第67話 世界の空を飛んで見る

「おっ、早速というか空飛ぶモンスターだ」


 見たことのある、巨大な黒い鳥。

 俺がワールウインドをラーニングした相手だな。


「チェック! あれはズーね。現状では最大の飛行モンスターと言われているの。五十年前には見かけなかったんだけど……。あれ? どうして五十年前にはいなかったのかしら……」


「謎が深まるなあ」


 俺は疑問を覚えるが、そういうのも過去の時代に行って調べればいい。

 みんな、五十年前の空にモンスターがいなかった記憶が曖昧だな。


 つまりこれは、フォンテインナイツ案件だということだ。


 近づいてくるズーは、ゴメスがピュンピュンと矢を飛ばして追い払った。

 威力はホムラほどじゃないが、凄まじい飛距離と命中率だな。


「うえー、空の上だから風で矢が外れるなあ……。全部頭を狙ってたんだけどよ。空の上、半端じゃねえよなあ」


「あの射程が拙者にもほしいー! ほしいほしいほしいー!」


 忍者が地団駄踏んでる。


「手で投げてるんだから限界あるんじゃない?」


「そうでござるかなあ……。だけど拙者、手で投げないとあの効果が出ないでござるなあ」


「意外と投擲は面倒くさいのだな」


「ドルマ殿が攻撃を受けないと技を覚えないのと一緒でござるよ。ドルマ殿強くなったから、攻撃を受けなくなってきて、最近技を覚えてないでござろう?」


「そう言えばそうだなあ」


 ホムラと話し込んでいたら、エリカがズカズカやって来て、間にぎゅうぎゅう挟まった。


「ウグワーッ!」


 ゴロゴロ転がっていくホムラ。

 エリカのお尻に弾かれたな。


「ほら、もうポータルの上よ。みんな空を見てる」


 レーナが地上を指さした。

 どれどれと覗くと、なるほど、みんな飛空艇に注目している。


 これがきっかけで、ドワーフと人間との交流が深まって、飛空艇が世界に広まっていくかもしれないな、などと考える。

 だが、こいつがあると戦争の規模が桁外れになりそうだなあ。


 俺達は飛空艇で、空から襲撃を仕掛けたりしたもんな。

 一方的だった。


 うむ、人間に空を飛ぶ技術はダメだな。

 飛空艇は事が終わったらドワーフに返す。


 俺はそう決意したのだった。


「なあドルマ! ホムラと何を話していたんだ! 私とも話すぞ! ええと、何の話をしよう!」


「そうだな。これからエリカの実家に行くだろ? そうしたらアベルを拾って、フルメンバーでまたタイムリープするとかかな」


「ふむふむ! じゃあ、さらにフォンテイン伝説を進めるんだな! 次は……」


「次は何だったっけ?」


「飛竜退治だな!」


「飛竜?」


「空を飛ぶ強大なモンスターだ! こいつをフォンテインが退治するんだ。これが終わったら、いよいよ風車の魔王との戦いだぞ!」


「おっ、もうすぐ終わりかあ!」


 俺はちょっと笑った。

 何せ、フォンテイン伝説を完遂したら、エリカに掛かったフォンテインの呪い的なものが解けるからな、多分。


 エリカは仲間も増えて、自分の承認欲求も満たされて、どんどん生き生きしていっているが、それでもフォンテイン伝説へのこだわりを止められない。

 バーサーカーとしてのエリカの生き方なのかもしれない。


 なので、俺はフォンテイン伝説のコンプリートを狙っているのである。


「しっかし、凄い速度でござるなー! あっという間にエリカ殿のご実家が見えてきたでござるよー! ランチャー地方でござるか?」


「あまりにも速いから麻痺してるけど、一応飛び立ってから結構な時間が経ってるわよ? ほら、お日様がだんだん沈んでいく……」


 レーナは時間も気にしていたのか。

 すると、びゅーんと何か飛んできた。


「うわーっ、新しいモンスターかよ!?」


 ゴメスが慌てて矢を放つ。

 これは、飛んできた何かが槍を使ってカーンと弾いた。


「槍? こいつ、アベルじゃん」


「モンスターが飛んできたと思ったら、船だったか。しかもやっぱりお前らか」


 飛空艇の甲板に降り立ったアベル。

 俺達を見回して呆れた顔になった。


「なんだ、そこの男は」


「いやあ、モンスターかと思ってよ。射掛けて悪かったなあ」


「殺意がみなぎっていたぞ。まあ、達人未満だな。俺には通じない程度だ」


「アベルがこれだけ評価するってよっぽどだな」


 やはりゴメスは凄いやつだな。

 だがまあ、まだまだ普通の人の域に収まっているということだろう。


 そう言えば、フォンテイン伝説の中に狩人はいたかな……?


「いたっけ?」


「いないぞ!」


 フォンテイン伝説の有識者、エリカが否定した。

 ということは、ゴメスは真の仲間ではないのだな。

 俺、この男が結構好きなんだがなあ。


「うんうん、これで伝説のパーティが揃ったね? じゃあ僕は久々に家に帰るとしようかしら。トニーも待っていると思うし」


「レーナはタイムリープしないのか?」


「無理を言っちゃいけないわよ。僕はもういい年だもの。冒険は若い僕に任せるわ」


 すっかり僕口調になっている。

 エリカは相変わらず、過去のレーナと今のレーナが同一人物だと分かってない顔をしているな。

 これはバーサーカー特有の理解力下がってるやつ? それとも天然?


 まあいいか。


 飛空艇は一旦、エリカの実家に着陸した。

 とことこと出てきたトニーに、船を飛び出したレーナが駆け寄っていって抱きつく。

 ラブラブだ。


 というかレーナ、年の割にめちゃくちゃに元気だな。


「タリホー! また飛び立ちますぜー!! 次の行き先を教えてください!」


 ドワーフの操舵手の声に、俺は頷いた。


「飛空艇ごと飛ぶぞ。次の目的地は、過去だ! タイムリープ!」


 

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