第二章
第21話 パーティ名を決めよう
一つの国を救って凱旋してきた俺とエリカ。
もちろん、商業都市ポータルではその名を知られて大いに歓迎され……は別にしなかった。
というか普段どおりで、むしろ門を守る兵士の人に厳しくチェックまでされてしまった。
「街の中で大暴れしないようにね……!」
「うい。あれなの? なんかこの間、竜騎士と戦った時の?」
「街の中で戦うの本当は禁止だからね? あの公女もいきなり門を突破して突っ込んできてたからね?」
「むむむ! 思ってたのと扱い違う!」
ロッテ公女から受けた依頼は、冒険者の店を通していない。
そこで得た成果は、冒険者の店間で共有されないし、意図的にスルーされる。
なので、俺とエリカは外でちょっと長めに遊んできた扱いになるのだ。
あるいは、ゴブリンの耳を凄くたくさん取ってきた二人、という扱い。
まあ、これだけでも冒険者たちからの視線はそれなりの敬意を持ったものになる。
「ゴブリン狩りが戻ってきたぞ」
「今度はどれだけゴブリンを狩ったんだ」
冒険者の店にやって来た俺たちに、他の冒険者がざわつく。
エリカが不本意そうに口を尖らせた。
「私たちは魔神を倒したんだが……」
「まあまあエリカ。公国の人たちがその辺りの話を広めてくれるかもしれないだろ。みんな石化してそのシーンは見てないけど」
「うーあー!」
エリカが悲しそうに鳴いた。
「まあまあエリカ。肉を食おう、肉を。今回の仕事でかなり稼いだし。豪遊だ!」
「おお! そうだな!」
機嫌が直った。
そして俺たちの頑張りは、誰にも知られていなかった訳では無い。
骨付き肉をガツガツ食っている俺たちの横に、一人の男がやってきた。
「もしや……お二人はリエンタール公国にロッテ公女を送り届けて来られたのですかね?」
「そうだぞ!」
「そうだけどあんた誰だ」
「ああ、申し遅れました。ワタクシめ、吟遊詩人のモーザルと申します。お二人から英雄的なスメルを感じ取りまして、今から戯曲のための取材をですね……。唾を付けておこうと思いまして」
糸目の、いつも笑っているような顔の男だった。
吟遊詩人というだけあって、リュートを手にしている。
「おっ、見る目あるなあ。ここにいるエリカは大騎士になるぞ。俺が大騎士になる手伝いをするのだ」
「ははあ! そしてあなた、ドルマさんは確か、伝説の青魔道だという触れ込みだとか」
「そこまで知ってるの?」
「竜騎士と青魔道士が戦った、というのを見ていた者は多いのですよ。ですが、真っ先に声を掛けて戯曲のための取材をしたのはワタクシめ!! 先行者利益はいただきます! そして歌を作ってあちこちでばら撒き、お二人の名声を高め、さらにワタクシめの利益に繋げてみせますよ!」
「生臭い! 生臭いけどかなり頼もしいぞこいつ」
「もふぉ? もぐもぐもぐもぐ」
「エリカ、食べ終わってから喋りなさい」
「ところで、お二人の名前は……?」
「ん? 俺はドルマでこっちはエリカだぞ?」
「いえいえ、パーティの名前ですよ。やはり歌にするために、その名は必要になってくるでしょう」
「あー、パーティ名! 考えたことも無かった」
「なんですって!!」
糸目がカッと見開かれた。
こわいこわい。
「それでは歌えません!! 今決めて下さい! 今ここで! パーティ名!!」
「いきなり必死なんだけど」
「ビジネスのためなんで。ワタクシめ、これ死活問題なんで。この業界競争が激しいんですよ」
「必死」
「早く」
「……だそうだエリカ。どうする? 何か考えてる?」
「うーん」
エリカが肉の塊を食べ終わり、指についた脂を舐めながら天井を見上げる。
「フォンテインナイツとか?」
「ああいいですね、そうしましょう」
「モーザルの決断が早い」
「後々有名になった時、まさに大騎士フォンテインの如し!! と煽れるではないですか」
「計算高い!」
吟遊詩人モーザルは満足げである。
お礼にと、一曲歌っていってくれた。
それがまさしく、大騎士フォンテインの歌だった。
俺たちばかりでなく、他の冒険者達も大いに盛り上がった。
そのノリで、エリカが「今回は私が奢る……」とか言いかけたので、慌てて彼女の口を塞いだのである。
お金は大切にしなくちゃ。
その後、冒険者の店はお祭り騒ぎになり、みんな有り金を使い切る勢いで飲み食いした。
店のマスターはニッコニコである。
仕事の紹介料以外に、飲食代は貴重な収入源なのだ。
冒険者は宵越しの金を持たないとも言われているから、とにかく金を使う。
なので、冒険者の店はやたらと料理のレパートリーが広く、下はやっすいエールとクズ肉のジャーキーから、上はとんでもない高級食材を使ったものまであるわけだ。
俺もエリカも、値段関係なく量を食えればいいので、そこまで金が掛からないのが救いだ。
こうして、ともに宿に帰るのが大変になるくらい飲み食いした。
ふらふらと戻る途中、酔っぱらい狙いの強盗に襲われたりしたが、おざなりにゴブリンパンチを放ってぶっ飛ばしておいた。
「フォンテインナイツ! 私たちは大騎士になるのだー!」
「ほらエリカ、ベッドの上の方に転がすからなー。ナタを手放せ、ナタを」
「ウー」
ベッドの上で唸るエリカは、すぐにぐうぐうと眠り始めた。
大人物だ。
「しかし、国を救ってちょっとは有名になったんだろうが、大騎士への道のりはまだまだ遠いよな。ま、ほどほどに頑張っていこう」
爆睡するエリカにそんな言葉を掛けつつ、俺も眠りにつくことにしたのだった。
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