第10話 本隊が大打撃だって!?
ゴブリンの耳を切り取って帰ってきた。
俺たちは大規模なゴブリン討伐の、協力役冒険者という立場。
つまり、明確な報酬がない。
だが、ゴブリンの耳は常に冒険者の店が買い取っている。
これを国に提出して報酬をもらうらしい。
「ゴブリン二十七体の耳! いくらになるのかな!」
ゴブリン二十七体という言葉に、他の冒険者達がざわつく。
俺たちは二人。
二人なのに二十七体のゴブリンを倒したというのは、それこそ英雄みたいな大活躍だろう。
冒険者の店に買い取り手数料を取られるが、それを差し引いたとしても……。
「す、す、すごい……! 牛乳配達一ヶ月分だ……」
「大儲けじゃん……富豪じゃん……」
わなわな震えるエリカ、そして俺。
これだけの金額があっても、騎士らしいプレートメイルのガントレットすら買えなかったりするが。
「えっ、全然鎧買えないのか? このお金でも!? 高い……高いなあ、騎士への道は……」
「いかん、エリカがしょんぼりしてしまった。エリカ、どんな英雄だって、ゴブリンを退治しただけでいきなりフル装備にはならなかったはずだ」
「大騎士フォンテインは自宅にあった鎧を着て旅立ったから……」
「エリカだって、家から持ち出した革の上着を着て旅立っただろう。同じ! 同じ!」
「そうかな……そうかも……」
よし、乗せられてきた。
とりあえず、ゴブリンから奪った武器を研ぎに出すお金にしようという話でまとまっていたら……。
俺たちの他にゴブリン砦討伐に参加した面々が帰ってきたのだった。
明らかに、旅立ったときよりも数が少ない。
それにボロボロだ。
「くそっ!」
冒険者チームのリーダーであるあのロードが、悔しげにテーブルを叩いた。
「あれはなんなんだ! 陽動をやらせてゴブリンの数は減らしてたはずだろ! どうして後ろからゴブリンが溢れてきたんだ! お陰でとんでもない被害が出た! 二人だ! 俺のパーティで二人死んで、今は蘇生のために神殿にいる! だが一度死んで蘇ったら、そこから上は目指せない! あいつらは置き去りだ! なんだあのゴブリンは! どうしてあそこから出てきた!」
吠えるロードを、他の冒険者達がどうにかなだめているようだ。
俺とエリカは顔を見合わせた。
もしかして、ロードのパーティを背後から襲ったというのは……。
俺のくさい息で壊滅状態になったゴブリンだったが、まだまだ多くの足跡が巣穴にはあった。
あいつらはくさい息を避けて、どこに行ったのか。
巣穴は実は砦に繋がっていて、攻略中だったロードたちの背後にゴブリンたちが出現したんじゃないだろうか。
「不思議だな! 何があったんだろう!」
あっ、これは本当に分かってない顔だぞエリカ。
ならば、いらんことを言わないように、俺も口をつぐんでおこう。
「これであいつ、上に行く話はダメになるな」
「いきなり躓いたなあ……」
「ちょっとざまぁって思ってるわ。あいつ、新人を次々使い潰してたからさ」
おっ、周りの人望も無いぞ。
「なんだと、お前ら!? 他人の失敗が面白いかよ!」
ロードが食って掛かった!
これは荒れる。
冒険者の店が大荒れになるぞ。
ちなみに冒険者の店は、冒険者それぞれの人間関係に口出しはしない。
場を提供してるだけってことなんだと。
だから、ベテランが新人を使い潰すみたいなこともちょいちょいある。マスターがエリカを守ったみたいなのは特別だな。
ただ、それはそれとして、使い潰す冒険者が仲間に支持されるかっていうと、それはありえないよなあ。
ロードは完全にアウェーだ。
結果を出し続けてた時は良かったけど、一回躓いたら全部が敵になったな。
俺はざまあみろ、とこれを眺めていたのだが、黙っていないのが一人いた。
俺の隣にいた。
「ちょっと待って欲しいのだが!!」
「ああ!? なんだ!? ……えっ、お前ら、生き延びて……」
エリカは胸を張ってロードと向かい合う。
「二十七匹倒して、大儲けだぞ! これでゴブリンから奪った武器を研ぎに出せるんだ。仕事を紹介してくれてありがとう!!」
「お、お前ら……成功したっていうのか!? あんなゴブリンの巣に、二人きりで突っ込んで……」
「そうだぞ! ありがとう! あと聞きたいんだが、君は失敗したんだな!?」
「ぐうっ! こ、こいつ……! 煽ってるのか……!?」
「なら、たくさん残ってるんだな、ゴブリン! おいドルマ、聞いたか! またひと稼ぎ……ごほんごほん」
「本音が出たな。そういうことで、俺たちがゴブリンを退治するから、安心して欲しい……。仲間たちが無事蘇生できるといいな」
俺は露骨に煽る意味を込めて微笑んだ。
周囲の冒険者達が、どっと沸く。
ロードは拳を握りしめ、真っ赤になりながらわなわな震えている。
だがそこまでだ。
失敗した冒険者に、語る言葉などない。
ここは厳しい世界なのだ。
「……ところでエリカ、本気? ゴブリン砦を攻めるの?」
「もちろん! だけどその前に武器を研いでもらわなくちゃ……!」
うちの相棒、常に本気だな。
彼女と旅を続けていくというのも、また厳しい世界かも知れない……!
技を磨いて備えなくちゃな。
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