第15話 ラーニング! 襲撃をやり過ごす、冴えたやり方。

 大量に取ってきたゴブリンの耳で、冒険者の店は一時騒然となった。

 ゴブリン砦からもゴブリンの姿が一掃された。


 商業都市側は、フリーになった土地は旨味があるからと、戦争に備えていたはずの戦力をこっちに差し向けた。

 ゴブリン砦を接収し、商業都市の砦にしてしまうつもりらしい。


 現金だ。

 だけど、それが商業都市国家ポータルというわけだ。


 旅立つ準備を手早く済ませたら、うちの騎士様が宣言した。


「さて、屋根を破った家にお金も出したし、旅立とう!」


「だがなエリカ。俺たちは二人だけ。公女殿下を守らないといけないだろう。どう護衛していくかだ。敵はいつ来るか分からないぞ」


「そうだな。それは近くまで行く行商たち……キャラバンをハシゴしていくのはどうだろう」


「標的を散らすんだな。いいんじゃないかな」


 追手に襲われるかもしれないキャラバンには、いい迷惑だろうが。

 しかし、そういう賊と戦うこと前提でキャラバンは組まれている。

 そして商業都市ポータルは、常に多くのキャラバンが出たり入ったりしているわけだ。


 護衛は常に欲しい。

 簡単に入り込めるというわけだ。

 というわけで、早速キャラバンに交渉に行った俺なのだ。


「案の定、冒険者をたくさん雇っていたからそこにねじ込んできた」


「ドルマはそういう交渉ができて凄いな……。私は全く思いもつかない」


「俺の場合は、エリカがバックアップしてくれるからよく分からない自信みたいなので満ち溢れているんだ。お陰でなんでもできるぞ」


「私も協力できてるのか? それはよかった!」


「……そなたら、本当に恋人同士ではないのか? わらわの前でいちゃついているようにしか見えぬのじゃが」


「違うぞ」


「違うぞ」


 こうして、公国の近くまで立ち寄るキャラバンに参加した。

 役割は護衛だから、ローテーションで外を歩かねばならない。

 その代わり、荷馬車の中で寝られるし、食事も出てくる。


「公女たるわらわだが、大義のためにこういう生活に耐える覚悟はできている……!! むむーっ、労働の後に口にするスープの美味いこと……!」


 ロッテ公女、晩飯の干し肉を戻したスープを美味そうに飲んでいる。

 保存食を使った飯を美味しく食べられるのは大切だな。


 もちろん、俺とエリカも味に文句は全く無い。

 俺たちみんな貧乏舌なのかも知れない。


 乾パンをスープにふやかして食べていた公女が、うーむ、と唸った。


「どうしたんだロッテ」


 流石にキャラバンの中で、彼女を公女と呼ぶわけにもいかない。

 なので、許しをもらって呼び捨てなのだ。


「全然襲撃が来ないと思ってのう……。わらわが学園都市を旅立った時は、毎日襲撃があり、護衛たちは日々減っていっていたのじゃ……。心が休まる暇など無かったのじゃ」


「それはもう、タイミングをずらしたからだろ。俺たちの先に行ってるキャラバンが、何度か襲撃を受けたらしい。ゴブリン退治中に、追手は必死になってロッテを探してたんだろう」


「そうか……。キャラバンの者たちには悪いことをしたな」


「そういうリスク込みで冒険者だからなあ。でもそろそろ、襲撃は来るんじゃない?」


「どうしてだ? 諦めたりしないのか?」


「エリカだったら諦めるか?」


「私は一度目標にしたことは絶対に諦めないな」


 断言したエリカへ、ロッテ公女が尊敬の眼差しを向ける。

 どんなに嘲笑われても、大騎士になると公言し、その夢を諦めていない彼女の言葉は重いのだ。


「多分向こうも同じで、ロッテの死体が確認されてない以上はずっと続けるつもりじゃないか? ただ、こちらからすると、かなりやりやすくなるとは思う。キャラバンを襲ったのかロッテを襲ったのか、他の冒険者達には見分けがつかないからだ。一緒になって戦ってくれるぞ」


「ううー、キャラバンには申し訳がないのじゃ! エリカは騎士として、こういうのは大丈夫なのか?」


「姫君を守ることが何より大事だからな! そのためなら手段は選ばないぞ!」


 俺とエリカの今やるべきことは、ロッテの護衛。

 そして彼女を無事、公国に送り届けることなのだ。


 さて、明け方頃に、あくびをするロッテを連れて馬車の外を歩いていると。

 襲撃が来た。


 馬車が急に動かなくなり、周りがわあわあ騒ぎ始めた。

 俺たちも、冒険者に紛れてこっそり見に行ってみる。


 すると、馬車の車輪を地面から生えた影の手がガッチリ掴んでいるではないか。

 厚みはペラッペラ。

 真っ黒で、まさしく影。


 そして近づいた冒険者たち目掛けて、影の手が振り回された。


「な、なんだウグワー!」


「これはウグワー!」


「よく分からない攻撃ウグワー!」


「追手じゃ! 確か奴らの中に影使いがおったのじゃ! 影を使って、自在に移動して不意打ちしてくる恐ろしいやつなのじゃ!」


 ロッテが思わず声を上げてしまったから、どうやら影使いに気付かれたようだ。

 影の手の動きが止まった。


「むっ! 影が近づいてくる!」


 丸い影が、猛烈な勢いで俺たちに迫る。


「とう!!」


 エリカがナタを振り下ろした。

 だが、それは地面に刺さるばかりで影には何のダメージもない。


 エリカを素通りした影は、ロッテの背後に回り込み、急速に実体化した。

 手にはナイフを握りしめている。


「ロッテ公女、ようやく見つけた……!! なんで予定よりもずっと遅くなってるんだ……! 保存食がギリギリのところだった……!!」


 あ、この刺客も苦労してるんだなあ。

 だが、それとこれとは話が別だ。

 俺は昨夜のスープの残りを使い、極小の渦潮カッターを作っていた。


「行け、スープカッター!」


 これを放つ。

 スープと、戻った干し肉の欠片がナイフを弾いた。

 肉が刺客の顔にペタっと飛んだ。


「ウグワーッ!?」


 よろめく刺客。

 この隙に、エリカと俺でロッテをガードした。


「な、なんだ肉か……」


 刺客は顔に張り付いた干し肉をパクリと食べ、俺たちを睨んだ。


「新たな護衛など、何人雇っても同じこと……。我が影の技の前ではな……!」


 刺客は再び、影の中に消えた。


「どこだ!?」


「ロッテか俺たちの背後だろう。数が少ないから簡単に見つけられるぞ。ほら!」


 今度はエリカの背後に出現したところだった。

 俺はエリカを突き飛ばしながら、振り下ろされるナイフに鎧を叩きつけた。


 ざっくりと、ナイフが鎧に突き刺さる。

 刺客としても想定していない角度からの割り込みだったからか、攻撃は鎧で止まったな。


『ラーニング!』


 俺は正直、こういうトンデモ技を使う奴らとの戦いに勝算があるのだ。

 なぜなら、こいつらのお陰で俺の技のレパートリーが増えていくからだ!


名前:ドルマ・アオーマーホウ

職業:青魔道士

所有能力:

・バッドステータスブレス

・渦潮カッター act2

・ゴブリンパンチ

・ジャンプ

・バックスタブ NEW!


 俺も影を使う技を手に入れたぞ。

 さあ、同じ技で相手をしてやろう。

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