第68話 ラーニング! またまた過去の世界へ

「タイムリープ!」


 俺が叫ぶと、周囲の風景がぐにゃっとうねった。


「ウワーッ」


 ゴメスが船べりにしがみついて叫ぶ。

 うむ。

 普通の人間の感性だとそうなるんだな。


 うちの仲間達は平然とこれについてくるから、そっちが当たり前なんだと思っていた。


「もう慣れてきたでござるなー」


「おい。いきなり俺をどこに連れて行く気だ」


「次は飛竜だな! 楽しみだ!」


 ほら、フォンテインナイツはキャッキャはしゃいでる。

 この反応しか見てなかったから、ゴメスのは新鮮だなあ。


「お助けえ」


 おっさんが悲鳴をあげている。

 味わい深い。


 そう思っていたら、過去の世界に到着だ。

 眼下に、行軍していくフォンテイン義勇騎士団。


 つまりは、トニーだ。


「おーい、トニー!」


「あっ、ドルマか!? うわ、なんだその大きな飛空艇は!」


 俺はドワーフに指示して、飛空艇の高度を下げさせた。

 ……ドワーフも一緒についてきてるじゃん。


「タリホー……。自分も焦りましたわ。タイムリープ半端ないです、タリホー」


「だよねー。でも俺達の頼みの綱は君らなので、なんとか踏ん張って。元の時代に戻してあげるから」


「タリホー!」


 彼らをねぎらった後、トニーとレーナと再会を喜び合うのだ。

 いや、俺達からすると、五日ぶりくらいの再会な気がするんだが。


「半年ぶりだな!」


「そんなに経過してたか」


「今回はアベルもいるのか! 心強い……! 邪悪な召喚士退治も成功の目がでてきたぞ!」


 トニーが不思議なことを言った。

 召喚士?


「召喚士というのはね」


 若い頃のレーナが、説明を始めた。


「強大なモンスターを召喚することができる、それ専用の魔法使いなのよ。たった一人で一国を滅ぼすとすら言われているんだけど、それが風車の騎士と手を組んだの」


「あちゃー」


 なんだかとんでもない話を聞いてしまった。

 風車の騎士が、着実に暗躍しているじゃないか。


「既に国が幾つも滅ぼされたわ。ついに各国は、フォンテイン義勇騎士団を再結成して召喚士討伐の命を出したの。幸い、今は召喚士はゴブリン王国と戦っているみたいだけど」


「ゴブリン王国とか。それは良くないな」


「良くない?」


 レーナがきょとんとした。


 そうだな。

 一般的な価値観だと、ゴブリンはモンスターだ。

 人間とはしょっちゅう争っているし、彼らがひどい目に遭う分には人間は困らない。


 だが、俺はゴブリンもまた文化を持つ存在だと知っている。

 何より、俺の弟子の一人はゴブリンだ。


 敵対したら人間だろうとゴブリンだろうと殲滅するが、敵対してないなら可能な限り助けてやろうじゃないか。


「ゴブリン王国に行こうぜ。それで、暴れてる召喚士を仕留めるんだ」


「よし、行こう! 飛竜じゃないのが残念だけど、行きがけの駄賃だ!」


 エリカもやる気だ。

 これでフォンテインナイツの方針は揺るがないことになったぞ。


「まあ、ドルマほどの男がそう言うなら……」


 トニーも頷いた。

 フォンテイン義勇騎士団も、俺達フォンテインナイツの方針には逆らわない。

 どうやら俺達の活躍が知れ渡っているみたいだ。


 義勇騎士団はゴブリン王国へ方向転換。

 向こう側からの迎撃を想定したが、そんな事は全然無かった。


 その理由はすぐに判明する。

 なんと、ゴブリン王国が大炎上していたのだ。

 文字通りの炎上。


 街を炎が舐め尽くさんとしている。


「ご、ゴブリンがこんな大都市を作っている……!?」


 義勇騎士団の面々は驚いたようだった。

 王国からあぶれて、人間を襲うゴブリンはこいつらのうちのあぶれ者みたいなやつだ。

 野蛮なモンスターと思われても仕方ないな。


 そう言えば、俺は砦を一つ壊滅させた気がする。

 今ならやらないな。

 でも昔は昔、今は今である。


 お陰で現在に繋がっているから、そういう過去もよしとするのだ。


『ギギイ! おたすけえー!』


 ゴブリンの子どもが走ってきた。

 その背後から、三つ首の巨大な犬が襲いかかってくる。


「おっ」


『地形:ファイアストーム』


『ぎゃおおおおっ!!』


 巨大な犬は、突然薪起こった炎の嵐に巻き込まれて後退した。

 降り立つのは、マントを纏ったゴブリン。

 若き風水士だ。


「おう、久しぶり」


 俺は彼に声を掛けた。

 ついでに、逃げてきたゴブリンの子どもを助け起こす。

 ゴブリンの子どもが、きょとんとして俺を見上げた。


『へ、変な顔』


「ゴブリンから見たら人間は変な顔だろう。俺は青魔道士だ。今からお前らの国を助けてやろう」


『青魔道士だと!?』


 風水士が振り返り、驚きの表情を作った。

 うむうむ、こいつ、ちゃんと研鑽を積んでたんだな。

 さっきの地形攻撃はかなり強い感じだった。


 俺は旧交を温めようと、彼に近づき……。


『ぐおおおおーんっ!!』


 そんな俺を、三つ首の犬が放った質量を持った咆哮が、横殴りに襲った。


「ウグワーッ!?」


 ごろごろ転がる俺。


「あぶなーい!!」


 俺をキャッチするエリカ。


『ラーニング!』


 久々に響き渡る音声。

 そしてジャンプするアベル。

 何か投げ始めるホムラ。

 ヒイヒイ言いながら弓を構えるゴメス。


 うむ、大混乱だ。


名前:ドルマ・アオーマーホウ

職業:青魔道士

所有能力:

・バッドステータスブレス

・渦潮カッター act2

・ゴブリンパンチ

・ジャンプ

・バックスタブ

・ミサイル

・バルーンシードショット

・ワールウインド

・ランドシャーク

・タイムリープ

・イリュージョンアタック

・カウンターメテオ

・ハウリングブラスト NEW!


 なんか増えたな。


「ありがとうエリカ。これが鎧越しでなければ色々柔らかかったのに……」


「よ、鎧越しじゃないと抱きしめるみたいになっちゃうだろ!」


「それはそれで凄くいい!」


「むむっ! そ、そういうのは、じゃあ、後で……」


「なんでござるとーっ!?」


 いかん、恋バナ大好き忍者に聞かれた!


「気を取り直して、召喚士退治と行こう!」


 俺は立ち上がるのだ。

 新しい技も試してやらねばな。

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