第11話 その名は青魔道士

 武器を研ぎに出し、幾日か。

 エリカはナイフベルトを買い、研ぎ上がったナイフを大量に装備できるようになっていた。


「ドルマと同じような技が使えないから、私は私で、できることをさがしておかないとな!」


「真面目だなあ。そこがエリカのいいところだな」


「そ、そうか!? やっぱり大騎士を目指す者として、日々研鑽を積まなければいけないからな! えいっ、えいっ!」


 投石とナタを振る練習だ。

 騎士は石を投げたりナタで切りつけたりしない気がするが、後々何かの役に立つかもしれない……。


「ところで、俺も渦潮カッターに磨きをかけたんだ。見てくれ」


「なんだって!? どんなだ!」


「ここにランタン用の油がある。こいつを高速で回転させて……」


「ま、まさか!」


「油カッター!!」


 高速回転する油がすっ飛んでいった。

 だが、威力は水分を使ったものよりも弱い。

 その辺りの石塀を浅く削って飛び散った。


「ただ、火がついた油を飛ばせるんで応用次第かもしれない」


「面白いなあ。いいなあ……」


「今はまだ、面白い技止まりだけどな。くさい息みたいな凄いのを、またラーニングできるんだろうか。だけどそう言う状況だと命が危なそうでなあ」


「なにっ、死ぬのはよくないぞ。死なないように行こう」


「そうしようそうしよう。ところで……。俺は自分の能力みたいなものが見えるんだが」


「なんだ、それ!?」


「分からん。だけど見えるんだ。で、俺の職業がずっとすっぴんというのだったんだが」


名前:ドルマ・アオーマーホウ

職業:青魔道士

所有能力:

・バッドステータスブレス

・渦潮カッター act2

・ゴブリンパンチ


「青魔道士って知ってる?」


「青魔道士……。お祖父様が話していたことがある。今の冒険者たちが忘れてしまった職業が幾つかあるって。自然を操る風水士、伝説のモンスターを呼び出す召喚士、野生に身を任せて人間を超えた強さを発揮するバーサーカー、竜のように飛翔して攻撃を繰り出す竜騎士、そして……モンスターの技を自在に使う青魔道士だ」


 エリカの目が真剣なものになった。


「そう言えばドルマの名前はアオーマーホウって……。これってつまり、青魔法ってこと……?」


「偶然でしょ……」


 俺の家は由緒正しい農民だぞ。

 そんな凄まじい能力を持ったやつが先祖にいたなんて話、聞いたこともない。


 だが、エリカは目をきらきら輝かせるのだ。


「すごい……すごいぞ! 伝説の青魔道士を私は仲間にしたんだ! やった! 大騎士への道を進んでるぞ! 私も頑張って、ドルマに負けないようにしないとな!」


 最後は他力本願ではなく、自分を鍛えるところに着地する辺りがエリカのいいところだ。

 こうして盛り上がった俺たちは、鍛冶屋で研いでもらった刃物を受け取った。

 すると、ゴブリンの槍がちょっとマシな柄にくっついているじゃないか。


「おお、これは!!」


 エリカが目を丸くすると、鍛冶屋のおっさんがウィンクした。


「たっぷり研ぎに出してくれたからな! こいつは穂先だけなら大したもんだったから、柄をオマケでつけてやったんだよ。なに、うちの弟子の習作だ。気にせず使ってやってくれ」


「ありがとう! 槍なんて、凄い文明的な武器じゃないか」


 俺も感激してしまう。

 こうして、俺たち二人は大幅なパワーアップを遂げた。


 俺の武器が手斧と槍。

 エリカの武器にナイフがたくさん増えたわけだ。


「槍はエリカが持っていなくていいのか?」


「うーん、なんだか私、それはドルマが持っていた方がいい気がするんだ。予感なんだけど……」


「エリカの予感か……。よし、従おう!」


「信じてくれるのか!?」


「エリカの言うことだからな……。俺は尊重することにしているんだ」


「ありがとう!」


 ガシッと固い握手を交わすのだ。

 装備も充実、気持ちも充実。

 だけど懐はちょっぴり寒くなってきた。


 次の仕事を探さねばならない。

 冒険者というのは、こうやってコツコツ仕事をしていって、そのうち名声が高まって有名になったり、途中で野垂れ死んだりするものなのだ。


 だが、エリカとともに冒険をするのはなかなか楽しい。

 俺はこのままでもいいかなと思っている。


 もうちょっと有名になって、もう少し高い報酬を得られるようになったら、引退して店でも開いてのんびりと……。

 そんな俺の平々凡々とした理想は、想像した直後に砕かれることになった。


 猛烈な勢いで、背後から馬車が走ってくる。


「うわー!」


 エリカが慌てて避けた。


「危ないな!」


 彼女を引き寄せる俺だが、すぐ目の前で馬車は横転した。

 辺りは騒然としている。

 静かだった街に、いきなり暴走馬車が現れ、勝手に転がったのだ。


「くっ! これまでか……! だが……!!」


 横転した馬車から、剣を手にした騎士っぽいおっさんが姿を現す。


「あっ、騎士!!」


 エリカが目をキラキラさせた。

 騎士大好きだもんな。


 だが騎士のおっさん、次の瞬間には血を吐いた。


「ウグワーッ!? き、貴様いつの間に……!」


 そう、いつの間にか、おっさんの背後には男が立っていた。

 角の生えた鎧を纏った、禍々しい槍を持つ男だ。

 その槍が騎士に突き刺さっていた。


「空から降ってきた……?」


「竜のように空から襲いかかる騎士……竜騎士だ……! この場所に、青魔道士と竜騎士、伝説の職業が二つもいる!」


「待てエリカ、感激するのは後にするんだ! ヤバそうだこれ!」


「ドルマは青魔道士なのに心配性だなあ」


「俺はエリカの謎の自信が怖い」


 果たして、俺の心配は間違っていなかった。

 横転した馬車から、ドレスの少女が恐る恐る這い出してきたのだ。


「ど、ドリトール! ドリトール、死んでしまったのか! うわーっ、おしまいじゃー! わらわを守る騎士はみんな死んでしまったー!!」


 青い髪を、ツインテールのロール髪にした少女が、絶望した顔で叫ぶ。


「ロッテ公女だな。お前に恨みは無いが、その生命をもらう」


 竜騎士は無感情に呟いた。

 今、目の前で陰謀が行われている予感。


 そして、俺の傍らにいるはずの相棒が怪しい動きをしてるんだが。


「ていっ!!」


「ぬうーっ!!」


 エリカが竜騎士にナイフを投げつけた!

 なんだかんだでエリカの腕はいい。

 ナイフは挑発的に、竜騎士の槍に当たったのだ。


 当たってしまったのだ。


「邪魔をするのか、貴様ら。恨みは無いが、邪魔者には死んでもらう」


 竜騎士がこちらを睨んだ。

 いけないいけない。

 俺は素早く、水袋と手斧を抜く。


「死んでもらう、じゃない! そこにいるのが公女だと言っていたな! つまり、守られるべき姫君だ! 未来の大騎士である私が守るぞ!!」


「エリカ、それは宣戦布告だよ……!」


 こうして、町中にて竜騎士との勝負が始まってしまうのだった。


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