第58話 地底王国のプリンセス
「ではタイムリープしてくる。過去に行ったら何が起こるか、うだうだ言っていても始まらないが、行けばなんか道ができるだろう。ということで」
エリカとホムラを呼び集める。
「師匠、ご武運を!」
カイナギオが見送る中、俺は宣言したのだった。
「タイムリープ!」
一瞬で時を超える。
そこは……。
争いの真っ只中だった。
バキューンバキューンと音が響き渡って、ウグワーウグワーとあちこちで聞こえる。
「この音はなんだろうな」
「あいた! なにか当たったぞ」
「各々がた、気をつけるでござる! なんか撃ってきてるでござるぞ!!」
そこでは、小柄な見知らぬ格好の連中が、見覚えのある騎士たちと戦っていたのである。
小柄な連中、角付き兜を被って、筒状の武器を装備している。
顔には黒い布みたいなのを被せて、目だけがそこから覗いているな。
「ウオオーッ!! 姫を守れーっ! タリホー!!」
「ゴーゴーゴーゴーゴーゴーゴーゴーゴー!!」
「うわおー! みんな、がんばるのですー!!」
ちっちゃくて、特別な兜をかぶったおさげの女の子が、ぴょんぴょん跳ねてるな。
あれがお姫様かな?
「ドルマ! これってあいつらだ! 風車の騎士の軍勢だぞ!」
「ほうほう、風車の騎士の軍勢が、このちっちゃい連中を襲ってるのか。そしてあれが姫。となれば……」
「ああ! フォンテインナイツ! 故あって姫を助けに来たぞ! うおおー!!」
エリカが手近な騎士を蹴り、ふっ飛ばした。「ウグワーッ!!」
ここで取り出しました、エリカの新装備。
グレイブソードの代わりに、ベヒーモスの角に取っ手を付けた、ナゾの打撃武器だ。
「ベヒーモール!!」
「あ、そういう名付けにしたでござるか! そら、投擲でござる!!」
25回ヒット!「ウグワー!!」
「ホムラ、ふと思ったんだけど、忍術一回も使って無くない? あ、ミサーイル」
「ウグワー!!」
「忍術、拙者が物を投げるより弱いんでござるよなー。誤算でござったなー。いらなかったなー」
「ああ、そういう……」
「ウグワー!!」
雑談をしながら、騎士たちをなぎ倒していく。
「タリホー!! よく分からんがすげえ味方が駆けつけてくれたぜ!!」
「助っ人に続けー!! タリホー!!」
ちっちゃい連中はぴょんぴょん飛び跳ねながら勢いに乗る。
エリカを先頭に、騎士たちにウワーッと襲いかかった。
蹂躙である。
戦況はちっちゃいのが完全に優勢になった。
生き残った騎士たちが、ほうほうの体で逃げていく。
「ありがとうございますうー、謎の人間たちー!」
おさげのお姫様が、トテトテと駆け寄ってきた。
背丈的には、俺の腰くらいまでの大きさ。
これは人間ではない種族だな。
「助けに上がりました、姫!! 私たちはフォンテインナイツです!!」
エリカ、凄い勢いで戻ってきて、姫の前にスライディングでひざまずいた。
「おほー! こんな感じで礼を尽くされるの初めてなのですー!! わっちはですね、ドワーフ王国の姫アストゥルディンというのですよ。アディ姫と皆は呼ぶのですよ」
ほうほう、ドワーフの姫か。
ドワーフというのは、地の底に住んでいると言われている伝説の妖精だ。
フォンテイン伝説に現れた姫とは、ドワーフの姫だったのか。
これはどうやら、種族を超えたお話になってきたな。
エリカは、種族なんて関係がない。
王国の姫を守れるという事実に、完全に興奮してしまっている。
「私達フォンテインナイツが、姫を無事にお守りしましょう!! 騎士はそういうものなのです! 私はフォンテインナイツのリーダー、エリカです!!」
「そうなのです!? 突然現れてそんな事を言うのは信用できないのですが、あの騎士たちを本当に容赦なく蹴散らしたので信用するですよ!!」
「姫!」
「騎士エリカ!」
「騎士!? 全力でお守りします!!」
なんか、姫とエリカがめちゃくちゃ固い握手を交わしている。
通じ合ってしまったな。
「ありゃあ信用できるな! 裏表がねえや!」
他のドワーフたちが横にやって来て、うんうん頷いていた。
「だろう? エリカは内心も全部口に出すからな。あれが彼女の全部だ」
「すげえなあ! 人間にもそんな気持ちのいいやつがいるんだな! おう兄ちゃん、さっきはありがとうな!」
ドワーフの人たちが顔の布をぺろんとめくると、そこには髭面が出てきた。
髭が無いのもいるな。これは女性か。
「なんのなんの。故あって味方したが、俺は人間でもモンスターでも分け隔てなく攻撃する……。そこについては信頼してくれていい」
「拙者も拙者も!」
自分を指さしてジャンプするホムラ。
これをドワーフたちが見て、
「おや、そっちにもドワーフが?」
「拙者は小さいでござるがドワーフでは無いでござるよー!?」
慌てるホムラに、ドワーフたちがドッと沸いた。
なんという気持ちのいい連中だろう。
アディ姫は、うんうん頷きながら俺たちを見回した。
ぺろんと布をめくると、その下にはなるほど、目が大きくて可愛らしい顔がある。
「大地の秘宝を奪った人間を追いかけてきたら、待ち伏せを喰らってどうなるかと思ったのです。だけど、そこにこんな助っ人が来てくれるなんて! キングベヒーモス様のご加護なのですー!!」
キングベヒーモス?
もしかしてベヒーモスって、地底だと神様だったりするわけ……?
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