第四章

第57話 お姫様を救う旅の話について

「最近気付いたのですが」


 冒険者の店で、なぜか残っているカイナギオ。

 俺たちと飯を食いながら話し始めた。


「フォンテイン伝説について、師匠たちがやってきた話の詳細が、明確に思い出せるようになったんですぞ」


「ほうほう。不思議な事を言う」


 だが、思い返してみよう。

 フォンテイン、地の底の魔人を倒しただろ? それは……どろ魔人の迷宮に飛び込んだフォンテインが、ついに魔人を地上へとおびき出した。

 そこで騎士たちが見守る中、見事に討ち果たしたという逸話……。


「あれっ?」


「あれっ?」


 俺とエリカは顔を見合わせた。

 フォンテイン伝説は、各地で様々な形でアレンジされている。

 例えば地の底の魔人にしても……。


「うちはいどまじんみたいなのだったなあ。もっと規模がちっちゃかった気がする」


「私は地面を掘ったら魔人がいた、みたいな話だった気がする。だけど、今はどろ魔人が正しいって分かるものな」


 地の底の魔人の逸話。

 俺たちの中のイメージが上書きされている……気がする。


「ホムラはどうなの」


「拙者でござるか? フォンテインとは姫の護衛の時に知り合って、それでそこにいた忍者に忍術対決でボッコボコにされたのがうちの曽祖父でござるなあ」


「どろ魔人はどう?」


「そりゃあ、フォンテインの最初の伝説はどろ魔人でござるからなあ」


 ホムラの中の認識は、完全にどろ魔人ということになっている。

 うーむ、これは。


 ちなみに今ここにいるのは、俺とエリカとホムラとカイナギオ。

 アベルはまた、エリカの実家に帰った。

 俺よりも長くエリカの実家にいるんじゃないか、あいつ。


 タダメシが食えるのがありがたいらしい。

 なんという男であろうか。


「ゴブリン砦については……」


 色々話し合った結果、全員のイメージが一致した。

 各地で、フォンテイン伝説の味付けが全然違っていた気がしたけど、今はびっくりするくらい一緒だな。


「どういうことだろうな。なんか、誰かがわざと伝説を曖昧にしてたんじゃないの」


「フォンテイン伝説を曖昧に!? それは許せないな! きっと風車の魔王の仕業だ!」


 ムギャオー!と怒るエリカ。


「風車の魔王と言えば、俺たちが知る限りではまだ風車の騎士……ただの人間では」


「あ、しかしドルマ殿!!」


「なんだねホムラくん」


「ゴブリンキングが、風車の魔王にベヒーモスを与えられたとか言ってたでござるよ。あれ、いつもらったんでござるかなあ」


「あー」


 確かに。

 現代に、風車の魔王の力が及んでいるという確かな証拠だ。


 あと、こじつけかもしれないが、リエンタール公国に封じられていた魔神アンリマユの復活もそれが関わってるのかも。

 今という時代に、色々な事がいっぺんに起き過ぎではないか。


「それで、姫を守る旅ですが。わしは確かその時、師匠のおともをしていなかったのですよ。で、わしの代わりにもう一人師匠の弟子が増えた記憶が……」


「なんだって」


 カイナギオから、今後に関する重要な情報が。

 だが、その先が曖昧らしい。


 姫を護衛する旅について、みんなの地元の逸話を聞いてみた。

 それぞれまちまちである。


 俺は、とあるはるか遠い公国のお姫様。ロッテのことじゃないの?


 エリカは、エルフのお姫様。新説だ。


 カイナギオは、別の世界からきたお姫様。


 ホムラは……。


「拙者はその姫のところに自分をあてはめて、騎士に助けられてちやほやされる妄想を楽しんでたでござるな。曽祖父の故郷の言葉で、ドリーム女子と言うらしいでござる」


「なんだって」


 ホムラは参考にならなかった。

 というか、ホムラは他人の色恋にめちゃくちゃ興味を示したり、伝説の中に自分がいる妄想をしたり……。

 なかなか個性的だな。


「もしかしてホムラ。妄想の話とか、他人の色恋とかそういうので、詩とか書いてたり……しない?」


「!?」


 ホムラが目を見開き、立ち上がった。


「ば……馬鹿な……。拙者の心を読んだ!? まさか、タイムリープとは拙者の過去や真実すらも明らかにするような能力……! 恐ろしい力でござる……! 危険過ぎる……! ここで消さねばならぬ……!!」


 白状した!!


「そうなのかホムラ! 凄いな! 君はきっと、詩人の才能もあるんだな! 私達は吟遊詩人の知り合いがいるから、今度紹介するぞ!!」


 エリカは空気を全く読まず、グイグイとホムラに迫った。


「えっ!? い、いや、それはそのー。そこまでのものでも……そのー」


 一瞬戦闘モードになっていたホムラが、毒気を抜かれてしおしおと椅子に座り込む。


「姫の護衛に関しても、みんな意見がバラバラですな」


 カイナギオが強引に、話の筋をもとに戻した。

 流石は年の功。

 なかなかの豪腕である。


「これは、この物語を完遂しないと真実が明らかにならんのでしょうな。おそらく誰も、フォンテインの伝説がいじられているらしいことは分からぬでしょう。わしは師匠と深い関わりがあるので分かるだけです」


「そう言えば、最初のカイナギオは感じ悪くて完全に敵だったもんな」


「うむ、どうして師匠のことを認識できなくなっていたのか、全く分かりませんわい。これもきっと、何者かによる伝説への介入のせいではないかと思いますぞ」


「フォンテイン伝説の真実が危ない! ……危ないけど、本物のフォンテインは伝説が始まる前に死んでるなあ……。あれ? フォンテインとは一体……」


 いかん、エリカが真実に気付きつつある!

 いやまあ、別に気付いてもいいんだけど。


「よし、それじゃあまた過去に行っちゃおうか。お姫様を護衛する話の真実を探ろうじゃあないか」


 そういうことになるのだった。

 いざ、タイムリープ。

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