第5話 この技、気軽に使っていいやつだ!
「大丈夫かドルマ!! 死んだか!?」
エリカが慌てて俺を引っ張った。
心底動揺してる声だ。
「大丈夫大丈夫! いやあ、ヤバいなあのモンスター。なんなんだ!」
俺たちはぎりぎり、モンスターの間合いの外に出て様子をうかがった。
モンスターはこちらをジロジロ見ると、ニヤニヤ笑いながら井戸の中に戻っていく。
「さながら、いどまじんだな……」
「いいな! ではあいつは、いどまじんと呼ぼう!」
名前が決まってしまったな。
そしていどまじんが使ってくる、水の攻撃。
その名は渦潮カッター。
俺の能力欄にあるから技名まで判明してしまった。
これは使えるんだろうか?
俺は手に入れた能力を意識した。
「渦潮カッター……!」
呟いてみる。
だが、何も起こらなかった。
「大丈夫? ドルマ、頭打ったりしてない?」
「大丈夫大丈夫! 元気だから!」
いかんいかん、エリカに心配されてしまった。
「そうか、良かった! じゃあ次は私が行くぞ!」
短剣を握りしめて、いどまじんの縄張りに踏み込もうとするエリカ。
いやいやいや。
無茶が過ぎる。
鍋は確かにダメージを受けないけれど、それは上手く鍋に当たった場合のみだ。
鍋以外に当たったら、確実に死ぬ。
「うわーっ、鍋にガツンときた~!」
「あーっ、無策で突っ込むんだから!」
今度は俺がエリカを縄張りから引きずり出すことになった。
これは困った。
いどまじんまで接近できる手段が無いぞ。
「エリカ、お前には何も隠し事はしないつもりなので打ち明けるが」
「おっ、なんだ!」
「実は今、あいつの技を受けて、俺はそれを覚えたらしい。っていうか、くさい息も子供の頃にモンスターから喰らって覚えたんだが」
「そうなのか!? それってもしかして凄くないか!?」
「凄いんだろう。渦潮カッターという技なんだが、使えなかった」
「ああ、さっきの呟きはそれか! でもなんで使えなかったんだ?」
「分からない。何か足りないのかもしれないな」
何が足りないだろうか。
いどまじんは武器を持っているようには見えない。
違いと言えば、井戸にいることで、渦潮カッターは井戸水を使っているだけ……。
「水……!?」
「お前ら、何をいつまでもぶつくさ言っておるんじゃ! 冒険者なんだからワーッと特攻せい!! 命がけで退治しろー!」
村のじいさんがわあわあとまくし立てる。
その手には、秘蔵だという梅酒!
あるじゃないか、そこに、水が!
一部アルコールだけど!
「じいさん、そいつをもらうぞ!」
「あっ、わ、わしの梅酒に何をするお前ーっ!!」
「じいさんの梅酒が村を救うんだ! 行くぞエリカ! 俺の予想が確かなら、これで行ける!」
「ああ! 私は君を信じる! 思う存分やってくれドルマ!!」
信頼してくれる人がいる。
なんと心強いことであろうか。
エリカを背中に隠しながら、梅酒のビンを片手に進む俺。
今、いどまじんの縄張りに踏み込む……!
井戸から渦巻きが起き上がり、いどまじんが笑いながら攻撃を放ってきた。
渦潮カッター!
「行くぞ! 渦潮……梅酒カッター!!」
俺が叫ぶと同時に、ビンの頭が砕けた。
梅酒色の渦巻きが、真っ向から渦潮カッターを迎え撃つ。
「ぬおーっ! わ、わしの梅酒がーっ!?」
「効いてる! じいさんの梅酒が効いてるよ!!」
いどまじんは驚愕に目を見開いたあと、立て続けに渦潮カッターを放ってきた。
迎え撃つ俺、梅酒カッターを連打だ!
減っていく梅酒!
「わしの梅酒がーっ!?」
その隙に、エリカがいどまじんへと駆け寄っていた。
いどまじんはエリカを視認していても、反応ができない。
一瞬でも気をそらしたら、俺の梅酒カッターが押し勝つ!
いいぞいいぞ、この技!
水分が持つ限り、いくらでも放っていやつだ!
まあ、梅酒の残りは少ないけど。
「いどまじん! 終わりだあーっ!!」
叫びながら、エリカが全力で短剣を振り回した。
いどまじんを切り裂く斬撃。
ついにモンスターの体勢が崩れた。
「梅酒カッター!!」
そこに炸裂する、俺の渦潮カッター。
いどまじんは天を仰ぎながら、一瞬痙攣した。
『ウ、ウ、ウグワーッ!!』
そして、まるで水のようになって飛び散ってしまったのだった。
一瞬の静寂に包まれる村。
「やった……やった!」
「モンスターが倒されたぞ!」
「やった、やったぞー!」
「冒険者たちがやってくれたー!!」
「わしの梅酒がーっ!!」
「おじいさん!」
大歓声が巻き起こった。
なお、梅酒はほんのちょっぴりしか残らなかったぞ。
「じいさん、ありがとう。あんたの梅酒のお陰で勝てた……」
「そうか……そうか……。うう……村を救う力になったのなら良かったわい……。さっきはあんたたちを、ちゃんとしてない冒険者なんて呼んで悪かった。あんたたちは、本物の冒険者だ! あと、梅酒はモンスターを殺した梅酒として新しく作って売り出すことにするよ」
転んでもただでは起きないじいさんだ。
こうして村は救われた。
俺たちも、最初の冒険を終えることができた。
「やった……やったぞドルマ! わた、私、初めてモンスターをやっつけた!」
「初めてだったかあ」
「それにドルマ、やったじゃないか! なんだったんださっきの技は!」
「あれか! あれなあ。多分、この井戸水でも再現できる……」
井戸水をひとすくい手にして、呟く。
「渦潮カッター」
手のひらの水が回転を始め、あっという間にそれは超高速になり、ついにはぶっ飛んで行ってしまった。
「おおー!」
「オー」
「オー」
エリカと村人たちがどよめいた。
「どうやらこれが、俺の力らしい。モンスターの技を受けて、それを自分のものにする! なんだかだんだん分かってきたぞ!」
「そうか! それは未来の大騎士の仲間に相応しいな!」
エリカが嬉しそうだ。
そして、俺たちが鍋を拝借した奥さんが、真新しい鍋を差し出してきた。
「これは……?」
「どうか、これを使っておくれ。あんたたちがちゃんとした防具を買えるようになるまで、この鍋があんたたちを守ってくれるから。あ、さっきの鍋はモンスターの攻撃を受け止めた鍋だってことで、見世物にするから」
たくましい!
だが、鍋の提供はありがたい。
俺は今後、特に体を張ることになりそうだし、ありがたく使わせてもらうことにしよう。
こうして、俺たちの最初の仕事は終わったのだった。
エリカにとっては、大騎士への一歩目というところだろうか。
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