第20話 アンリマユ、あの目玉が弱点ではないか
「睨まれたら石になったな。ということは、睨まれてはいけないということだ」
「なるほど! そうだったのか!」
勘で石化にらみを回避したエリカが、得心したようでポンと手をたたく。
「じゃあ、こっちを見るたびに石になった人たちを盾にすればいいじゃないか」
「おおっ、エリカ頭いいな! ちょっと聞くと良心を疑いたくなるような話だが!」
俺たちは、手頃なサイズの石化した人を後ろから押しながら、じりじりアンリマユに近づくことにした。
『石化にらみ』
『麻痺にらみ』
『即死にらみ』
「なんか言ってるぞ!」
「いやあ、石化した人を盾にしてなかったら俺たちも危なかったな」
『ちょっとちょっとちょっと!! 何をやっているの!? なんで平然と他の人間を盾にしながら進んでくるの!? わたくしが想定してない邪悪な相手なんだけど!』
魔女グリアが狼狽している。
彼女も魔法を飛ばしてくるのだが、石化した人に当たって弾けているようだ。
これ、石化した人が欠けたら死んじゃう気がするが、かと言ってこの場で俺たちまでやられてしまったら、他の石化した人が助からない。
サッと最小限の犠牲を許容して進軍するエリカの判断力は流石だ。
『アンリマユ! 死の束縛をあの者たちにも!』
『死の束縛』
「またなんか言ってる!」
「いやあ、石化した人を盾にしてなかったら俺たちも危なかったな」
『他人を盾にする行動強すぎない!?』
たまに隙間から指先出して、俺は「ミサイル!」と宣言するのだ。
ナイフが何本か、柄から炎を吹き出しながら飛び出す。
それがアンリマユに炸裂して、ダメージを与えているようだ。
しかし、対象が大きいからなんとも手応えが薄いな。
「ドルマ、やっぱり弱点を突くべきだと思うぞ!」
「弱点だと……!? そんなものがあいつに」
「さっき見た時、目が大きかったろ? 私たちが何人も入るくらい大きい。きっとあれが弱点だ」
「ええっ!? あんなあからさまで、狙えばすぐに当たりそうな弱点だと!? 普通はもっと弱点を隠すものだろう……」
「でも、弱点を凝視したらあいつの謎の力でやられちゃうんだ! だから、あの弱点は剥き出しでもいいんだと思う!」
「エリカ、賢いな!!」
「私はドルマみたいな凄い技はないからな! だから、一生懸命考えることにしてるんだ!」
考えてたのか……!
だが、この石化人間の盾作戦は、クリティカルにアンリマユの能力を防げる。
エリカの判断が的確である証拠だ。
猪突猛進なだけじゃなかったんだなあ……。
「すると……狙いをつけられないミサイルよりも、標的に自動命中する渦潮カッターの方がいいか。そうでなければ、もっと近づいてゴブリンパンチ」
「水が足りないな! よし、私の水袋使ってくれ! 半分飲んじゃったけど」
「十分十分」
石化した人を近づけて、その影で水袋を受け渡したりする。
俺たちが堂々とお喋りや手渡しをやっているので、ついにグリアは耐えきれなくなったらしい。
『アンリマユ! もっとこう……物理的な攻撃方法であいつらをやれないの!? にらみしかないなら完全に攻略されちゃってるじゃない! 伝説の魔神がそんな体たらくでいいの!? 情けない! 目玉が大きいだけの役立たず! でくのぼう! 無駄飯ぐらい! さっさとおし!』
『ムカッ』
あっ、アンリマユが怒った気がしたぞ。
一瞬の後、グリアの『ウグワーッ!! どうしてわたくしがーっ!!』という断末魔が聞こえた。
あーあ。
「相手が邪神だからって罵倒したらいけないよな!」
「明らかに言い過ぎだもんな。よし、渦潮カッター!」
俺は顔を出さず、アンリマユがいるっぽい方向に渦潮カッターを飛ばした。
今までのミサイルとは、全く違う炸裂音が響く。
『ウグワーッ!』
効いた!
そろりと顔を出すと、アンリマユが大きな目を閉じてふらふらしているところだった。
本当に弱点だったのか。
そこに、黒い影が飛来する。
竜騎士だ!
「よくぞヤツの目を潰した! 好機……!!」
ジャンプからの一撃で、アンリマユのまぶたを縫い留める竜騎士。
魔神の巨体が空から地面へと落下した。
「よっしゃ、これなら睨まれる心配はない! あいつと共闘ってのが嫌だが、行くぞエリカ!」
「ああ! うおー!」
俺は走りながら、ナイフ全てをミサイルに変えてアンリマユへとぶっ放す。
エリカはかなりの俊足で魔神まで駆け寄ると、ナタでもって思い切り切りつけた。
おお、翼がざっくり行ったな。
あれでしばらくは飛べまい。
『ウグワー!!』
のたうち回るアンリマユ。
「やれ! 俺がこのまぶたを貫いている間に、アンリマユを滅ぼせ! こいつは目が開いていなければほとんどの権能を使えない。俺にかけられた死の束縛も効果を発揮しないのだ」
「やっぱり脅されていたかー」
ミサイルを撃ちきった後、手斧を装備してのゴブリンパンチ。
ガンガン打撃を与えるが、いかんせんアンリマユがでかい。
さて、これはどうしたものか……。
攻撃しながら考える俺の目に、アンリマユの『ウグワーッ!』と叫ぶ口が見えた。
「くっ、凄まじい力だ! 俺の槍が戻されていく……! 早くしろ、青魔道士!」
「おう。俺にいい考えがある。マウストゥマウスで……くさい息だ!」
バッドステータスブレスが、俺の口から溢れ出す。
それはアンリマユの口に、直接叩き込まれた。
『ウグワーッ!?』
アンリマユは一度、びくんと痙攣すると、その全身がピキピキと音を立てて石化していった。
毒や麻痺や石化や昏睡状態などを一度に叩き込む、俺のバッドステータスブレスだ。
その中で、石化が一番効いたらしい。
やがて、アンリマユは巨大な石像になってしまう。
これを、エリカがガンガン叩いてあちこちぶっ壊す。
「野蛮な……!! だが、その騎士の機転で魔神を倒すことができた。今は礼を言おう」
竜騎士は槍を引き抜くと、俺たちに向き直った。
「騎士!? 今、騎士って言ったか!? なあドルマ、聞いたか!? 私が騎士だって!」
「ああ。良かったなエリカー。初めて騎士って言われたな」
「うんうん! 夢への第一歩を踏み出せたぞ!」
俺たちがよく分からないところで大喜びしているので、竜騎士はドン引きした。
「な……名を聞こう、青魔道士と、き……騎士よ」
「騎士エリカだ!! ありがとう、ありがとう!」
「ドルマだ。エリカがこんなに喜ぶとはなあ……。あんたいいヤツだな」
「基準が分からん……。俺は竜騎士アベル。縁あらばまた見えよう。青魔道士よ、お前との決着もついていないからな」
竜騎士はそれだけ告げると、またジャンプしていなくなってしまった。
なかなか難しそうな性格の男である。
そうこうしていると、石化した人々が元に戻ってきたようだ。
背後でワイワイガヤガヤと騒ぐ声が聞こえる。
「むおーっ!! 魔神が倒されているのじゃー!!」
ロッテが叫んだ。
「石化しておるのじゃ! つまりこれは、ドルマのブレスが炸裂したのか!?」
「そうなるな」
すると、ロッテは公国の民たちに振り返った。
「皆の者! 魔神は倒されたのじゃ! 国を救いし英雄は、聖なる騎士エリカと青魔道士ドルマ! 二人に喝采を!!」
「聖なる騎士だって! なあドルマ、聞いたか?」
「今日はエリカの人生最良の日かも知れないな」
「うんうん。なんか一人呼ばれてない気がするけど、気にならないくらい嬉しい!」
竜騎士のことはロッテに黙っていてやろう。
色々確執があるからな。
こうして俺たちは、三回目の冒険にして、一国を救ったりなんかしたのである。
第一章終わり
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