第17話 敵地で野営するための必勝法
ここからリエンタール公国まで、一日。
つまり、一度野営をしないといけない。
幸い、食べ物はキャラバンから分けてもらっている。
問題は夜になった後、どうやって襲撃を避けるかだ。
「心が痛むが、これしか無いだろうな」
「ドルマ、何か考えがあるのか?」
「ああ。あまりよくない考えがある」
俺にとってあまりよくない考えというのは、大体がくさい息絡みである。
先日のゴブリン砦討伐で、俺はくさい息の性質をそれなりに把握した。
連続で吐き出せるのは五分。
くさい息は重いので、下に溜まる。
掛かったまま放置すると、毒で死ぬ可能性がある。
ここまでは明らか。
じゃあどうするか?
「こ……こんな見晴らしのいい丘の上で野営するのじゃ!? 見つかってしまうのじゃー!」
「怖いのは竜騎士くらいだし、あいつは俺を警戒しておいそれと攻めてこないし、ここが一番安全だよ」
「うん、そうだな! 襲撃してくる相手がいれば丸見えだ!」
「そうなのじゃ……?」
俺たちの勢いに、ロッテが押し切られる。
食事を作り、楽しく食べ、とっぷり日が暮れたら寝る。
そして寝る前に俺は丘の麓を目掛けて口を開いた。
「じゃあ、くさい息を五分間、スタート!」
緑と紫が入り混じった毒々しい息が溢れ出す。
あっという間に丘の麓を覆い尽くしたぞ。
「ウグワー!」「ウグワー!」「ウグワー!」
闇に乗じて近づいてきていたらしき刺客が、何人も倒れる音が聞こえた。
他に、地元の動物たちも倒れている気配がする。
済まんな。
敵もそうじゃないのも、もろともに全滅させる能力、くさい息。
ここぞと言う時以外は使いたくないものだ……。
ゴブリン砦でも、近くにいた動物はやられていたからな。
なお、このくさい息なんだが、人間だと毒に強いのか、手当されれば割りと生き延びるようだ。
例えば幼少期の俺がいい例だな。
手当をされたら治り、くさい息とラーニング能力を獲得した。
なお、動物やモンスターでてきめんに効く場合、必殺の一撃になってる事が多い。
危険な能力だ……。
だが、お陰でその夜は三人ともぐっすりと眠れたのだった。
爽やかな朝。
くさい息はすっかりその力を失っている。
丘を降りる途中で、死屍累々となっている刺客たちの姿があった。
適切な手当をされないと、まあこんな感じになる。
「な……何があったんじゃ……!? まさか夜のうちに、エリカとドルマが!?」
「えっ?」
「まあそういうことだ」
エリカがきょとんとしたので、俺が代わりに答えておいた。
これで、ロッテを追う刺客の多くはどうにかできたのではないだろうか。
丘の上という他に遮るものもないポイントで、しかし周囲にそれよりも高い場所は無く、下から狙うことも出来ない。
近づくには麓から登るしかないが、丘の上からは俺のくさい息が流れ落ちてくる。
これを初見で致命的な罠だと感知して息を五分止めていられれば勝ち。
人間が五分も息を止められるわけはないので、負け確定なんだが。
「我ながら頭脳を活かした戦術だった。だが被害が大きすぎる。濫用しないようにしておきたい……」
「なんだ、ドルマがやったのか? 凄いじゃないか! どうして神妙な顔をしてるんだ!」
「過ぎた力を持つとむしろ慎重になるものなんだ。というか、くさい息のできれば切りたくない切り札という度合いが、ずっと変わらないんだが」
「私なら我慢するのに」
あれを我慢できたエリカ、本当に凄いよ!
こうして俺たちは移動を開始し、昼頃にリエンタール公国へ到着した。
それは、箱庭のようなこじんまりした国だった。
周囲を山に囲まれ、その山の斜面では家畜が草を食んでいる。
城壁らしきものは無く、公国の都なんだろうな、という辺りには何本かの柱が立ち並んでいた。
これがある一定の規則がありそうな並び方だ。
それに、意味ありげな模様が刻まれている。
「ロッテ。あの模様は……」
「リエンタール公家が災いを封じるために作り上げたものじゃ。あの土地の中に入ってしまえば、正当な後継ぎであるわらわを害する者はいなくなるのじゃ」
「どういう仕組なんだろう」
エリカが首を傾げた。
「だけど、英雄譚に出てきそうだな! ロマンを感じる!」
「エリカはこういう設定が大好きだもんな」
「ああ。英雄譚みたいだからな!」
公国に近づくと、周囲から兵士がわらわらと出てくる。
「わらわじゃ! ロッテが帰還したのじゃ!」
「ロッテ様!? ま、まさか!」
「グリア様が刺客を差し向けたはず……! まさか、生きて戻っていらっしゃるとは……」
兵士たちは戸惑っているようだ。
どういうことかな?
ここでエリカが、堂々と進み出た。
「皆! よく聞くんだ! 公国の正当なる後継者、魔を封じる力を持ったロッテ公女がここに帰還した!」
声が通るなあ!
エリカの声は、この場に集った兵士たち全員の耳に届いたことだろう。
「刺客は私たちが倒した! つまり公女は試練をくぐり抜け、ここに立っているんだ! もはや、だれも公女殿下を止められないことは明白だろう!!」
別に明白じゃないんだが、この場の空気と、エリカがあまりにも堂々としているので、みんな呑まれてしまう。
声が大きくてよく通るって、強いなあ。
「そうか、やっぱり運命はロッテ殿下をお選びになったのだ」
「グリア様は選ばれなかったのか……! やっぱり格がちが……ウグワーッ!」
グリアという名らしい、ロッテの姉。
彼女のことをぼそっと悪く言った兵士が、いきなり倒れて苦しみ始めた。
その体から、ドクロみたいな煙が吹き出して、そのまま動かなくなる。
「あっ、死んでしまった!」
「うううっ、ロッテ公女、申し訳ありません!」
「我々はグリア様から死の束縛を掛けられているのです! 逆らえばカウントが進んで死ぬ!」
「ここを通すわけには……!」
兵士たちは、悲壮な表情で武器を構えた。
どうしても通すことはできないようだ。
「死の束縛……!? そう言えば聞いたことがある!」
知っているのかエリカ!
でもそれは、戦いながら説明してくれよな!
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