第14話 空から襲撃、青魔道。くさい息お届けに参りました

 難攻不落、ゴブリン砦。

 とあるゴブリンキングが、周囲のゴブリンを集めて自らの領域を主張し、この土地にあった人間の町や村を滅ぼし、自らのものとした。

 それから数年の間、その土地はゴブリンが支配する王国となった……。


 ゴブリン砦は、この王国が人間たちの世界へと攻撃を加えるための前線基地なのだ……。


「という場所なんだが」


「明らかに危険な場所なのじゃ! ここ、寄り道気分で来ていいところじゃないのじゃー!!」


「大丈夫だ! 今は昼だから、ゴブリンの動きが鈍いからな! じゃあ行ってくれ、ドルマ!」


「ああ、ちょっと行ってくる。ジャンプ!」


 俺は飛び上がった。

 これ、垂直に飛び上がると凄い高さに行けるけど、斜め方向なら移動に使える。


 あの竜騎士が馬車に追いついたのも理解できる。

 馬車が横転したの、竜騎士の攻撃を食らったんだろうな。


「使うたびに、技が体になじんでいく感じがするなー。渦潮カッターもなんか、act2とかついてたし」


 周回しているゴブリンの頭上を飛び越えて、適当な樹木に着地する。

 これだけで物凄い距離を来たのが分かる。


 なにせ、ゴブリン砦が視認できる。

 ゴブリンたちは、まさか人間が空を飛んでくるとは思ってないから、全然俺に気付かない。


「確かロードは、ゴブリン砦までは侵入してたよな。そこで、俺が追っ払ったゴブリンたちがなだれ込んできて挟撃されて壊滅した。それってつまり……砦から他の巣穴にも繋がってるってことでは?」


 エリカと行動していると、考える役になる必要があるので、色々と頭を使う。

 おかげで深読みが得意になった気がする。


「ギギギギギギ!!」


「あっ、さすがに気付かれた」


 ゴブリンたちが石を投げてくる。

 中には、粗末な弓で矢を射てくるものとか、さらには魔法を使ってくるゴブリンがいる。


 矢や炎の塊が襲いかかってくるので、俺は空中から水袋にて撃退することにする。


「渦潮カッター……むっ、新しいのが使えそうな予感。ええと……拡散渦潮カッター!」


 水袋の中身が、ごっそり減った。

 その代わり、俺の目の前に無数の渦潮カッターが出現する。

 それは矢を切り裂き、炎の塊を打ち消し、地面のゴブリンたちへと降り注ぐ。


 あちこちから悲鳴が上がった。


 いかんいかん、水を大量に消費してしまった。

 途中で泉に着水し、たっぷり補充していく。

 そこからまたジャンプ。


 あっという間に、ゴブリン砦に到着だ。

 砦は木と土を組み合わせてつくられていた。

 よく崩れずに形を保ってるな。


 俺は一部を槍の石突で崩すと、大きく息を吸い込んだ。


「何も気にする必要のない、初の全力全開でのバッドステータスブレス! 行ってみよう!」


 吐き出す。

 明らかに吸い込んだ分を遥かに超える量の、紫や緑が混じり合った色合いの吐息がゴブリン砦に注ぎ込まれる。


 中で、大騒ぎが起こった。


「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」


 叫び声が断続的に聞こえる。

 途絶えない。

 どこからこのくさい息が注ぎ込まれているのか、探ろうとするやつもいるのかもしれないが……。


 息を吸ってしまえば、そのまま大量のバッドステータスにやられて倒れる。

 原因である俺に近づくほど、くさい息は濃くなるのだ!


 ということで……。

 五分ほど吐き出し続けただろうか。


「うおー、もう何も出ない……」


 俺は砦の屋根の上で寝転んだ。

 風の音しか聞こえてこなくなった。


 砦は完全な無音だ。 

 時々、建物のきしみが聞こえるだけ。

 地上にいたはずのゴブリンたちの声もない。


 俺がようやく体力を回復し、体を起こすと……周囲は死屍累々だった。


 この一帯にいたゴブリンのほとんどは、くさい息にやられて倒れている。

 一体全体、どこまで俺のくさい息は広がったんだろう。


 俺があれを吐き出せる時間の限界は五分。

 そこで、俺は全体力を使い切ってぶっ倒れる。


 だが、五分間吐き出され続けたくさい息は広がる。猛烈に広がる。

 俺はジャンプを繰り返しながら、どこまで広がったのかを確認した。


 ええと、大体……半径五百メートルくらいか。


 くさい息は空気よりも重いらしく、空を飛ぶ鳥たちは元気だった。

 空を飛べないゴブリンたちだけが、これにやられた。


「これ、耳を取り切れないなあ……」


 大漁と喜ぶよりも先に、戸惑いが来た。

 流石にこれを全部狩るのは無理だ。


 一旦エリカと合流して話し合おうではないか。

 俺が戻ってくると、ちょうどゴブリンの一体を投げナイフで仕留めたエリカがいた。


 十体ほどのゴブリンが倒れている。


「ドルマ! お帰り! 途中からゴブリンが何匹も逃げてくるからびっくりしたんだ。だけど、いい練習になったよ!」


「こ、腰が抜けるかと思ったのじゃー!」


 その辺りの草むらから、ロッテ公女が顔を出した。


「公女も無事で良かったなあ」


「危険じゃ危険じゃとは思っていたが、護衛対象であるわらわをこんな危険なところに連れて来るなんぞ、あの姉上でも想像しておるまい……! 危うく死ぬところじゃった……」


「姫君は私が盾になって守っていたはずだが!」


「う、うむ。エリカは強かったのじゃ! なんか、凄くハッスルしてナタを使って恐ろしく残忍な戦いを繰り広げたのじゃ! ナタって強いんじゃのう……」


「ああ! どんなモンスターでも頭を叩き割れば死ぬからな! 大事なのは思い切りと腕力と、全身の力だ!」


「その様子だと、何か掴めたな、エリカ」


「ああ! 私は強くなったぞ!」


「ところで相談があるんだが」


「なんだ?」


 俺はゴブリンを指さした。


「ここから砦まで、延々とゴブリンの死体が転がってる。流石に耳を全部持っていくのは無理だ」


「そうか! じゃあ百体までにしよう! 公女殿下、はい、これナイフです!」


「ひいー、わ、わらわもやるのかー!!」


 やるのだ。

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