第65話 狩人のおっさんから恋愛について聞く

 レーナに連れられて、旅をすること三日間。

 女子達は宿の同じ部屋に泊まるのだが、俺は大部屋で他の旅人と雑魚寝である。


 うーむ!

 一人部屋は経済的ではないから分かるとして、なぜ俺だけが一人で……。

 いやいや、男だからだ。


「ドルマさんは、うちの孫とまだまだ清い関係でしょう? だったら同じ部屋なんてだめよ」


「それを言われてしまうと納得する他ない」


 俺は一瞬でレーナに論破された。

 では、エリカとただならぬ関係になればいいのか。

 いやいや状況はそんなに簡単ではない。


 まず、俺とエリカのそこら辺りの感覚は、思春期入りたての若者レベルだ。

 戦いの中ではよく抱きかかえたり、くっついたりはしている。


 だが日常でそういうことはあまりしない。

 お互いの距離感を測っている感じがする。


 そのうち、距離を詰めていかねばならんのかも知れないな……!

 俺は大部屋に寝転びながら、うむむむ、と唸るのだった。


「おい兄ちゃん、うるせえぞ」


「おっ、すまんすまん。男女関係について考えてたんだ」


「なんだなんだ。兄ちゃん、昼間の女連れのやつか。羨ましい野郎だと思ってたら、どうして一人だけ大部屋で雑魚寝してるんだ」


「実は仲のいい女子とまだまだ関係が発展して無くてな……」


「そうかそうか」


 俺の近くに寝ていたおっさんは興味津々になったようで、近寄ってきた。

 酒瓶を握りしめている。

 寝酒か。


「兄ちゃんも飲め。こいつはな、地酒でなかなかいけるぞ」


「器が無いが」


「回し飲みだ」


「よし」


 そういうことになった。

 このおっさん、話を聞いていると、どうやら凄腕の狩人らしい。

 だが、ゴブリン戦争で職を失い、こうして放浪しているとのことだ。


 せっかくなので、旅の同行者に誘った。

 名前をゴメスと言う。


「兄ちゃん、男と女っつーのは、スピード勝負よ。狩りと同じだ。目星をつけた獲物を、それと気付かれないように追っていって……相手を知ったら、罠を仕掛けて一撃!」


 矢を射る仕草。


「それで俺は嫁さんと結婚した。ちなみに別れた。娘は取られた」


「人に歴史ありだな」


「兄ちゃん優しいなあ。ほら、飲め飲め」


「おうおう」


 ゴメスと語らいながら酒を飲んでいたら、二人とも前後不覚になってぶっ倒れて寝た。

 そして朝。

 酒臭い俺をエリカが迎えに来た。


「うわーっ、ドルマ、酒を飲みすぎだ! やっぱり一人で寂しかったのか?」


 心配してくる。

 やはりエリカは最高である。


「それもあるが、このおっさんと意気投合したんだ」


「ゴメスだ。よろしくな」


「仲間になるのか! よろしく、ゴメス!」


 エリカがスッと受け入れたので、狩人のゴメスが仲間になったぞ!

 武器が飛び道具なので、どうもホムラと戦い方が被るのではないかと思ったが。


「見てろよ。ふっ」


 ゴメスは弓に矢をつがえるなり、前方へ射った。

 すると、茂みの中の何かに当たったらしく、「ウグワーッ」と声がした。


 山賊っぽいのが、頭から矢を生やしてぶっ倒れてくる。

 慌てて飛び出す山賊の仲間たち。


「おおーっ、よく気付いたでござるなー!? だけどあの距離は、拙者の投擲だとちょっと遠いでござるな」


「おう。弓矢はな、射程距離よ。麦粒ほどにしか見えない遠くにも、俺は当てるぜ。獣よりは、人間の方がよっぽど楽だわな」


 ゴメスは笑いながら、矢を連射した。

 山賊たちがクロスボウなどを構える前に、全員が射殺いころされる。


 やるなあ。


「チェック! ふむふむ。魔弓ゲンジだね、それは? 本当に選ばれた射手にしか扱えないという伝説の弓だ。それをどこで手に入れたの?」


「おう御婦人。こいつはな、嫁さんの嫁入り道具だ。離婚して出て行っちまったが、俺が酒瓶と一緒にこいつを抱きかかえてたんで、持ってくのを諦めたんだよ。ま、手切れ金みたいなもんだろう」


「ふうん、君のお嫁さんの一族は、その弓を扱えたのかしら」


「ここ何十年も使える人間は出てきてねえって話だぜ? そもそも俺が嫁とくっついたのは、このゲンジを扱えるからみたいなところもあってな」


「なんだと、話が違うぞ」


 俺が反応した。


「目当ての女子を追いかけて、罠をかけて一撃で落とすんじゃなかったのか」


「そんなもんは理想論だ。酔ってる俺は適当しか言わねえぞ」


「なんということだ」


 ショック!


「むっ、ドルマ、それは一体何の話だ!」


「なんでもないぞ……」


「なんでもなくはない! 目当ての女子ってなんだ! 私に教えるんだ!」


「うおー、エリカ、近い近い!」


 俺達がぎゅうぎゅうやり合っている様子を、レーナとホムラとゴメスがニヤニヤしながら眺めているのだった。


「このいつまでも詰まらない距離感が絶妙でござるなあ……。拙者がこのパーティにいる理由でござるよー」


「嬢ちゃんいい趣味してんなあ」


 こうして俺達は、さらに賑やかになりながら旅を続けて……。

 ついに、ドワーフの都市……の入り口に当たる場所にたどり着いたのだ。


 そこは、鉱山に見える。

 なるほど、あちこちで働く人達がおり、山の周囲には街が広がっている。


「ここがドワーフ王国の入り口なのか。人間の鉱山都市にしか見えない」


「そう言うふうに見せかけてるのよ」


 レーナが説明をしてくれた。


「この鉱山都市全てが、ドワーフ達に雇われた人間によって作られているの。鉱山の持ち主はドワーフ。だって、あの鉱山を作ったのがドワーフなんだもの。あれそのものが、王国への入り口よ」


 なるほど、これはスケールが大きいのだった。

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