第16話 後ろ取り合戦、勝つのは俺だ!

「何のつもりだ……!? だが、何をやろうと影人である俺に通用はしないぞ……!」


 刺客はそう告げると、また姿を消した。

 誰かの背後に現れる気なんだろう。

 よーし、俺も追いかけちゃうぞ。


「バックスタブ!」


 技を宣言すると、俺の体は水に潜るように、影の中に沈んだ。

 そこは案外明るい世界だった。

 刺客がすいすい泳ぎながら、エリカの背後へと回っていく。


 影の中での移動速度はかなり速いな。

 一瞬で移動が終わり、刺客はエリカの背後に実体化した。

 俺は刺客の背後に実体化した。


「────!!」


 無言でナイフを振り上げた刺客の……後頭部を俺は全力でチョップした。


「ウグワーッ!?」


 不意の打撃に驚愕したのと、チョップがかなり痛かったようで、刺客は真横に吹っ飛んで転げ回った。

 そしてガクガクと驚きに震えながら、俺を指差す。


「なっ、なっ、なっ、なんでお前がそこに! さっきまであそこにいたはず……。まさか、お前も影人だというのか!」


「俺は青魔道。敵の技を覚えて使いこなす、伝説の職業だ」


 俺はかっこよく身構えた。

 とっさだったからチョップで済ませちゃったな。

 今度は手斧握ってゴブリンパンチして確実に仕留めよう。


「ドルマ! あいつの技も覚えたんだな! さらに強くなったな!」


 エリカが嬉しそうだ。

 ロッテは何も理解できてない。


「えっ? えっ?」とか言っている。


 全部終わったら説明するからね。


「それにドルマ、私は聞いたことがある! 影人というのは、かつて魔法の実験で生み出された武器人間だ! 影に潜る力を持つ代わりに、強い光の下では存在が曖昧になってしまうという……。大騎士フォンテインはこれを利用して、隠れる影のない砂漠におびき出し、そこで影人を倒したんだ!」


「なるほどなるほど……」


「ふん、それが分かったところでどうなる! この場には隠れるところが無数にある。強い光で照らして俺を倒すことなどできまい! 行くぞ!」


 また影人の刺客が影に潜った。

 俺も影に潜る。

 で、影人が俺がいたはずのところに実体化したら、その後ろに実体化する。


「うおお、手斧ゴブリンパンチ!!」


「ウグワーッ!?」


 分裂した手斧が、影人を背後から切り裂く!

 こいつ、半分実体が無いみたいで、どうもダメージがあまり通ってない気がするな。


 それでも影人からするととんでもないショックだったようで、そいつは影にも潜らず、全力で走って逃げる。


「ほ、ほ、本当に俺と同じ技を使いやがった! 影人のアイデンティティをいきなりマスターして使いこなすだと!? 青魔道!? 冗談じゃない! そんなバケモノが公女のそばについているなんて、聞いていないぞ!!」


 逃げる逃げる。

 追いかけてやっつけねばなるまい。


 だけど、実体の攻撃がイマイチ効きづらいということは……くさい息でやるしかないかなあ。

 だがそれじゃあキャラバンが全滅してしまうしなあ。


 一瞬迷う俺だったが。

 だが、次の瞬間。


 空がキラリと光ったと思ったら、見覚えのある男が降りてきた。

 そして、着地と同時に手にした槍で、影人を串刺しにする。


「ウグワーッ!?」


「愚か者め。やつを強くしてしまったのか」


 竜騎士だ!

 魔法の槍らしく、影人にも全然効いている。


「お、俺を粛清に来たのか! くそっ、人間ごときにやられる影人じゃ……!」


 刺客はダメージを受けながらも、影の中に潜った。

 それと同時に、竜騎士はジャンプしている。


 影人はその辺りの山の陰に隠れてしまった。

 これは探すことはできまい……と思ったら。


 竜騎士が影の一部に、落下と同時に槍を突き刺した。


「ウグワーッ!?」


 断末魔が上がった。

 それっきり、影人は出てこなくなる。


 竜騎士は俺を睨むと、槍を突きつけた。


「本当に公女を守ってやって来るとはな、愚か者め。だが、これは同時に我が雇い主最大の脅威が出現したことに他ならない。ここではやらぬぞ。いたずらに貴様に力を与えるつもりはないからな」


 そして、再び竜騎士はジャンプした。

 飛翔と言っていい勢いで上昇し、姿が見えなくなる。


「ひええ……恐ろしい奴じゃあ」


 ロッテがガクガク震えた。


「ドルマ、そなた、よくあれを一度追い払ったのう……」


「初見殺しみたいな技を連発したんだ。だが、あいつはまだまだ力を隠し持っているだろう。俺も必殺技は使ってない」


 くさい息を叩きつけたら、あの辺り一帯が地獄になるからね……!

 なんと使い勝手の悪い切り札であろうか。


「いいぞドルマ! なんだか凄く……強そうだ! 燃えてくるな! ああー、私も必殺技が欲しいー!」


「一番そういうのに憧れるエリカが、誰よりも泥臭いファイトスタイルだからね」


「ナタの使い勝手が良くて。だけど、さっき私のナタは影に通用しなかった。でも竜騎士の槍は通用したんだ。あれはどういうことかな」


 これにはロッテが詳しかった。


「魔法の力なのじゃ。魔法を帯びた武器は、非実体の相手にも通用するようになるのじゃ」


「やっぱり、日用品のナタだと限界があるのか……」


 難しい顔をするエリカなのだった。

 そんな俺たちに、背後からキャラバンの人が声を掛けてくる。


「やあ三人とも! よく分からない戦い方だったけれど、キャラバンを守ってくれてありがとう……!」


「どういたしまして!」


 エリカは微笑みながら、キャラバンの人と握手した。

 刺客がロッテを狙ってきたなどと、おくびにも出さない。


 実は策略家なのか、何も考えていないのか……。

 勘で動く彼女のことだ。何も考えてないだろう。


「だが、わらわたちはここでキャラバンとは別れねばならない」


 エリカよりも物を考えているロッテがそう告げた。


「えっ!?」


 普通に驚くエリカ。

 やっぱり考えてなかったんだな。


「わらわたちの目的はここから別の方向にあるのじゃ。世話になったのじゃ! 賊は倒したから、ここから先は安全だと思うのじゃー!」


「そうか……。ではこれは、ここまでの給金だよ。少ないけど取っておいて欲しい」


 ちょっとお金をもらえてしまう。

 これはありがたい。


 キャラバンの護衛にも、損害は全く無かったようだ。

 他の冒険者たちからすると、影に潜る俺や、空から降りて来た竜騎士などは仰天ものだったらしいが、キャラバンの人たちには関係ない。


 彼らとは快く別れることになった。

 利用して済まんな……!

 被害がなくて本当に良かった!

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