第66話 飛空艇! その名は……

「ふっふっふ、久しいのです、青魔道士……」


 鉱山の中に入ったら、中身はくり抜かれてホールみたいになっていた。

 そこで待っていたのが、顔をベールで覆ったちっちゃいのだった。


 なんか厳かな雰囲気を出しているが……。


「アディ姫?」


「そうなのです! どうです! 五十年経ったら見違えたでしょう!」


 ……?

 小さくて、動きがこまこましてて、物言いから何から……。


「何も変わってないんじゃないか?」


 エリカが言ってはならぬことを!


「なんですとー!!」


 アディが飛び上がって抗議してきた。


「わっちはこう見えても女王になったですよ! 今では子どももいるですよー!」


「なんだってー!!」


「その経緯を詳しく聴きたいでござる!!」


 驚くエリカ。

 食いつくホムラ。


「ドワーフは女系社会なのよ。政治や管理は女性が行って、男性は鍛冶や

軍務といった実際の仕事をする役割分担なの」


 レーナが俺に説明してくれた。

 なるほどなるほど。

 アディは順当に、ドワーフ王国の頂点に登ったようだ。


「お、お、おい、どうなってんだこれ? そのちっちゃいのがドワーフなのか? うへえ、初めて見た……」


 狩人のゴメスは、見るもの聞くもの初めてばかりらしく、挙動不審だ。


「おやおや若者、説明をご希望かしら?」


 レーナが嬉しそうに、ゴメスに状況解説をしに行ってしまった。

 基本的に彼女は教えたがりなんだよな。


「それにしても……レーナから、青魔道士やエリカ達は時間を超えて冒険していると聞いたけれど、本当に何も変わっていないのですねえ」


「そりゃあそうだ。俺からすると、アディ姫と旅をしたのはほんの数日前の事だからな」


「本当ですか!? わっちにとっては、ずっと前の思い出話なのに……!」


「ところでアディ姫。ちょっと聞きたいんだが……。君と旅をしたあとのフォンテインの旅路を知ってるか?」


「えっ? それは……確か……その……。なんだったですかねえ……?」


 おお、やっぱりフォンテインに関する記憶が曖昧になっている。

 これって、俺達が過去に行って実際に行動を起こすことで、内容が確定するってことなんだろうな。


「大丈夫だ。後でまたタイムリープして、続きをやるから」


「お、おうです! なんかとんでもないことをサラッと言うですねえ。……ああそうそう! これが本当の用事だったのです! さあ、皆の者ファンファーレです!」


「タリホー!!」


 ドワーフ達が返事をし、ラッパや太鼓をぷかぷかどんどんと鳴らし始めた。

 すると、天井からするすると、何か巨大なものが降りてくる。


 これは……でかい!


「これこそ、最新型の飛空艇です!! 名前はあえてつけてないですよ。でも、グレート・クイーン・アディ号とか名付けてもいいんですよ? いいんですよ?」


 アディがチラッチラッと見てくる。

 うーん、女王陛下としての威厳がない。


「うおおー! 凄い! これくれるの!?」


 対するエリカは、アディの仕草なんか見ちゃいない。

 ウキウキワクワクだ。

 彼女のハートの中には、わんぱく盛りの少年が住んでいるに違いない。


「あげても管理しきれないですよね? なので、使ってもいいよーっていう権利をあげるです」


「なるほど。確かに俺達じゃこいつが壊れたら直せないもんな」


 飛空艇の大きさは、ちょっと小さめの船くらい。

 二十人くらいは乗り込めるんじゃないか。


 帆が無く、その代わりに変わった形の風車みたいなものがあちこちに取り付けられていた。


「整備の時には戻ってくるといいです! とりあえず自由に使っていいですよー!」


「やった!」


 降りてきた飛空艇に、いそいそと乗り込むエリカ。

 乗員としてドワーフが数名、既にいた。


「よしっ! じゃあこの船は、フォンテイン・レジェンド号と名付ける!」


「グレートクイーンオブアディ号じゃないのですかー!!」


 おっ、エリカの命名に、アディが飛び跳ねながら抗議している!

 ホムラがいそいそと乗り込み、レーナはのんびりと。

 そして最後にゴメスがこわごわと乗って、全員だ。


「歴史にある限りでは初めて、地上世界の空を飛ぶ船になると思うわね」


 レーナが感慨深そうに呟く。


「あれ? でも、ドワーフはずいぶん昔から飛空艇を使っていたから、交流があるならいつでも地上で飛空艇を飛ばせたような……。どうして空を飛ばなかったのかしら……」


「レーナの記憶が曖昧だ。何か、人間が空を飛ぶことがないタブーみたいなのが会ったのかもしれないな。過去の世界だと、俺達はミニ飛空艇で飛んだけど」


「ごく短時間だったでござるな」


「ああ、私も覚えているわね。トニーと一緒に乗ったなあ。不思議なことに、あの後は一度も飛空艇に乗らなかったのよね。どうしてなのかしら……」


「そんなことは後で考えよう! よし、フォンテイン・レジェンド号出航!!」


 ゴーッ!とエリカが掛け声を発すると、飛空艇が進み始めた。

 船底に車輪がついてるんだな。

 それが、船のあちこちに取り付けられた風車が回転し、生み出す風によって前進を始めたのだ。


 鉱山を抜け、鉱山都市にその威容を見せる。

 人々はフォンテイン・レジェンド号に驚き、どよめいた。


 そんな彼らの前で、飛空艇は疾走しながら、徐々に浮かび上がり始める。

 空へ……!


 地上世界の空に、飛空艇が飛び立ったのである。

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