第56話 痛み分け
ゴブリン王国との戦争は終結した。
具体的には、ベヒーモスの乱入で双方が大打撃を受け、戦争の継続が困難になったのだった。
さらにゴブリン王国側では、空から巨大な石が降り注いだとかで被害も甚大。
国の立て直しが必要になった。
これに乗じて、ゴブリン王国を攻め落とそうと幾つかの国は画策したようだが、それらの国もいきなり指導者とその取り巻きが皆殺しにされ、機能不全に陥った。
ゴブリン王国を叩くどころではない。
次の指導者を巡って内戦になってしまった。
ということで、平和なのは我ら商業都市ポータル方面ばかり。
「いやあ、一時はどうなることかと思いましたが、師匠方が帰ってこられたらすっかり解決してしまいました! さすがですなあ」
カイナギオが感心していた。
彼の連れていた義勇軍は、各国の軍隊と比べて練度が低く、すぐにピンチになったので必死に逃げ回っていたらしい。
そこにベヒーモスが踊り込んできて、戦場がめちゃくちゃになった。
お陰で被害は最小限に食い止められたとか。
「とは言っても半分死にましたがな。若い命がもったいない……。それでも、田舎の農村には彼らを食わせていくだけの余裕はありませんからな」
「戦場だけじゃなく、日常もよっぽど厳しい世界だよな」
うんうん、とカイナギオと話し合うのだった。
だが、今回のゴブリン王国戦争で、このあたりの国々は多数の戦死者を出した。
他国の兵士は普段は一般人で、徴兵されてやって来ていたりするし、志願兵なんかもいるとか。
そういうのもバタバタ死んだし、ゴブリン王国の、国内では食っていけない兵士たちもバタバタ死んだ。
あと十年以上は、ゴブリン王国も含めて国々の小競り合いは起きまい。
「あっという間に戦争は終わったな! じゃあこれからはまた、冒険の日々だ!」
嬉しそうなエリカ。
うんうん、やっぱり平和が一番だ。
ということで、死んだゴブリンの耳を換金して今回の仕事の報酬とした。
ゴブリンに同情する気持ちはあるが、それはそれ、これはこれ。
金が無いと何もできないからね。
ポータルで生き残りを集めて、打ち上げなどしていると。
気がつくと俺の横にフード姿の男が座って、当たり前みたいな雰囲気で飯を食っていた。
「風水士じゃないか」
『お疲れ様。貴様らがやってくれたお陰で、我の仕事も終わった』
「派手にやった感じ?」
『まあ、バレたらゴブリン王国が滅亡するまで攻め込まれるだろうな。だが、世の中には自ら率先して事態を引き起こしたと喧伝したい者がいる。実にありがたい』
「目立ちたがりはいるもんなあ」
『うむ。それに戦を引き起こした前王を下し、我こそが正当な王だと名乗るきっかけともなろう。それを民が信じるかは別だがな』
「おい風水士」
おっと、さらに横にアベルが来た。
「俺たちは仕事を果たした。さて……風水士。分かっているな? おい、分かっているな……?」
『お、おう』
凄い圧だ。風水士がタジタジだぞ。
『報酬はポータルの北方門の外側だ。土を被せて盛り上げてある』
「そうか!」
アベルが優しい笑顔になった。
「なんてキモチワルイ笑顔になるんだ」
「なんだと貴様。俺がビジネス用のスマイルを浮かべたのが分からんのか」
「アベルのキャラクター的にどうなの?」
「最近小難しいことばかりぶつぶつ言っているお前にキャラとか言われたくはないぞ」
「なんだと、俺にいつまでもおバカキャラをやれというのか」
「同じことを俺に言っただろう。よし、表に出ろドルマ」
「上等だアベル」
俺たちは肩を並べて店の外に出る。
酔っ払ったその場の一同が、ウワーッと盛り上がり、どっちが勝つかで賭け始めた。
「二人とも!!」
「エリカ!」
「エリカ、止めてくれるなよ」
俺とアベルで、目線で「ノリでやることになったけど、止めてくれると嬉しいなー」と訴えたのだが、もちろんエリカには通じない。
「青魔法と槍は禁止だぞ! ファイッ!」
やるしかなくなってしまったのだった。
ぽかぽかと殴り合い……。
俺とアベルのクロスカウンターで双方がぶっ倒れた頃には、すっかり日が暮れていた。
「しまった、報酬……」
天を仰ぎながら呟くアベル。
風水士がまた隣に来ていて。呆れていた。
『人間はゴブリンよりも馬鹿なのではないか……? ああ、報酬は貴様らくらいの破壊力がなければ取り出すこともできまい。焦る必要はない。では、我はこれにて失礼する。この時代の我は貴様らと会うことも無いだろうが、遠き過去にて再び
風水士はそう告げると、風に溶けるように消えた。
得体の知れない男だったが、ゴブリン王国を思う気持ちは本物だった気がする。
で、過去でまたあいつと出会うってわけかな?
「ドルマ! かっこよかったぞ! 私はもちろん、ドルマの勝利に全部賭けたんだぞ! 賭けは不成立で全額戻ってきたけど」
「そりゃあ不成立だろうなあ」
俺とアベル最大の武器を封じて泥仕合したからな。
打ち上げをやっていた連中は、みんな酔いつぶれて転がっていた。
この状況に、うちの竜騎士がハッとして立ち上がる。
「今なら誰にも気付かれずに報酬を持ち帰れるな……」
金が絡むと元気元気。
彼はそそくさとジャンプし、門の外側へと向かった。
これを見送った後、エリカがぼそっと呟く。
「次のフォンテイン伝説は……お姫様の護衛だったっけ」
「そうだな。前にやった気がするけど」
「もう一回やるんだろうな、これは! やっぱり騎士としては姫を守らないとな!」
「ゴブリン王国の一件が終わったばかりなのに、元気だなあ」
だがそれでこそエリカなのだ。
俺もやる気になった。
(第三章 おわり)
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