢」
「空中戦は船を突撃させないと面白くないんだ!」
「タリホー! 勘弁して欲しいよー!!」
操舵手が悲鳴をあげた。
お陰で一日中メンテナンスし続けたらしい。
魔竜バフルートに突撃したのに、一日のメンテナンスで済むとは頑丈な船だ。
「飛空艇は、地底で取れるミスリル銀でコーティングしてるし、竜骨はアダマンタイト製だよー! 外装はブロック製だから、すぐに取り替えられるんだ。海と違って、水が入ってくる心配がないから、気密はそこそこでいいしね」
「ドワーフが海を知っている!」
「地底にも海はあるんだよ!」
「なんだって」
俄然、地底世界に行ってみたくなって来た。
これはエリカも同じだったらしい。
二人で操舵手の話を聞いているのだが、その横で仲間達が騎士を蹴散らしていく。
俺が戦ってもいいのだが、そうするとエリカが一人、手持ち無沙汰になる。
これはよくない。
なので俺はエリカのために戦わぬ……。
「ドルマ、何をしている。俺だけ働かせるつもりか。金を取るぞ」
「アベルが怒った!」
そうこうしている内に、戦場はゴブリン王国のお城が見えるところまで移動してきた。
城の形が変わっており、あれはなるほど、風車の形なのだ。
「明らかに風車の魔王がいるな! よし、突撃だ!」
エリカが無法な指示を出した!
「タリホー!! 目的のある突撃は大好きだよ!」
魔竜への突撃を繰り返したために、恐怖心が麻痺している操舵手!
猛烈な勢いで飛空艇を進ませる。
これには迎撃側の騎士も仰天したようだ。
まさか、空を駆ける船が、全速力で城に向かって突進してくるとは思うまい。
進路上にいたモンスターが蹴散らされ、騎士がバラバラと落ちていく。
城からは、慌てたように矢がこちらに向かって放たれてきた。
だが、上空から落ちてくるものに矢が当たるものか。
当たったとしても、表面はミスリルコーティングされているそうだから、全く刺さらない。
「うひょー!」
ホムラが近くの固定された樽にしがみつく。
エリカは舳先近くに陣取り、俺が彼女を固定する。
アベルと風水士は、ほとんど落下のような角度で突撃する船上でも、平然と立っているのだ。
『実に腹立たしい。あの醜い城の姿は何か。風車の魔王とやらの自己顕示欲しか感じぬ。ゴブリン王国は今、新たな時代へと飛躍する時だったのだ。許さん、許さんぞ風車の魔王! 新時代の若人たちの道は、我が切り開く』
「燃えてるな風水士……!」
『我の長き生は、若きゴブリン達のために使うと決めたのだ。その背中を我に見せたのは貴様ぞ、青魔道士』
「お師匠様だからな」
『師匠とは呼ばぬ』
「うむ、別に俺も呼ばれたくはない気がする……」
そんな会話をしていたら、俺が抑えていたエリカが、いつの間にか武器を振りかぶっていた。
バフベヒーモールが振り下ろされる。
それは魔王の城に激突すると、回転する風車を一撃で粉砕した。
『ウワーッ』
おっ、なんか見覚えのある男が転がり落ちていった。
俺はエリカを抱えたままジャンプ。
転がり落ちる男をキャッチした。
「おっ! お前は、若い頃のカイナギオ!」
『はっ、し、師匠ーっ!?』
この世界で、俺の他にタイムリープを持つ男はこいつしかいない。
老カイナギオが無事だったということは、若いカイナギオが風車の魔王に利用されたとしか考えられないのだ。
いやあ、城の最上階に幽閉されていたか。
飛空艇はその体勢を素早く立て直しつつある。
城に接舷し、俺達を乗り込ませるためだ。
その準備をしつつ、カイナギオから事情を聞こうではないか。
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